表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑う母の物語  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/95

短大生活、最後の冬。

 卒業前夜


 短大生活、最後の冬。


 *


 卒業論文。


 最後の実習。


 フェニックス福岡での試合。


 そして卒業準備。


 *


 黒崎美鈴の毎日は、相変わらず慌ただしかった。


 *


 だが。


 その忙しさの中にも、少しずつ“終わり”が見え始めていた。


 *


「……もう卒業かぁ」


 地下鉄の窓に映る自分を見ながら、美鈴は小さく呟く。


 *


 地下鉄空港線。


 博多方面。


 この路線には、何度も助けられた。


 大学。


 実習。


 試合。


 毎日の移動。


 *


 そして。


 この日もまた。


 いつものように、美鈴は地下鉄を利用していた。


 *


 一方――


 その頃。


 改札を抜けていた一人の青年。


 *


 スーツ姿。


 少し寝不足気味。


 肩にはノートパソコンの入ったバッグ。


 *


 小倉優馬。


 久留米から博多のIT企業へ通う、駆け出しサラリーマンだった。


 *


「うわ、今日もギリギリ……」


 時計を見る。


 急ぎ足。


 *


 その時。


 ポトッ。


 ポケットから、ハンカチが落ちた。


 *


 だが優馬は気づかない。


 そのままホームへ向かおうとする。


 *


「すみません」


 後ろから声。


 *


 優馬が振り返る。


 そこにいたのは――


 長身の女性。


 黒髪。


 スポーツバッグ。


 優しそうな笑顔。


 *


「落とされましたよ」


 美鈴が、ハンカチを差し出していた。


 *


「あっ……!」


 優馬、慌てる。


「す、すみません! ありがとうございます!」


「いえいえ」


 美鈴は自然に笑う。


 *


 その瞬間だった。


 *


 優馬の中で、何かが止まる。


 *


(……え)


 心臓が跳ねる。


 *


 ただの一瞬。


 数秒。


 それだけ。


 *


 なのに。


 なぜか目が離せなかった。


 *


 美鈴は軽く会釈する。


「じゃあ」


 そして、そのままホームへ向かう。


 *


 優馬、完全停止。


 周囲の流れから一人だけ取り残される。


 *


「……え?」


 数秒後。


 我に返る。


 *


(めちゃくちゃ綺麗な人やった……)


 顔が熱い。


 *


 しかも。


 笑顔が頭から離れない。


 *


 電車が来る。


 人が乗る。


 でも。


 優馬はまだ呆然としていた。


 *


「小倉さん?」


 同僚から声をかけられる。


「えっ!?」


「どうしました?」


「いや、なんか今……」


 言葉にならない。


 *


 人生には時々。


 たった数秒で、何かが変わる瞬間がある。


 *


 優馬にとって。


 それが、この瞬間だった。


 *


 もちろん。


 この時の美鈴は、何も知らない。


 *


 “ハンカチを拾っただけ”。


 それくらいの感覚。


 *


 だが。


 運命は、静かに動き始めていた。


 *


 一方――


 フェニックス福岡。


 こちらはいつも通りハード。


 *


「黒崎ぃぃ!!」


 松永沙紀の叫び。


 ドゴォッ!!


 新型サーブ炸裂。


 *


「また曲がったぁぁ!!」


「今の何回転!?」


 味方すら困惑。


 *


 だが。


 全国の実業団も、本格的に“黒崎対策”を始めていた。


 *


 試合映像。


 フォーム解析。


 回転分析。


 落下角度測定。


 *


 神崎亜美、苦笑い。


「ほんとプロ野球みたいになってきたね」


 美鈴、頭抱える。


「なんでサーブに解析班つくんですか……」


 *


 一方――


 宗像高校。


 今日も平和に暴走中。


 *


「監督!!」


「今度は何!!」


 咲良が叫ぶ。


「イタリアン研究会、来年度も存続決定しました!!」


「だから何の部活なん!!」


 *


 さらに。


 文化祭売上ランキング。


 第一位

 宗像高校バレー部

『高速フォークパスタ』


「なんで優勝しとるん!!」


 体育館大爆笑。


 *


 だが。


 そんな笑いの日々の中でも。


 時間は確実に進んでいた。


 *


 卒業。


 就職。


 新しい人生。


 *


 そして。


 まだ誰も知らない。


 白金荘で。


 数年後。


 運命が再び交差することを。


 次回予告

 第86話「最後の学生生活」


 卒業を目前に控え、美鈴は最後の学生生活を噛み締めていた。


 仲間との時間。


 最後の授業。


 最後の実習。


 そして、最後の春休み。


 一方フェニックス福岡では、美鈴の新型サーブがついに“全国最警戒兵器”扱いに。


「黒崎専用マニュアル完成しました」


「もう兵器やん!!」


 さらに宗像高校では、“イタリアン研究会”がまさかのテレビ取材決定。


「全国放送やめぇぇぇ!!」


 そして地下鉄では、あの日ハンカチを拾ってくれた女性のことを、優馬がまだ忘れられずにいた――。


 次回、第86話「最後の学生生活」。


 黒崎美鈴と小倉優馬、まだ知らない未来へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ