表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑う母の物語  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/108

「止まらなかった車」後編

第90話「止まらなかった車」後編


「姉ちゃんッ!!」


 誠一の叫びが響く。


 道路に倒れた美鈴は動かない。


 額から血が流れていた。


 左腕も不自然な方向へ曲がっている。


 周囲は騒然としていた。


「きゃあああ!!」


「誰か救急車!!」


「子ども下がって!!」


 その時だった。


「看護師です!! 離れてください!!」


 近くを歩いていた女性二人が駆け込んできた。


 二人とも、博多南総合病院の看護師だった。


 一人は美鈴のそばへ膝をつく。


 三十代後半くらいの女性。


 顔つきが一瞬で変わる。


 完全に“医療従事者の顔”だった。


「あなた、ご家族!?」


 誠一は震えながら答える。


「お、弟です……!!」


「名前は!?」


「黒崎美鈴……!!」


「黒崎さん! 聞こえますか!!」


 呼びかけ。


 反応なし。


 看護師はすぐに首元へ手を当てる。


 呼吸確認。


 胸の動きを見る。


 さらに心音確認。


 次の瞬間。


「AED!! 誰かAED持ってきてください!!」


 鋭い声が飛ぶ。


 もう一人の看護師が即座に動く。


「はい!」


 そしてスマホを取り出す。


「119番! 大型交通事故です! 複数傷病者! 場所は――」


 同時に周囲へ叫ぶ。


「歩ける人は歩道側へ! 重傷者は動かさないでください!!」


 完全なトリアージだった。


 さらに彼女は、事故車へ向かう。


 フロントガラスの向こう。


 高齢男性ドライバーが呆然としていた。


「聞こえますか!?」


「わ、わしは……」


「意識ありますね!? 動かないでください!!」


 一方。


 美鈴のそば。


 看護師が胸骨圧迫を始めていた。


「1、2、3、4――」


 強く。


 速く。


 絶え間なく。


 人工呼吸。


 再び胸骨圧迫。


 誠一は呆然としていた。


 頭が真っ白だった。


 目の前の光景が信じられない。


 数分前まで。


 笑っていた。


 ふざけていた。


 姉ちゃんが。


「君!!」


 看護師の声で我に返る。


「近くに店あります!? AED探して!!」


「は、はい!!」


 誠一は全力で走った。


 ショッピングモール入口へ飛び込む。


「AED!! AED貸してください!!」


 館内スタッフが驚く。


「えっ!?」


「事故です!! 人が倒れてるんです!!」


「すぐ持ってきます!!」


 店員が走る。


 誠一も震えていた。


 息が乱れる。


 涙が止まらない。


「姉ちゃん……!!」


 AEDを受け取る。


 そして再び全力で戻った。


 事故現場はさらに混乱していた。


 パニック。


 悲鳴。


 煙。


 ガソリン臭。


 誠一は看護師へAEDを渡す。


「ありがとうございます!」


 すぐに電極パッド装着。


『ショックが必要です』


 電子音声が響く。


「離れてください!!」


 看護師が叫ぶ。


 バチンッ!!


 美鈴の身体が跳ねる。


 誠一の心臓も跳ねた。


「再開します!!」


 再び胸骨圧迫。


 人工呼吸。


 汗。


 血。


 怒号。


 そして。


 遠くから。


 サイレン。


 ウゥゥゥゥゥ――!!


 救急車。


 レスキュー車。


 パトカー。


 次々と集結する。


 現場は完全に騒然としていた。


「こちら重傷者一名! 意識なし!」


「多重事故! 二次災害注意!」


「車両内閉じ込めあり!」


 救急隊が駆け込む。


 担架。


 酸素。


 点滴。


 ネックカラー。


 現場指揮が始まる。


 美鈴の周囲にも救急隊員が集まる。


「女性、20歳!」


「交通外傷!」


「意識レベル低下!」


「SpO2低下!」


 誠一は震えていた。


「姉ちゃん……」


 救急隊員が酸素マスクを装着。


 点滴ライン確保。


 止血。


 固定。


「ストレッチャー搬送します!」


 美鈴が慎重に持ち上げられる。


 ぐったりしたまま。


 反応がない。


 誠一の呼吸が乱れる。


「ご家族ですね!?」


「はい……!!」


「同乗してください!!」


 誠一は救急車へ飛び乗った。


 ドアが閉まる。


 サイレン。


 発進。


 救急車内。


 狭い空間の中で、緊急処置が続く。


「血圧低下!」


「ルート追加!」


「瞳孔確認!」


 隊員たちの声が飛ぶ。


 誠一は壁際で震えていた。


 何もできない。


 ただ。


 祈ることしかできない。


「姉ちゃん……」


 酸素マスク越しの美鈴は、まるで眠っているようだった。


 でも。


 動かない。


 返事もない。


 その現実が。


 誠一を押し潰していく。


 救急車は、サイレンを鳴らしながら博多の街を突き進む。


 向かう先は――


 博多南総合病院。


 黒崎美鈴の運命を左右する、緊急搬送だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ