三連覇への挑戦後編
身体検査の結果は、藤崎香織監督の手元にも届いた。
監督室。
藤崎監督は、黒崎美鈴の測定表を見て、思わず眉を上げた。
「……これは」
身長175センチ。
体重は競技者として理想的な範囲。
体脂肪率は低すぎず、しかし余分なものは削ぎ落とされている。
さらに、ジャンプ力、腹筋、腕力、背筋。
どの項目も、宗像高校女子バレー部の歴代選手の中でもトップクラスだった。
藤崎監督は、しばらく黙って数値を見つめた。
「黒崎……ここまで体を作ってきましたか」
*
体育館。
美鈴はいつも通り、後輩に声をかけながらスパイク練習に入っていた。
助走。
踏み込み。
跳躍。
打点が高い。
腕の振りも鋭い。
着地後の切り返しも速い。
藤崎監督は、その姿を見ながら静かに言った。
「身体能力だけなら、歴代でも相当上位です」
隣のコーチがうなずく。
「ジャンプ力、背筋、体幹。全部そろってますね」
「ええ。ただの技巧派ではなくなっています」
監督の視線の先で、美鈴が強烈なスパイクを打ち込んだ。
床に響く音が、去年より明らかに重い。
「分析力と統率力に、身体の強さが追いついてきた」
*
練習後、藤崎監督は美鈴を呼んだ。
「黒崎」
「はい」
「身体検査の結果を見ました」
「あ、何か悪かったですか?」
「悪いどころか、驚きました」
美鈴が目を丸くする。
「監督が驚くことあるんですか」
「あります」
藤崎監督は測定表を見せた。
「あなたの体型は、宗像高校の歴代選手の中でもトップクラスです。ジャンプ力、腹筋、腕力、背筋。どれも非常に高い」
美鈴は少し照れたように笑った。
「全国で揉まれたら、こうなりました」
「冗談ではなく、その積み重ねです」
藤崎監督は表情を引き締めた。
「ただし、力がついた分、怪我のリスクも上がります。強い体ほど、使い方を間違えると壊れます」
美鈴はうなずいた。
「はい」
「あなたは今年、主将です。無理をして倒れることは、チーム全体に影響します」
「分かっとります」
美鈴は測定表を見つめた。
強くなった体。
それは、自分だけのものではない。
チームを背負うための体だった。
*
藤崎監督が言った。
「黒崎」
「はい」
「今年のあなたは、技術と頭脳だけではなく、身体でもチームを引っ張れます」
美鈴の目が静かに燃えた。
「はい」
「でも、忘れないこと。身体能力は武器です。武器に振り回されてはいけません」
美鈴は少し笑った。
「包丁持って暴れる料理人になったら危ないですもんね」
藤崎監督は一瞬だけ黙った。
「……例えは妙ですが、その通りです」
美鈴は背筋を伸ばした。
「今年は、ちゃんと火加減も刃物の扱いも覚えます」
「バレーの話です」
「はい、バレーの話です」
監督は小さくため息をつきながらも、口元を少し緩めた。
*
黒崎美鈴、高校三年。
身長175センチ。
鍛え上げられた体。
ずば抜けた跳躍力と体幹。
強くなった腕と背中。
そして、試合を読む頭脳。
宗像高校女子バレー部の歴代でも屈指の完成度を持つ選手へと、美鈴は成長していた。
だが、その力をどう使うか。
そこからが、主将・黒崎美鈴の本当の勝負だった。




