白金荘の隣人
第81話
「白金荘の隣人」
短大一年の終わり。
実習。
フェニックス福岡。
初めての一人暮らし。
目まぐるしい毎日だった。
それでも、美鈴は少しずつ新しい生活に慣れ始めていた。
白金荘二〇一号室。
夜。
机には実習ノート。
教育法の教科書。
そして。
完全に湯切りだけされたカップ焼きそば。
美鈴
「……またソース入れ忘れた」
数秒後。
「これ焼きそばじゃなくて麺やん」
ひとりツッコミ。
誰もいない部屋。
だが本人は真剣だった。
翌朝。
廊下へ出る。
すると二〇二号室の前に段ボール。
家具。
家電。
引っ越し業者。
美鈴
「隣、誰か入るんや」
大家のおばちゃんが通りかかる。
大家
「あら黒崎さん」
美鈴
「おはようございます」
大家
「来月には埋まるみたいよ」
美鈴
「そうなんですね」
大家
「若い会社員さんらしいわ」
美鈴は軽く頷く。
その時は。
特に気にも留めなかった。
一方その頃。
久留米市。
駅前。
「やばいぃぃぃ!!」
全力疾走する青年。
小倉優馬。
二十三歳。
IT企業勤務。
社会人一年目。
優馬
「プレゼン今日やったぁぁぁ!!」
電車。
プシュー。
ドア閉まる。
優馬
「あぁぁぁぁぁ!!」
駅員苦笑。
駅員
「次の列車をご利用くださーい」
優馬
「終わった……」
ベンチに崩れ落ちる。
まだ彼は知らない。
数年後。
人生を変える女性と出会うことを。
そして。
その舞台が白金荘になることを。
一方。
フェニックス福岡。
練習試合。
松永沙紀
「来い美鈴!」
美鈴。
高速サーブ。
ドゴォッ!!
味方顔面直撃。
全員静止。
神崎亜美
「味方壊してどうすんの!!」
松永
「痛っ!!」
美鈴
「ご、ごめんなさい!!」
しかし。
そのサーブは確実に進化していた。
普通のサーブ。
高速サーブ。
緩急。
落差。
どれが来るか分からない。
監督
「これは武器になるな」
美鈴
「もっと磨きます」
宗像高校。
体育館入口。
新しい張り紙。
【理科実験禁止】
顧問
「誰が増やした」
咲良
「監督!!」
顧問
「嫌な予感しかしない」
咲良
「イタリア料理研究会を設立します!」
顧問
「ここバレー部ぃぃぃ!!」
体育館爆笑。
しかし試合になると別人。
全国屈指の完成度。
対戦校監督
「何をやってくるか全く分からん……」
これこそ。
黒崎美鈴が残した財産。
『考えるバレー』
季節は流れる。
美鈴は短大二年へ。
教員採用試験。
本格的な勝負が始まろうとしていた。
白金荘。
深夜。
参考書を開く美鈴。
窓の外の街灯。
静かな夜。
まだ。
隣人の顔も。
未来の夫の存在も。
知らないまま。
机へ向かう。
「絶対、先生になる」
その決意だけを胸に。
次回予告
第82話「夢へ続く試験」
短大二年生となり、教員採用試験へ向けた本格的な勉強が始まる。
だが、美鈴は初めて“勉強だけでは届かない壁”を知る。
「子どもを見る力も、先生には必要です」
一方フェニックス福岡では、新型サーブがついに完成間近。
しかしその代償として、左足首への負担が再び増し始めていた。
「無茶したら、また壊れるよ」
さらに白金荘では、隣の部屋に新しい住人が入るという噂が広がる。
「どんな人なんやろ……?」
そして宗像高校では、ついに“イタリアン研究会”設立申請が提出される。
「だからここバレー部ぉぉぉ!!」
次回、第82話「夢へ続く試験」。
黒崎美鈴、それぞれの未来が少しずつ動き始める。




