フォークサーブ改造計画 社会人バレー。
第74話
フォークサーブ改造計画
社会人バレー。
それは、“高校最強”という肩書きを簡単に飲み込む世界だった。
黒崎美鈴は、その現実を痛感していた。
フォークサーブは読まれる。
スパイクは止められる。
レシーブは狙われる。
高校時代の“必殺技”だけでは、もう通用しない。
*
フェニックス福岡・体育館。
サーブ練習。
美鈴がフォークサーブを放つ。
だが。
「上がった!」
神戸シーウィンズとの練習試合で何度も見た光景。
社会人レベルのリベロは、もう反応してくる。
神崎亜美が腕を組む。
「黒崎、そのサーブ、“落ちる”だけなら読まれる」
「はい……」
三浦玲奈も続く。
「嫌な球ではある。でも、慣れたら対応される」
悔しかった。
せっかく磨いた武器が、通じなくなる。
でも。
美鈴は、そこで諦めるタイプではなかった。
*
夜。
黒崎家。
机に向かう美鈴の前には――
なぜか野球雑誌。
誠一が飲み物を持ってくる。
「姉ちゃん」
「んー?」
「なんでバレー選手が変化球特集読んどるん?」
美鈴は真顔だった。
「ヒントがある気がする」
「また始まった」
*
ページをめくる。
フォーク。
スライダー。
スイーパー。
チェンジアップ。
回転軸。
縦回転。
横回転。
ボールの変化。
空気抵抗。
そして。
「……これたい」
美鈴の目が変わる。
*
フォークサーブは、縦変化。
つまり、“落ちる”。
でも。
野球には、“横に逃げる球”もある。
さらに、“遅く見せる球”もある。
なら。
バレーでも応用できるんじゃないか?
*
翌日。
フェニックス福岡。
美鈴が奇妙な回転のサーブを打ち始める。
ブォン!!
ボールが途中で横へ滑る。
「うわっ!?」
相沢美紀が弾く。
「何今の!?」
さらにもう一本。
今度は急激に減速し、ストンと落ちる。
三浦玲奈が驚く。
「タイミング狂う……!」
*
神崎亜美がニヤリと笑う。
「黒崎、何した?」
「野球です」
「は?」
「変化球理論を応用しました」
一瞬沈黙。
そして長嶺沙耶が吹き出した。
「また黒崎の変な料理始まった!」
*
美鈴、ホワイトボードを持ってくる。
「普通のフォークは縦回転主体です」
なぜか先輩たち、真面目に聞いている。
「でも横回転を少し混ぜると、最後に逃げます」
「ほう」
「さらに回転数を落とすと、チェンジアップみたいにタイミングを外せます」
三浦玲奈が笑う。
「いや説明が完全に投手コーチ」
美鈴、止まらない。
「つまり!」
ボールを掲げる。
「フォークパスタに、スライダーソースを絡める感じです!」
「もう料理なのか野球なのかバレーなのか分からん!」
体育館、大爆笑。
*
だが。
実際にやると超難しい。
回転がズレる。
吹っ飛ぶ。
ネット直撃。
観客席へ一直線。
「ぎゃー!」
「危なっ!!」
「黒崎ぃぃぃ!!」
美鈴自身も頭を抱える。
「難しかぁ……」
*
神崎がボールを拾って渡す。
「でも面白い」
「え?」
「読まれたなら、さらに読ませなくする」
神崎は笑った。
「その発想、嫌いやない」
美鈴の目が少し燃える。
*
一方その頃――
宗像高校女子バレー部。
ここでは、とんでもない事件が起きていた。
*
発端は、美鈴の言葉。
『今年の宗像高校は、どんなイタリアンになるんやろね』
後輩たち。
それを。
真面目に受け取りすぎた。
*
体育館。
藤崎監督が入ってきた瞬間、止まる。
「……何しよるん?」
部室前。
カセットコンロ。
巨大鍋。
パスタ。
トマト缶。
エプロン姿の部員。
完全に料理部だった。
*
咲良が真顔で敬礼。
「黒崎先輩のイタリアンを継承します!」
「違うそうじゃない」
監督、即答。
*
柚葉。
「今年は“守備を煮込む”のがテーマです」
「バレーで説明しなさい」
*
琴音はホワイトボードを出す。
『アルデンテ=適度な緊張感』
『茹ですぎ=力みすぎ』
『塩加減=チームバランス』
監督、頭を抱える。
「なんでこんな真面目に間違えるん……」
*
そこへ美鈴登場。
「こんにちはー……って何しよるん!?」
後輩たち、キラキラした目。
「黒崎先輩!!」
「イタリアン研究会です!!」
「だから比喩たい!!」
*
だがもう止まらない。
咲良。
「先輩、“茹で加減が大事”って!」
「それメンタルの話!」
柚葉。
「“チームにソースを絡めろ”って!」
「連携の話!」
琴音。
「“最後は盛り付け”って!」
「試合運びの話!!」
*
さらに一年生・野中ひまり。
「先輩、試合前はペペロンチーノとカルボナーラどっちが強くなれますか?」
「知らん!!」
体育館爆笑。
*
そして最悪だったのは――
本当に茹で始めたこと。
「お湯沸きましたー!」
「塩どれくらい!?」
「アルデンテ七分!!」
「だから体育館で作るな!!」
美鈴、大混乱。
*
その時。
藤崎監督が静かに近づく。
全員凍る。
「……誰が許可した」
沈黙。
*
咲良、前へ出る。
「責任は私にあります!」
「なんでキャプテンみたいな顔しとるん」
*
さらに琴音。
「ですが監督!」
「まだあるんか」
「イタリアンにはチームワークがあります!」
「説明してみなさい」
琴音、真顔。
「麺一本では料理になりません!」
部員たち。
「おおー!」
監督、静かに天を仰ぐ。
「誰かこの子たち止めて……」
*
そして。
鍋から煙。
「あっ」
「え?」
「水ない」
「は?」
完全に水が蒸発。
鍋の中でパスタが黒くなっていく。
「ぎゃああああ!!」
「焦げた!!」
「イタリアンが炭化した!!」
「誰か火止めてぇ!!」
体育館、大パニック。
*
美鈴、腹を抱えて笑う。
「だから言ったやん!」
柚葉、半泣き。
「でも先輩、“失敗から学べ”って……」
「こんな学び方ある!?」
*
藤崎監督、深いため息。
「今日の追加メニュー」
「え?」
「体育館掃除一時間」
「はい……」
すると咲良が小声で言う。
「これも煮込み時間ですかね……」
「まだ料理引っ張るん!?」
また大爆笑。
*
帰り際。
美鈴は後輩たちを見ながら笑った。
「でも、なんか宗像らしいね」
「え?」
「アホなこと全力でやるところ」
後輩たちも笑う。
*
その夜。
美鈴はノートを開く。
『縦回転』
『横回転』
『速度差』
『まだ失敗だらけ』
そして。
『でも、まだ進化できる』
黒崎美鈴の新しい武器は、少しずつ形になり始めていた。
次回予告
第75話「変化する一球」
野球の変化球理論を応用し、“新型フォークサーブ”を作り始めた美鈴。
だが、その完成にはまだ遠い。
曲がりすぎる。
落ちなさすぎる。
自分でもどこへ飛ぶか分からない。
「これ、料理で言ったら大失敗作やね……」
しかし神崎亜美は言う。
「だから面白い」
一方、短大では初めてのグループ保育実習へ。
美鈴は“子どもたちにどう伝えるか”の難しさに直面する。
そして宗像高校では、なぜか“パスタ禁止令”が出される緊急事態に。
「体育館で麺茹でるなぁ!!」
次回、第75話「変化する一球」。
黒崎美鈴、新しい武器はまだ暴走中。




