夢へ続く試験
第82話
夢へ続く試験
短大二年。
黒崎美鈴の毎日は、さらに忙しさを増していた。
*
大学。
実習。
レポート。
フェニックス福岡での練習。
そして――
教員採用試験。
*
受からなければ。
幼稚園教諭にはなれない。
夢は届かない。
*
白金荘二〇一号室。
夜九時。
美鈴は机に向かっていた。
教育法規。
発達心理。
幼児教育論。
ノートにはびっしり書き込み。
*
「……頭こんがらがるぅ」
ぐったり。
だが。
その横には、フェニックス福岡の試合動画。
完全に“文武両道フル回転”状態だった。
*
それでも。
美鈴には一つだけ決めていることがあった。
身体を壊さないこと。
*
どんなに忙しくても。
食事。
休養。
これは絶対に雑にしない。
それがアスリートとしての基本だと知っていた。
*
もちろん。
忙しい日は即席料理にも頼る。
カップ麺。
冷凍食品。
レトルト。
でも。
毎日それではダメ。
*
美鈴は冷蔵庫を開ける。
「今日は何作ろっかなぁ」
中を見つめる。
野菜。
卵。
鶏肉。
ラディッシュ。
*
「よし」
エプロン装着。
*
今夜のメニュー。
酢の物。
ラディッシュを使った美鈴特製サラダ。
野菜スープ。
そして雑穀ご飯。
*
包丁の音が響く。
トントントン。
高校時代より、かなり上達していた。
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「……前はペペロンチーノ爆発させかけたもんね」
一人で苦笑い。
*
料理をしながら、美鈴は考える。
身体は食べたものでできる。
だから。
何を食べるかも大事。
*
試験勉強も同じ。
無理しすぎれば壊れる。
だから。
ちゃんと休む。
*
時計を見る。
十時四十分。
「よし、今日はここまで」
どれだけ忙しくても。
夜十一時には勉強を終える。
それも自分ルールだった。
*
お風呂。
湯気。
「はぁぁぁ〜……」
疲れが抜けていく。
左足首をゆっくりマッサージする。
*
社会人バレー。
新型サーブ。
負担は確実に増えていた。
特に左足。
古傷は、簡単には消えない。
*
神崎亜美の言葉を思い出す。
『無茶したら、また壊れるよ』
美鈴は静かにうなずく。
「分かっとる」
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そして十一時半。
布団へ入る。
睡眠。
これも大事な練習。
*
一方――
フェニックス福岡。
新型サーブは、ついに完成形へ近づいていた。
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普通のジャンプサーブ。
緩いサーブ。
高速フォーク。
そして。
“予測以上に伸びる”変化球。
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相手は読めない。
落ちると思えば伸びる。
伸びると思えば落ちる。
*
松永沙紀が苦笑する。
「ほんと嫌なサーブになったね」
美鈴、少し笑う。
「最高の褒め言葉です」
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一方――
宗像高校。
こちらも進化を続けていた。
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全国の監督たちが頭を抱える。
「宗像高校、対策不能です」
「試合ごとに形が変わる」
「誰が中心なのか分からん」
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これこそ。
黒崎美鈴が残した最大の遺産。
“考えるバレー”。
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そして夏。
インターハイ。
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宗像高校、再び全国制覇。
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決勝。
最後の一点。
スパァン!!
コートへ突き刺さるスパイク。
試合終了。
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「よっしゃあぁぁぁ!!」
歓声。
抱き合う部員たち。
涙。
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藤崎監督は、静かに笑った。
「……ちゃんと受け継がれとるね」
コートには。
黒崎美鈴がいなくても。
確かに“宗像高校のバレー”が生きていた。
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その頃。
白金荘。
テレビで試合結果を見た美鈴は、小さく笑った。
「みんな、おめでとう」
少しだけ涙ぐみながら。
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自分の高校時代は終わった。
でも。
自分が残したものは、ちゃんと未来へ繋がっている。
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そして。
美鈴自身もまた。
次の夢へ向かって、歩き続けていた。
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次回予告
第83話「面接という名の試合」
教員採用試験が目前に迫る。
筆記。
実技。
そして最大の難関――面接。
「あなたは、どんな先生になりたいですか?」
美鈴は、自分の言葉で夢を伝えようとする。
一方フェニックス福岡では、新型サーブがついに公式戦で猛威を振るう。
しかし、その異質すぎる軌道に審判団まで困惑。
「……今の、どう曲がった?」
さらに宗像高校では、“イタリアン研究会”がなぜか文化祭出店を計画。
「だからここバレー部やけん!!」
次回、第83話「面接という名の試合」。
黒崎美鈴、“未来の先生”として初めて試される。




