二年目の全国へ
第54話
二年目の全国へ
インターハイ福岡代表となった宗像高校。
全国のコートへ戻ってきた。
去年は、挑戦者として駆け上がった。
だが今年は違う。
三冠王者。
黒崎美鈴のいる宗像高校。
中華定食という新しい戦い方を掲げたチーム。
全国の目は、最初から宗像高校へ向いていた。
*
初戦の相手は、熊本代表。
熊本工大付属高校。
派手な高さや圧倒的なエースがいるチームではない。
だが、とにかく粘る。
拾う。
つなぐ。
相手が焦れるまで落とさない。
宗像高校にとって、嫌な相手だった。
*
第1セット序盤。
全国初出場の一年生たちは、明らかに硬かった。
牧野朱里のレシーブがわずかに乱れる。
村瀬琴葉のトスが短くなる。
河野美桜のブロックの一歩目が遅れる。
緒方真衣はサーブ前に、ボールを持つ手が震えていた。
「すみません!」
「すみません!」
一年生たちの声が小さくなる。
全国の空気。
広い会場。
観客の視線。
その全部が、体にのしかかっていた。
*
タイムアウト。
藤崎香織監督が選手を集める。
美鈴は一年生たちの顔を見た。
去年の自分を思い出す。
ベンチ外。
初ベンチ入り。
全国の圧。
怖くて当然だった。
美鈴は両手を叩いた。
「はい、今の一年生、全員顔が冷凍餃子たい」
一瞬、沈黙。
白石莉央が吹き出した。
「冷凍餃子……」
美鈴は続ける。
「でも大丈夫。火が入ったら、ちゃんと焼ける」
桜庭ひかりがすぐ乗る。
「焦げないようにね」
中原小雪も言う。
「まずは弱火から」
伊東沙耶が声を張る。
「餃子定食、いきましょう!」
藤崎監督が静かに言った。
「黒崎。中華定食から外れてはいませんね」
「はい、監督。餃子は中華です」
ベンチに笑いが戻った。
*
試合再開。
まず、三年生が支えた。
ひかりが守備で拾う。
小雪が落ち着いてトスを散らす。
沙耶が声を出し続ける。
凛がブロックでワンタッチを取る。
そこへ美鈴たち二年生が乗せていく。
「朱里、一本上げたら空気変わる!」
「琴葉、迷わんでよか!」
「美桜、触るだけでいい!」
朱里が強打を拾った。
「上がった!」
琴葉が小雪へつなぐ。
最後は美鈴。
ブロックアウト。
得点。
ベンチが沸く。
「焼けてきた!」
美鈴の声に、一年生たちが笑った。
*
熊本工大付属は粘った。
長いラリーが続く。
強打を拾われる。
フェイントも拾われる。
それでも、宗像高校は崩れなかった。
一年生が乱れれば、三年生が整える。
二年生が声をかける。
美鈴が流れを読む。
終盤。
22対22。
美鈴は相手リベロの位置を見た。
「小雪先輩、前!」
小雪が短く落とす。
相手が飛び込むが、届かない。
23対22。
次は沙耶の声で相手を押し込み、最後は凛のブロック。
第1セットを宗像高校が取った。
*
第2セット。
一年生たちは、少しずつ全国の空気に慣れ始めた。
朱里が拾う。
琴葉がつなぐ。
美桜がワンタッチを取る。
真衣がサーブで相手を崩す。
まだ完璧ではない。
だが、もう押しつぶされてはいなかった。
美鈴は笑った。
「冷凍餃子、無事に焼き上がりつつあるたい」
朱里が返す。
「黒崎先輩、焦げないようにお願いします!」
「任せんしゃい!」
宗像高校、初戦突破。
*
そこから宗像高校は勝ち上がった。
2回戦では、東北の高さに苦しみながらも、サイド攻撃で崩した。
準々決勝では、関西の高速バレーに対し、花菜のリズム攻撃が効いた。
準決勝では、粘りの強豪相手に、沙耶の声とひかりの守備がチームを救った。
新チームは、試合ごとに成長していった。
中華定食は、まだ粗い。
でも、火力と味が出始めていた。
*
そして、決勝。
相手は、去年と同じ。
神奈川代表・横浜商工高校。
前年まで三連覇を果たし、去年は宗像高校に決勝で敗れた怪物チーム。
そして、そこには今年も――
松永沙紀がいた。
*
試合前。
松永が美鈴へ歩み寄る。
「黒崎」
「松永先輩」
「また決勝やね」
「はい」
松永は静かに笑った。
「去年のフォークサーブ、忘れてないよ」
「今年はもう通じませんか?」
「通じさせん」
美鈴も笑った。
「じゃあ、今年の美鈴で行きます」
「そう来なくちゃ」
*
藤崎香織監督は、横浜商工のコートを見つめていた。
「去年と同じ組み合わせですが、同じ試合にはなりません」
美鈴はうなずく。
「はい」
「相手は、去年の宗像高校を徹底的に研究しています」
「なら、今年の宗像高校で勝ちます」
ひかりが言う。
「中華定食、決勝仕様やね」
小雪が続ける。
「火加減、間違えないように」
沙耶が拳を握る。
「麻婆、辛口でいきます!」
朱里たち一年生も、もう初戦の顔ではなかった。
震えていた目に、今は火が入っている。
*
美鈴はコートを見た。
去年は、自分が追いつくための一年だった。
今年は、背負いながら勝つ一年。
後輩を乗せる。
三年生と力を合わせる。
自分も決める。
そして、松永先輩をもう一度超える。
「行くばい」
美鈴の声に、宗像高校の選手たちが集まった。
「今年の味で、勝つ」
円陣が組まれる。
決勝の笛が、もうすぐ鳴る。
次回予告
第55話「再戦、横浜商工」
二年連続でインターハイ決勝は、宗像高校対横浜商工。
松永沙紀は、去年の敗北を胸に、美鈴のフォークサーブも心理戦も徹底研究してきた。
だが、美鈴もまた去年の美鈴ではない。
新チーム。
新一年生。
中華定食。
三年生の意地。
すべてを背負い、宗像高校は再び怪物チームに挑む。
次回、第55話「再戦、横浜商工」。
今年の美鈴は、去年の自分を超えられるか。




