新しいコート、新しいレシピ
第70話
新しいコート、新しいレシピ
春。
桜が舞う福岡の街。
宗像高校を卒業した黒崎美鈴は、新しいスーツに身を包み、福岡短期大学の校門前に立っていた。
黒のスーツ。
白いブラウス。
肩まで伸びた髪。
そして、高校時代より少しだけ大人びた表情。
だが、足元は相変わらずだった。
「うわっ、ヒール歩きにくっ!」
入学式初日から、危うく段差で転びそうになる。
「黒崎さん、大丈夫!?」
後ろから慌てて支えたのは、同じ新入生の女子だった。
「ありがとう……助かった」
「いや、あの転び方、完全にレシーブ態勢だったよ?」
美鈴は吹き出した。
「反射で出た」
こうして、美鈴の新しい学生生活は始まった。
*
福岡短期大学・幼児教育学科。
将来、幼稚園教諭や保育士を目指す学生たちが集まる場所。
教室には、どこか柔らかい空気が流れていた。
高校の体育館とは違う。
でも、美鈴は少し安心していた。
(ここが、新しいコートか)
*
美鈴のクラスメイト
■ 雨宮ひなた(あまみや・ひなた)
明るく世話好き。すぐ人に話しかけるタイプ。ピアノが得意。
「黒崎さん、絶対スポーツやってたよね!?」
■ 西園寺まどか(さいおんじ・まどか)
おっとり系だが成績優秀。絵本研究が好き。
美鈴の“料理バレー理論”に真顔で感心する。
■ 田代結衣
元吹奏楽部。ツッコミ担当。
「なんで幼児教育学科で高速フォークサーブの話になるん?」
■ 大村梨沙
元バスケ部。身体能力が高く、美鈴と意気投合。
体育実技で張り合ってくる。
■ 白石菜々子
子ども好きで保育知識が豊富。
しかし極度の方向音痴。
*
入学式後。
講義室で自己紹介が始まる。
「黒崎美鈴です。将来は幼稚園教諭になりたいです」
ここまでは普通だった。
だが。
「あと、料理で例えるクセがあります」
クラスがざわつく。
「え?」
「どういうこと?」
美鈴は普通に答えた。
「子どもも、教育も、料理みたいなものやけん」
結衣が即座にツッコむ。
「いや分からん分からん」
教室が笑いに包まれた。
*
しかし、美鈴は“普通の短大生”では終わらない。
放課後。
美鈴が向かった先は、福岡市内の体育館。
そこには、彼女が所属する実業団チームがあった。
博多ドンタクス女子バレーボールクラブ
福岡を拠点とする名門アマチュア実業団チーム。
社会人リーグ全国優勝経験多数。
“走るバレー”と“全員攻撃”を武器にする伝統チーム。
チーム実績
全日本実業団選手権 優勝7回
九州クラブ選手権 優勝12回
全国クラブカップ 優勝5回
アジアアマチュアクラブ大会 ベスト4
チームスローガン
「笑って、拾って、最後まで」
*
博多ドンタクス主要メンバー
■ 古賀真理子/セッター/29歳
チーム司令塔。冷静沈着。
美鈴の“考えるバレー”を高く評価。
■ 高山由紀/リベロ/31歳
守備職人。
試合中も博多弁で叫び続ける。
■ 森本さやか(もりもと・さやか)/アウトサイドヒッター/27歳
豪快なスパイカー。
美鈴のフォークサーブに最初に驚いた人。
■ 中原志穂/オポジット/30歳
パワー型エース。
見た目は怖いが甘党。
■ 井上明美/ディグスペシャリスト/28歳
床に飛び込む執念型。
美鈴のレシーブ力を絶賛。
■ 黒崎美鈴/アウトサイドヒッター兼サーブスペシャリスト/18歳
高校三冠+春高三連覇の怪物新人。
“高速フォークサーブ”で全国に名を轟かせる。
*
初日の練習。
社会人の球は、高校とは重さが違った。
速い。
高い。
強い。
「うわ……」
美鈴が目を見開く。
森本さやかが笑う。
「高校とは違うやろ?」
「違いますね……」
「でも、黒崎。あんたも十分おかしい」
「え?」
「そのサーブ、社会人でも普通に武器になる」
古賀真理子がボールを渡した。
「打ってみ」
美鈴は深呼吸する。
助走。
踏み込み。
腕を振る。
高速フォークサーブ。
ボールが不規則に揺れながら落ちた。
一同沈黙。
そして。
「何それ!?」
「落ち方おかしかろ!?」
「え、今の高校生!?」
体育館が騒然となる。
美鈴は頭をかいた。
「高校でちょっと磨きました」
高山由紀が笑った。
「ちょっとのレベルじゃなか!」
*
夜。
帰宅した美鈴は、ノートを開いた。
『短大入学』
『幼児教育スタート』
『実業団バレー開始』
『新しいコート』
『新しい仲間』
そして最後に書く。
『料理は、まだ続く』
*
黒崎美鈴、18歳。
高校バレーは終わった。
だが、新しい人生の試合が始まっていた。
次回予告
第71話「先生への第一歩」
短大生活が始まり、美鈴は初めて“子どもと向き合う授業”に挑む。
だが、実技では思わずバレー部のノリが出てしまう。
「はい園児のみんなー! まず声出していこっか!」
「黒崎さん、それ体育会系すぎます」
一方、博多ドンタクスでは社会人バレーの壁に直面。
速さも、駆け引きも、高校とは別世界だった。
「学生王者と社会人は違う」
それでも美鈴は前を向く。
次回、第71話「先生への第一歩」。
黒崎美鈴、新しい人生のレシーブへ。




