面接という名の試合
第83話
面接という名の試合
教員採用試験当日。
朝。
美鈴は鏡の前に立っていた。
*
スーツ姿。
髪を整える。
深呼吸。
*
「……よし」
バレーの全国大会前とは、また違う緊張感だった。
*
筆記。
実技。
そして――
面接。
*
ここで、自分の未来が決まる。
幼稚園教諭になれるか。
子どもたちと向き合う人生を歩めるか。
*
試験会場。
待合室。
周囲には緊張した学生たち。
参考書を見返す者。
無言で俯く者。
手が震えている者もいる。
*
だが。
美鈴は意外なほど落ち着いていた。
*
(……春高決勝より静かやね)
むしろ。
観客一万人の体育館より、気が楽だった。
*
呼ばれる。
「黒崎美鈴さん、どうぞ」
「はい!」
返事は綺麗に通った。
完全に体育会系。
*
面接室。
試験官三人。
空気は張り詰めている。
*
だが美鈴は。
椅子に座った瞬間。
自然と背筋が伸びた。
*
「それでは質問します」
「はい」
「あなたは、どんな先生になりたいですか?」
*
一瞬。
静寂。
*
美鈴は考える。
博多南幼稚園の子どもたち。
泣いていた子。
一人でいた子。
笑顔で抱きついてきた子。
*
そして。
バレー人生。
仲間。
レシーブ。
支えること。
*
美鈴は、ゆっくり答える。
「私は、“安心できる先生”になりたいです」
*
試験官たちが顔を上げる。
*
「子どもって、小さいようで、すごく色んなこと考えとるんです」
「寂しかったり、不安だったり、怖かったり」
「でも、それを上手く言葉にできん子も多い」
*
美鈴は続ける。
「だからまず、“受け止める”ことが大事やと思うんです」
*
「それは、バレーのレシーブと少し似ています」
「強いボールを、ただ弾くんじゃなくて、ちゃんと受け止めて、繋ぐ」
「子どもたちの気持ちも、一緒やと思います」
*
試験官たちは静かに聞いていた。
*
さらに質問。
「黒崎さん、あなたの長所は?」
美鈴、一瞬考える。
*
「……声がでかいです」
面接室、少し空気が緩む。
*
「あと、よく笑います」
「子どもたちって、先生が笑うと安心するんです」
*
試験官の一人が微笑む。
「逆に短所は?」
*
美鈴、真顔。
「料理でたまに爆発事故起こします」
数秒沈黙。
そして。
試験官、吹き出す。
*
「爆発事故?」
「ペペロンチーノがですね……」
「詳しくは聞かないでおきます」
面接室、大爆笑。
*
緊張が完全に解けた。
*
だが。
美鈴はただウケを狙ったわけじゃなかった。
自然体だった。
*
最後の質問。
「あなたにとって、教育とは?」
*
美鈴は少しだけ考える。
そして静かに答える。
*
「未来を支えることです」
「今は小さくても、その子たちはいつか大人になります」
「だから私は、“大丈夫”って思える場所を作りたいです」
*
試験官たちは、静かにうなずいた。
*
面接終了。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
美鈴、綺麗に一礼。
*
部屋を出た瞬間。
「はぁぁぁぁ〜〜……」
さすがに緊張していた。
*
一方――
フェニックス福岡。
こちらでは、新型サーブが公式戦デビュー。
*
観客ざわつく。
「今の何!?」
「落ちると思ったら伸びた!?」
「え、曲がった!?」
*
審判まで困惑。
「……今の、どう曲がった?」
実況、大興奮。
『黒崎美鈴、新兵器完成かぁぁ!!』
*
さらに。
宗像高校。
文化祭準備。
*
「監督!!」
「嫌な予感しかしない」
咲良が敬礼。
*
「イタリアン研究会、文化祭出店許可出ました!」
「なんで通ったぁぁぁ!!」
*
しかも。
メニュー表。
・アルデンテ焼きそば
・高速フォークパスタ
・レシーブスープ
「ネーミングどうなっとるん!!」
体育館爆笑。
*
そして数日後――
一本の電話。
*
「黒崎美鈴さん」
「はい!」
「採用、内定です」
*
一瞬。
時間が止まる。
*
「……っ!!」
美鈴、目を潤ませる。
*
ついに。
夢への扉が開いた。
次回予告
第84話「未来への内定通知」
教員採用内定を勝ち取った美鈴。
だが、夢への道はまだ終わりではなかった。
卒業論文。
最後の実習。
そして社会人バレー。
忙しさはさらに加速していく。
一方フェニックス福岡では、美鈴の新型サーブ対策が全国に広まり始める。
「黒崎対策班、結成や」
「なんで専用班できとるん!?」
さらに宗像高校文化祭、“高速フォークパスタ”がなぜか大行列。
「もう意味が分からん!!」
次回、第84話「未来への内定通知」。
黒崎美鈴、“先生になる日”へ向かって走り続ける。




