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笑う母の物語  作者: リンダ


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再戦、横浜商工

第55話


再戦、横浜商工


 二年連続。


 インターハイ決勝。


 宗像高校――横浜商工。


 東の横綱。

 西の横綱。


 全国が待ち望んだ頂上決戦だった。


     *


 試合前の空気は、去年とは違った。


 去年は、“挑戦者・宗像高校”だった。


 だが今年は違う。


 宗像高校もまた、全国王者として見られている。


 そして横浜商工は、去年の敗北を一年間、忘れなかった。


     *


 ウォーミングアップ。


 松永沙紀は、美鈴をじっと見ていた。


「黒崎」


「はい」


「今年は、フォークサーブだけじゃないね」


 美鈴が笑う。


「去年、全部研究されたけん」


「だから今年は?」


「今年の美鈴で来ました」


 松永も笑った。


「上等」


     *


 藤崎香織監督が最後の確認をする。


「横浜商工は、去年以上に完成度が高い」


 全員がうなずく。


「ですが、こちらも去年とは違います」


 美鈴は一年生たちを見る。


 朱里。

 琴葉。

 美桜。

 真衣。

 花菜。


 初戦で震えていた後輩たち。


 今はもう、全国決勝の空気の中に立っている。


「勝つばい」


 美鈴の声に、全員が拳を合わせた。


「中華定食、決勝仕様!」


「麻婆激辛!」


「焦げ禁止!」


 藤崎監督がため息をつく。


「最後まで料理から離れませんでしたね」


「宗像高校の伝統です!」


     *


 試合開始。


 最初のラリーから、空気が違った。


 横浜商工の攻撃は重い。


 高い。

 速い。

 迷いがない。


 だが、宗像高校も引かない。


 ひかりが拾う。

 小雪が散らす。

 沙耶が空気を押し上げる。

 美鈴が流れを読む。


 互いに一歩も譲らない。


     *


 第1セット。


 完全な横綱相撲だった。


 相手を力で押し切るのではない。


 受け止め、返し、また受け止める。


 東西両横綱が、がっぷり四つで組み合う。


 そんな試合だった。


     *


 18対18。


 美鈴のサーブ。


 横浜商工はフォークを完全警戒していた。


 だが、美鈴は真逆を行く。


 強打。


 奥深く。


 レシーブがわずかに乱れる。


 宗像高校のチャンス。


 小雪が上げる。


 沙耶が打つ。


 ブロック。


 だが、ひかりが拾う。


 つながる。


 最後は美鈴。


 クロス。


 決まる。


 19対18。


     *


 横浜商工も返す。


 松永のトス回しが鋭い。


 宗像高校の守備位置を、一枚ずつずらしていく。


「黒崎、今年は後輩ばっか見とるね」


 松永が笑う。


 美鈴も返す。


「先輩こそ、去年よりいやらしくなっとる」


「褒め言葉として受け取っとく」


     *


 24対24。


 デュース。


 観客席がざわめく。


 互いにセットポイントを握る。


 だが、どちらも落ちない。


 美鈴が決める。


 松永が返す。


 沙耶が押し込む。


 横浜商工のエースが打ち抜く。


 28対28。


 29対29。


 30対30。


 体育館全体が息をのんでいた。


     *


 宗像高校タイムアウト。


 全員が汗だくだった。


 美鈴は肩で息をしながら笑う。


「今のうちら、中華鍋の火力MAXたい」


 沙耶が苦笑する。


「燃えすぎ!」


 藤崎監督が静かに言う。


「最後は冷静さです。力ではありません」


 小雪がうなずく。


「次、相手は美鈴を前で待つ」


 美鈴は即座に返す。


「なら、奥」


 全員が理解した。


     *


 31対30。


 宗像高校セットポイント。


 美鈴のサーブ。


 横浜商工は前へ意識を置く。


 そこへ、美鈴は伸びるサーブを奥へ叩き込んだ。


 レシーブが後ろへ流れる。


 返球が甘くなる。


 小雪がトス。


 凛が速攻。


 決まる。


 32対30。


 第1セット、宗像高校。


     *


 だが、第2セット。


 今度は横浜商工が修正してきた。


 宗像高校の一年生を徹底的に揺さぶる。


 朱里の守備範囲を広げる。

 琴葉へプレッシャーをかける。

 美桜のブロックのタイミングをずらす。


 松永が、美鈴へ笑いかける。


「今年の一年生、いい子たちやね」


「……優しくしてください」


「決勝でそれは無理」


 美鈴は歯を食いしばった。


 それでも、一年生たちは踏ん張った。


 朱里が飛び込む。


 琴葉が震える手でトスを上げる。


 真衣がサーブを入れる。


 花菜がリズムを崩す。


 互いに譲らない。


     *


 31対31。


 再びデュース。


 今度は横浜商工が押し切った。


 松永のフェイント。


 最後はブロックアウト。


 33対31。


 第2セット、横浜商工。


     *


 第3セット。


 完全なシーソーゲームだった。


 取れば取り返される。


 点差が開かない。


 疲労は限界。


 それでも誰も下を向かない。


     *


 18対18。


 ここで美鈴が前へ出た。


「朱里!」


「はい!」


「怖い?」


 朱里は一瞬黙って、うなずいた。


「……怖いです」


 美鈴は笑った。


「よし、正常たい」


 朱里が吹き出す。


「全国決勝で怖くない方がおかしい。やけん、今はそのまま一本拾え」


「……はい!」


     *


 その次のラリー。


 横浜商工の強打。


 朱里が飛び込む。


 上がった。


「ナイス!」


 小雪が上げる。


 花菜。


 独特の間。


 相手ブロックがずれる。


 決まる。


 19対18。


     *


 次は、美鈴のサーブ。


 フォークを警戒した横浜商工。


 だが、美鈴は回転を変えた。


 揺れる。


 落ちない。


 逆に、最後に伸びる。


 レシーブが乱れる。


 返球。


 沙耶が押し込む。


 20対18。


 マッチポイント。


     *


 最後のラリー。


 横浜商工も死力を尽くした。


 松永が上げる。


 強打。


 ひかりが拾う。


 つなぐ。


 美鈴。


 フェイント。


 返される。


 もう一度。


 小雪。


 トス。


 美鈴。


 今度は真正面から打ち抜いた。


 ブロックの指先を弾き飛ばす。


 ボールが床に落ちた。


 試合終了。


     *


 宗像高校、インターハイ連覇。


 歓声が体育館を揺らした。


 美鈴はその場に座り込む。


「……勝った」


 沙耶が泣きながら抱きつく。


「連覇や!」


 朱里たち一年生も泣いていた。


 松永はネット越しに、美鈴を見た。


 悔しそうだった。


 でも、どこか嬉しそうでもあった。


「黒崎」


「はい」


「今年は、去年より強かった」


 美鈴は深く頭を下げた。


「松永先輩がいたからです」


 松永は笑った。


「また来年」


「はい」


「次は、三連覇止める」


 美鈴も笑った。


「なら、三連覇して待っときます」


     *


 黒崎美鈴、高校二年。


 宗像高校女子バレー部は、インターハイ連覇を達成した。


 だが、美鈴は知っている。


 全国は終わらない。


 また次が来る。


 勝った瞬間から、次の戦いは始まっている。



次回予告


第56話「連覇の重さ」


 インターハイ連覇を果たした宗像高校。


 だが、“勝ち続ける重圧”はさらに強くなる。


 全国からの研究。

 疲労。

 期待。

 そして、後輩たちの成長。


「連覇は通過点。問題は、その先たい」


 次回、第56話「連覇の重さ」。

 美鈴たちは、さらに高い頂へ向かう。

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