ライバル、同じコートへ
第77話
ライバル、同じコートへ
フェニックス福岡。
実業団リーグ開幕戦。
会場の空気は、高校バレーとはまるで違っていた。
歓声。
企業応援団。
重低音の応援。
そして。
コートに立つ選手たちの圧。
*
黒崎美鈴は、少しだけ深呼吸する。
(……速い空気)
高校時代。
全国三連覇。
数え切れない大舞台。
それでも。
社会人の空気は別だった。
*
「緊張しとる?」
隣に立った松永沙紀が笑う。
「……少しだけです」
「嘘」
「はい、めちゃくちゃしてます」
松永、大笑い。
「安心しな。最初はみんなそう」
*
そして試合開始。
相手は実業団強豪・大阪メテオラ。
開始早々。
社会人レベルのブロックが襲う。
ドォン!!
美鈴のスパイクが止められる。
「っ……!」
さらに。
レシーブも狙われる。
「新人狙ってる!」
実況席がざわつく。
*
だが。
美鈴は下を向かなかった。
「もう一本!」
松永が叫ぶ。
「はい!」
*
そして。
ローテーション。
美鈴、サーブ位置へ。
会場が少しざわつく。
「高校三連覇エース、黒崎美鈴」
「噂のフォークサーブですね」
実況も注目する。
*
美鈴、ボールを握る。
(……いく)
助走。
インパクト。
バシュッ!!
低い軌道。
相手レシーバー、前へ入る。
落ちると読んだ。
だが――
グッ!!
最後に伸びる。
「えっ!?」
ドガッ!!
レシーブが弾かれ、観客席へ。
会場どよめく。
*
「今の何!?」
「伸びた!?」
実況も興奮する。
「落ちると思わせて、最後に浮き上がったように見えました!」
*
さらに次。
今度は。
高速フォーク。
バシュゥゥッ!!
ストン!!
「触れない!!」
サービスエース。
会場が揺れる。
*
松永が笑う。
「黒崎、面白い武器作ったね」
「まだ試作段階です!」
「試作でこれ!?」
フェニックス福岡ベンチ、大盛り上がり。
*
試合は大接戦。
だが最後。
松永のブロック。
美鈴のサービスエース。
神崎のスパイク。
連続得点。
フェニックス福岡、開幕戦勝利。
*
試合後。
松永がペットボトルを投げて寄越す。
「ナイスデビュー」
「ありがとうございます!」
「でもまだ荒い」
「はい」
「だから伸びる」
美鈴は、その言葉をしっかり受け止めた。
*
一方――
宗像高校。
こちらは相変わらずだった。
*
体育館。
藤崎監督が入る。
すると。
なぜか後輩たちが白いコック帽を被っていた。
「……何しよるん?」
咲良が敬礼。
「宗像高校イタリアンバレー部です!」
「違います」
即答。
*
さらに。
琴音がホワイトボードを出す。
⸻
【本日のメニュー】
・レシーブカルボナーラ
・ブロックボロネーゼ
・速攻ペペロンチーノ
⸻
「バレー用語で説明しなさい」
*
柚葉が真顔。
「今日は“茹で時間”を短縮してテンポを」
「クイック攻撃って言いなさい」
*
さらに一年生・ひまり。
「監督! アルデンテって回転レシーブに似てませんか!?」
「似てません」
*
その時。
体育館の隅から湯気。
「……まさか」
監督が振り向く。
電子ケトル。
紙コップ。
そして。
春雨。
「麺類禁止だから春雨です!」
「そういう問題じゃなぁぁぁい!!」
体育館爆笑。
*
だが。
練習が始まると空気が変わる。
声。
反応。
連携。
全員が同じ絵を見ている。
*
スパァン!!
柚葉のスパイク。
ドシャッ!!
咲良のブロック。
さらに。
琴音の冷静な配球。
*
藤崎監督が静かに腕を組む。
「……強い」
練習試合相手の監督が苦笑する。
「さっきまで春雨で騒いでたチームですよね?」
「はい」
「なんでこんな強いんですか……」
*
そして。
インターハイ福岡予選。
宗像高校は圧倒的な強さを見せる。
速い。
崩れない。
笑ってる。
でも強い。
*
実況席。
「今年の宗像高校、やはり完成度が高いですね!」
「東の横浜商工、西の宗像」
「そう呼ばれる理由が分かります!」
*
決勝戦。
相手校エースのスパイク。
だが。
咲良が拾う。
琴音が繋ぐ。
柚葉が決める。
完璧な連動。
*
試合終了。
宗像高校、インターハイ出場決定。
後輩たち、飛び跳ねる。
「やったぁぁぁ!!」
*
その様子を。
藤崎監督は静かに見ていた。
「……黒崎の残したものは大きいね」
コートの中に。
美鈴はいない。
でも。
考える力。
笑う力。
仲間を見る力。
全部、残っていた。
*
監督は少し笑う。
「ま、料理部になりかけとるけど」
「誰が料理部ですか!」
後輩たち総ツッコミ。
体育館、大爆笑。
*
そしてその夜。
フェニックス福岡の寮。
美鈴のスマホに動画が届く。
宗像高校、予選突破の映像。
後輩たちが騒いでいる。
春雨持って。
「なんで春雨持っとるん……」
美鈴、吹き出す。
でも。
その目は少し嬉しそうだった。
⸻
次回予告
第78話「受け継がれる背番号」
実業団リーグで存在感を見せ始めた美鈴。
一方、宗像高校もインターハイへ向けて進み続ける。
そして今年のキャプテン・咲良は、“黒崎美鈴の後継者”として注目を集め始めていた。
「先輩みたいにはなれません。でも――」
その頃、美鈴はさらに新サーブ改造へ。
だが新技術に身体が追いつかず、左足首に再び違和感が走る。
「無理したら終わる」
松永沙紀の言葉が、美鈴を止める。
さらに宗像高校では、“麺類禁止令”を回避するため、ついに部員たちが禁断の行動へ。
「監督! これはニョッキです!!」
「だから粉物も禁止ぃぃぃ!!」
次回、第78話「受け継がれる背番号」。
黒崎美鈴、それぞれの舞台で“次の世代”が動き始める。




