先生への第一歩
第71話
先生への第一歩
短大生活が始まり、美鈴は初めて“子どもと向き合う授業”に挑む。
だが、実技では思わず体育会系のノリが出てしまう。
「はい園児のみんなー! まず声出していこっか!」
「黒崎さん、それ幼児教育です」
教室が笑いに包まれる。
一方、フェニックス福岡では、社会人バレーの厳しさを痛感。
高校女王だった美鈴も、簡単には通用しない。
「学生王者と社会人は違う」
それでも、美鈴は前を向く。
次回、第71話「先生への第一歩」。
黒崎美鈴、新しい人生のレシーブへ。
*
フェニックス福岡の練習初週。
美鈴は、社会人バレー独特の空気に圧倒されていた。
高校時代とは違う。
練習量だけではない。
一球に対する執念。
細かな駆け引き。
わずかなズレない集中力。
全員が、“仕事として勝負している”空気をまとっていた。
*
ウォーミングアップ中。
先輩の相沢美紀が、美鈴の足元を見ながら声をかける。
「黒崎、足は大丈夫なん?」
美鈴は軽く左足首を回のした。
「はい。まだ少し硬さはありますけど、プレーには問題ないです」
「無理は禁物よ」
工藤彩音も続く。
「高校最後、かなり無茶してたって聞いたよ?」
「まあ……最後だったんで」
長嶺沙耶が苦笑する。
「その“最後だから”で壊れる選手、山ほど見てきたけんね」
美鈴は少し表情を引き締めた。
「はい」
そこへ、神崎亜美がボールを持って近づいてくる。
「怪我隠してでも出たくなる気持ちは分かる。でも、社会人は“長く戦う”のも仕事」
その言葉は、美鈴の胸に深く刺さった。
*
今年のフェニックス福岡には、新戦力も多かった。
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フェニックス福岡 新加入選手
新人選手
■ 黒崎美鈴(18)/OH・サーブスペシャリスト
宗像高校出身。
春高三連覇主将。高速フォークサーブが武器。
■ 秋山遥(あきやま・はるか/18)/ミドルブロッカー
大阪の強豪・浪速学院出身。
高さとブロック力が魅力。少し天然。
■ 水原千夏(みずはら・ちなつ/19)/リベロ
北海道出身。
高校時代から守備職人として有名。
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移籍加入選手
■ 藤堂奈々(とうどう・なな/25)/セッター
東京の強豪クラブから移籍。
速攻コンビの組み立てが得意。
■ 高瀬理央(たかせ・りお/27)/アウトサイドヒッター
元日本代表候補。
海外リーグ経験あり。
■ 南雲真帆(なぐも・まほ/24)/ミドルブロッカー
ブロック力強化のため加入。
無口だが試合になると熱い。
*
新人紹介の日。
監督が言う。
「今年は若い力が多い。だが、フェニックスは育成チームじゃない。“勝つチーム”だ」
空気が引き締まる。
「特に黒崎」
「はい!」
「高校時代の実績は忘れろ。ここでは全員ゼロから」
「はい!」
その返事は大きかった。
すると、高瀬理央が笑う。
「声だけは即戦力やね」
体育館が少し和む。
*
だが、練習が始まると現実は厳しかった。
スパイクはブロックされる。
レシーブは弾かれる。
コンビは合わない。
テンポが違う。
「速っ……!」
美鈴が息を切らす。
神崎が淡々と言う。
「今の反応、一歩遅い」
「はい!」
「高校なら間に合った。でも社会人は、その一歩で終わる」
美鈴は悔しそうに唇を噛む。
*
その日の練習後。
体育館に残り、一人でサーブ練習を続ける美鈴。
何本も打つ。
何本も拾う。
左足が少し痛む。
だが、美鈴はやめない。
そこへ、高瀬理央が缶ジュースを投げてよこした。
「飲み」
「ありがとうございます」
「焦っとる?」
図星だった。
美鈴は苦笑する。
「……ちょっと」
「みんな最初はそう」
高瀬は壁にもたれながら続ける。
「でもな、社会人は“完成された選手”の集まりやない」
「え?」
「ここ来て、また作り直すんよ」
その言葉に、美鈴は目を見開いた。
「作り直す……」
「せやけん面白い」
高瀬が笑う。
「レシピ、また増えるやろ?」
美鈴も笑った。
「はい」
*
一方、短大では。
幼児教育実習の授業中。
「はい、じゃあ子ども役と先生役に分かれて〜」
美鈴が先生役になる。
「はい園児のみんなー!」
無意識に体育館レベルの大声。
教室がビクッとなる。
結衣がツッコむ。
「鼓膜破れる!」
さらに。
「危ない時は大きな声で知らせます!」
「黒崎さん、それ避難訓練です」
また笑いが起きた。
だが、担当教授は優しく言った。
「黒崎さん、あなたは“人を元気にする声”を持っています」
美鈴は少し驚いた。
「大事なのは、その使い方ですよ」
*
夜。
美鈴はノートを開く。
『社会人バレー、難しい』
『幼児教育も難しい』
『でも、どっちも面白い』
そして最後に書く。
『焦らず、ちゃんと煮込む』
黒崎美鈴の、新しい人生は始まったばかりだった。




