最後の学生生活
第86話
最後の学生生活
短大卒業まで、あとわずか。
*
最後の授業。
最後の実習。
最後のレポート。
美鈴は、一日一日を噛み締めるように過ごしていた。
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博多南幼稚園。
実習最終日。
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「みすずせんせー!!」
園児たちが走ってくる。
抱きつく。
泣く子までいる。
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「せんせー、もう来んと?」
「うぅ……」
美鈴、完全に涙腺崩壊寸前。
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主任の先生が微笑む。
「黒崎先生」
「はい」
「正式に決まりましたよ」
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美鈴、一瞬止まる。
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「四月から、博多南幼稚園勤務です」
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数秒。
言葉が出ない。
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「……本当に?」
「えぇ」
「よろしくお願いしますね、黒崎先生」
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美鈴、深く頭を下げる。
「よろしくお願いします!!」
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園児たちも大歓声。
「やったぁぁぁ!!」
「みすずせんせー来るぅ!!」
「ほんとに先生になるん!?」
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先生たちも笑顔だった。
実習の時点で分かっていた。
黒崎美鈴は、“子どもに愛される先生”になる。
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一方――
フェニックス福岡。
こちらはますますカオス化していた。
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「黒崎対策、どうする?」
「無理です」
「ですよね」
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全国の実業団監督たち、頭抱える。
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普通のジャンプサーブ。
緩急。
高速フォーク。
落ちる。
曲がる。
伸びる。
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しかも。
どれが飛んでくるか、全く読めない。
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「……もう祈るしかない」
「レシーブ上がったら儲けもんです」
ついに相手チーム、悟り境地へ。
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実況席。
『黒崎、美鈴サーブ入ります!』
その瞬間。
観客ざわつく。
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「来るぞ……」
「どれや……?」
「お願い普通ので……」
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ドゴォッ!!
サーブ炸裂。
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レシーブ吹っ飛ぶ。
観客悲鳴。
実況絶叫。
『まただぁぁぁ!!』
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神崎亜美、苦笑い。
「完全に兵器扱い」
松永沙紀もうなずく。
「しかも進化し続けてる」
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さらに。
宗像高校の“黒崎イズム”も継承されていた。
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考えるバレー。
流動的戦術。
全員攻撃。
全員守備。
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そして。
その後輩たちが、次々とフェニックス福岡へ加入。
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「え、また宗像!?」
「何この供給源!?」
他チーム監督、絶望。
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さらに。
今年の新加入選手。
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■ 柚葉
■ 咲良
■ 琴音
⸻
全員、宗像高校出身。
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しかも。
全員クセが強い。
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「先輩! パスタ持ってきました!」
「試合前に重い!!」
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「監督! 回転数理論について――」
「まずレシーブしなさい!!」
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体育館、大爆笑。
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だが。
コートに立てば強い。
異常に強い。
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実況も言う。
『フェニックス福岡、もはや“第二宗像高校”です!!』
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一方。
宗像高校では――
イタリアン研究会。
まさかのテレビ取材。
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「本日は、全国屈指の強豪校に潜入!」
「違うんです!! うちはバレー部なんです!!」
藤崎監督、全力否定。
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だが。
画面には。
巨大鍋。
寸胴。
コック帽。
なぜかスパイクフォームで湯切りする部員。
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全国放送。
完全に終わった。
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「だから何の部活なんだよぉぉぉ!!」
視聴者大爆笑。
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そして春。
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短大卒業式。
袴姿の学生たち。
笑顔。
涙。
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美鈴もまた、静かに空を見上げていた。
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ここまで長かった。
怪我。
挫折。
苦しみ。
努力。
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でも。
全部繋がっていた。
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卒業証書を受け取る。
拍手。
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美鈴は少しだけ目を潤ませる。
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(……やっとここまで来た)
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そして。
四月。
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博多南幼稚園。
新任教師・黒崎美鈴。
ついに、本当の先生としての人生が始まる。
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次回予告
第87話「新任先生、黒崎美鈴」
博多南幼稚園での勤務初日。
だが、美鈴はいきなり“先生の現実”を知ることになる。
泣く園児。
止まらないケンカ。
大量の書類。
「先生って、こんな大変なん……!?」
一方フェニックス福岡では、“黒崎包囲網”が全国規模へ発展。
「サーブ打つ前に精神削られるんやけど!」
さらに宗像高校イタリアン研究会、まさかのレシピ本企画始動。
「だからバレー部ぉぉぉ!!」
そして――
地下鉄で再び、美鈴を見かける優馬。
まだ話しかける勇気はない。
次回、第87話「新任先生、黒崎美鈴」。
黒崎美鈴、本当の“人生の試合”が始まる。




