届かなかったインターハイ
第66話
届かなかったインターハイ
準決勝。
宗像高校は、最後まで食らいついた。
琴音が迷わず上げた。
柚葉が力まず打った。
咲良が声を出した。
朱里が床に飛び込んだ。
七海がリズムをずらした。
美音がサーブで流れを切った。
そして美鈴は、ベンチから声を枯らした。
「まだ終わっとらん!」
「一本、丁寧に!」
「琴音、今の判断でよか!」
「柚葉、次は外!」
だが、全国準決勝の壁は高かった。
最後の一本。
相手の強打が、宗像高校のコートに落ちた。
笛が鳴る。
試合終了。
宗像高校、全国ベスト4。
インターハイ三連覇の夢は、ここで届かなかった。
*
ベンチに戻った選手たちは、泣き崩れた。
琴音はタオルで顔を覆い、柚葉は床を見つめたまま動けなかった。
咲良は声を出そうとして、涙で詰まった。
朱里も、七海も、美音も、三年生たちも、悔しさに肩を震わせていた。
美鈴は松葉杖をつきながら、ゆっくり前に出た。
「集まって」
みんなが、美鈴の前に集まる。
美鈴も泣きそうだった。
いや、本当はもう泣いていた。
それでも、主将として言葉を出した。
「決勝には行けんかった」
誰も顔を上げられない。
「私も試合に出られんかった。悔しか。めちゃくちゃ悔しか」
美鈴は唇を噛んだ。
そして、少しだけ笑った。
「でもね」
全員が顔を上げる。
「夏のパスタは、美味しく仕上がったたい」
涙で濡れた顔に、少しだけ戸惑いが浮かぶ。
「茹ですぎた日もあった。ソース絡まん日もあった。具材バラバラの日もあった。でも、今日のあんたたちは、ちゃんと一本になっとった」
琴音が泣きながら首を振る。
「でも、負けました……」
「うん。負けた」
美鈴は逃げずに言った。
「でも、負けたら終わりやなか。ここで何を残すかたい」
沈黙。
「夏のパスタは、ここまで来た。なら、秋と春高はもっと美味しくなるたい」
柚葉が涙を拭いた。
「もっと……」
「うん。もっと。火加減も、茹で加減も、ソースの絡め方も、まだまだ上手くなれる」
咲良が小さく声を出した。
「黒崎先輩も……戻ってきますか」
美鈴はうなずいた。
「戻る。絶対に」
*
藤崎香織監督は、その様子を静かに見ていた。
勝てなかった。
だが、この敗戦は空っぽではない。
美鈴不在でも、ここまで戦った。
後輩たちは、自分たちで考えた。
泣きながらも、前を向こうとしている。
それは、春高へ向かうための大きな一歩だった。
*
試合後の通路。
美鈴は一人、壁にもたれていた。
涙が止まらなかった。
「……打ちたかった」
誰にも聞かれないように、小さく言った。
「最後、コートに立ちたかった」
そこへ琴音が来た。
「黒崎先輩」
美鈴は慌てて涙を拭く。
「何?」
「春高で、待ってます」
美鈴は琴音を見る。
「私たち、もっと強くなります。だから、先輩も戻ってきてください」
柚葉も、咲良も、朱里も、七海も、美音も続いて来た。
「春高で、もう一回作りましょう」
「最後のパスタ」
「いや、最後のレシピですね」
美鈴は泣きながら笑った。
「……あんたたち、言うようになったね」
*
その夜。
美鈴はノートを開いた。
『インターハイ全国ベスト4』
『決勝には届かなかった』
『悔しい』
『でも、チームは戦えた』
『夏のパスタは美味しく仕上がった』
『秋と春高はもっと美味しくなる』
『私は戻る』
最後に書いた。
『最後のレシピは、まだ完成していない』
次回予告
第67話「国体、もう一つの悔しさ」
インターハイ三連覇には届かなかった宗像高校。
美鈴はリハビリを続けながら、国体へ向かう福岡代表を支える。
だが、まだ完全復帰には遠い。
出たい。
走りたい。
打ちたい。
その思いを抱えたまま、美鈴は再びベンチから戦う。
「焦って戻ったら、春に立てん」
次回、第67話「国体、もう一つの悔しさ」。
美鈴は、最後の春高へ向けて苦しい選択を迫られる。




