連覇の重さ
第56話
連覇の重さ
インターハイ連覇。
国体優勝。
宗像高校女子バレー部は、再び全国の頂点へ立っていた。
だが――
勝ち続けることは、勝つことより苦しかった。
*
全国からの研究。
疲労。
期待。
そして、“絶対王者”として見られる重圧。
どのチームも、宗像高校を倒すためだけに準備してくる。
黒崎美鈴は、それを肌で感じていた。
*
秋。
国体決勝。
相手は東北の粘り強いチームだった。
長いラリー。
重い空気。
疲労が足に残る。
だが、美鈴は崩れなかった。
去年は、自分が引っ張られていた。
今年は、自分が支える側。
「連覇は通過点。問題は、その先たい」
その言葉通り、美鈴はもう“勝ったあと”を見ていた。
*
国体優勝。
そして、冬。
春高バレー。
宗像高校は、再び全国の舞台へ戻ってきた。
*
初戦。
相手は、広島代表――
広島江陽高校。
そこには、かつて宗像中で共に戦った後輩がいた。
中学時代、美鈴の背中を追いかけていた選手たち。
試合前。
整列の直前。
一人の選手が、美鈴へ頭を下げた。
「黒崎先輩」
美鈴は驚いた。
「……菜月?」
広島江陽の主将。
佐伯菜月。
宗像中時代、一年下だった後輩。
あの頃、泣きながらレシーブ練習をしていた少女だった。
*
菜月は、まっすぐ美鈴を見た。
「私たち、先輩に教わったことを胸に、ここまで来ました」
美鈴は黙って聞いていた。
「宗像中で、先輩たちが教えてくれた、“つなぐこと”も、“考えること”も、“笑うこと”も」
菜月が少し笑う。
「今日は、打倒宗像で来ました」
「……うん」
「手加減なしで行きます」
美鈴も笑った。
「それでよか」
*
試合開始。
広島江陽は、宗像高校を徹底的に研究していた。
美鈴の配球。
小雪のトス。
花菜のリズム。
朱里の守備範囲。
全部読んでくる。
しかも、宗像中仕込みの粘り強さがある。
「つながる……!」
沙耶が叫ぶ。
「めちゃくちゃ拾ってくる!」
菜月が声を張る。
「まだ落ちん!」
完全な撃ち合いだった。
*
第1セット。
広島江陽。
第2セット。
宗像高校。
第3セット。
最後までもつれた。
*
17対17。
美鈴は、菜月の目を見た。
強くなった。
本当に。
もう、ただの後輩ではなかった。
「先輩!」
菜月が打ち込んでくる。
ひかりが拾う。
小雪が上げる。
花菜が崩す。
返される。
もう一度。
長いラリー。
最後、美鈴がクロスを打ち抜いた。
決まる。
18対17。
*
最終的に――
セットカウント2対1。
宗像高校勝利。
試合後。
菜月は涙を流しながら笑った。
「やっぱり、先輩たちは強いです」
美鈴は菜月の頭を軽く叩いた。
「でも、確実に追いついてきとる」
「次は勝ちます」
「待っとる」
*
そして。
宗像高校は、再び勝ち上がった。
準々決勝。
準決勝。
どの試合も死闘。
研究され尽くした中で、それでも勝つ。
それが王者の戦いだった。
*
そして、決勝。
三度目の対戦。
宗像高校――横浜商工。
全国が息をのむ。
もはや因縁だった。
*
試合前。
松永沙紀は、美鈴を見て笑った。
「また来たね」
「はい」
「三回目」
「腐れ縁ですね」
「最高のライバルって言いなさい」
美鈴は吹き出した。
*
試合は、過去二回以上の激戦になった。
横浜商工も、もう完全に宗像高校を知っている。
フォークサーブ。
緩急。
中華定食。
全部読んでくる。
だが、宗像高校もまた、横浜商工を知り尽くしていた。
*
打って。
拾って。
叫んで。
崩して。
また立て直す。
互いに、一歩も引かない。
*
最終セット。
13対13。
体育館の空気が張り詰める。
美鈴の足は、限界に近かった。
でも、立っていた。
*
小雪が聞く。
「美鈴、行ける?」
美鈴は笑う。
「今さら聞く?」
トスが上がる。
横浜商工のブロック三枚。
完全に読まれている。
だが、美鈴はそこで打たなかった。
フェイント。
短く。
誰もいない場所へ。
落ちる。
14対13。
*
最後。
松永が上げる。
横浜商工のエースが打つ。
凛が触る。
朱里が拾う。
小雪。
トス。
美鈴。
真正面から、打ち抜いた。
ブロックを弾き飛ばす。
床に落ちる。
試合終了。
*
宗像高校、春高優勝。
三度、横浜商工を破った。
体育館が揺れる。
歓声。
涙。
抱き合う選手たち。
*
松永は、ネット越しに美鈴へ歩み寄った。
「黒崎」
「はい」
松永は笑った。
「楽しかった」
美鈴の目が少し潤む。
「私もです」
「私は、高校バレー引退」
その言葉に、美鈴は静かにうなずいた。
松永は続ける。
「だから次」
「はい」
「三連覇、目指しなさい」
美鈴は、まっすぐ答えた。
「……はい!」
松永は笑った。
「その顔なら大丈夫」
*
横浜商工のエースであり、最大のライバル。
松永沙紀。
その存在があったからこそ、美鈴はここまで強くなれた。
*
春高優勝。
宗像高校、再び全国制覇。
そして、美鈴たちは次の目標へ向かう。
三連覇。
誰も成し遂げていない、その先へ。
次回予告
第57話「三連覇への挑戦」
高校三年となった黒崎美鈴。
ついに宗像高校女子バレー部の絶対的中心選手となる。
だが、全国はさらに宗像高校を研究し、倒すために牙を研いでいた。
新主将としての責任。
三連覇の重圧。
後輩たちの未来。
「勝つだけじゃない。次に残す」
次回、第57話「三連覇への挑戦」。
黒崎美鈴、高校バレー最




