三連覇への挑戦
春高が終わり――
宗像高校女子バレー部の三年生たちは、静かに引退していった。
桜庭ひかり。
中原小雪。
伊東沙耶。
有村凛。
苦しい時も、笑いながら前を向いてきた先輩たち。
体育館の空気が、少し広く感じる。
*
そして――
黒崎美鈴は、ついに最上級生になった。
*
四月。
新学期。
宗像高校では身体検査が行われていた。
体育館横の測定スペース。
「次、黒崎ー」
「はい」
美鈴が前へ出る。
後輩たちがざわついた。
「黒崎先輩、でか……」
「バレー選手の体型やね……」
美鈴は苦笑する。
「去年より、また言われる率上がっとる」
*
身長測定。
係の先生が数字を見る。
「黒崎……175センチ」
「おー」
周囲が少しざわめく。
一年生だった頃より、さらに伸びていた。
しかも、ただ大きくなっただけではない。
*
体重測定。
「……筋肉量、かなり増えとるね」
先生が感心したように言う。
美鈴は笑った。
「全国と戦っとると、自然とこうなります」
*
体脂肪率。
「アスリート型やねえ」
去年より無駄な脂肪が落ち、より引き締まっていた。
肩。
背中。
脚。
特に下半身は、全国レベルの連戦を支えてきた筋肉がしっかりついていた。
ジャンプ力。
踏み込み。
切り返し。
すべてが、高校三年間の積み重ねだった。
*
視力検査。
「右、1.5。左、1.5」
美鈴は少し笑った。
「相手ブロックの指先まで見えんと困るけん」
「バレー基準がおかしいのよ、黒崎さん」
先生が吹き出す。
*
検査が終わり、廊下を歩いていると、後輩たちが話していた。
「黒崎先輩、なんか去年より圧ある……」
「でも笑うと急に親しみやすい」
「試合中はめちゃくちゃ怖いのに」
美鈴は後ろから声をかけた。
「聞こえとるよー」
「うわぁぁ!?」
一年生たちが飛び上がる。
*
部室。
美鈴は鏡の前に立った。
高校一年の頃より、顔つきも変わった。
少し大人びていた。
肩幅も広がった。
腕にも筋肉がついた。
それは、“勝つための体”だった。
インターハイ。
国体。
春高。
連戦。
研究。
疲労。
再起。
その全部が、今の体を作っていた。
*
そこへ、正一が顔を出した。
「おー。ずいぶんアスリートらしくなったな」
「まあね」
「最初の頃は、すぐ転んどったのにな」
「それ小学生の話やろ」
正一は笑った。
「でも、体つき見たら分かる。ちゃんと積み重ねてきた体や」
美鈴は少し照れくさそうに笑った。
「お父さんにそう言われると、ちょっと嬉しか」
*
正一は真面目な顔になる。
「ただな、美鈴」
「ん?」
「筋肉ついた分、ケアももっと大事になる」
「うん」
「三年は、一番体壊しやすい。責任感で無理するけん」
美鈴は静かにうなずいた。
分かっていた。
自分はもう、ただの選手ではない。
宗像高校女子バレー部の中心。
主将候補。
三連覇を目指すチームの柱。
だからこそ、壊れるわけにはいかない。
*
夕方。
体育館。
新チームが整列していた。
藤崎香織監督が前に立つ。
「今日から、新体制です」
空気が張り詰める。
「そして、新キャプテンを発表します」
全員が美鈴を見る。
美鈴は、静かに前を向いた。
藤崎監督が言う。
「女子バレー部主将――黒崎美鈴」
「はい!」
体育館に響く声。
もう、一年生ではない。
もう、追いかける側でもない。
宗像高校女子バレー部を背負う側。
*
美鈴は、みんなを見渡した。
一年生。
二年生。
同級生。
不安そうな顔。
期待している顔。
気合いが入っている顔。
全部見えた。
そして、美鈴はいつものように笑った。
「よし。今年も美味しい定食作るばい」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、体育館が爆笑に包まれた。
藤崎監督が額を押さえる。
「黒崎……主将最初の言葉がそれですか」
「はい!」
「……まあ、あなたらしいですね」
*
身長175センチ。
鍛え上げられた体。
全国で戦い抜いてきた経験。
分析力。
統率力。
そして、ギャグ魂。
黒崎美鈴、高校三年。
宗像高校女子バレー部主将としての一年が、始まる。




