表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑う母の物語  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/85

中華定食、まだ焦げる

第53話


中華定食、まだ焦げる


 新メニュー・中華定食。


 勢い。

 火力。

 タイミング。

 切り替え。


 初戦では、それが確かに機能した。


 だが、火力の高い戦い方には危うさもある。


 火が弱ければ、味は出ない。

 火が強すぎれば、全部焦げる。


     *


 二回戦。


 宗像高校は序盤から勢いよく攻めた。


 沙耶の声。

 小雪の速いトス。

 美鈴の切り込み。

 花菜の独特なリズム。


 だが、相手は冷静だった。


 宗像高校の勢いを正面から受けず、少しずついなしてきた。


 強打を拾う。

 速攻を触る。

 緩いボールを前で待つ。


 中華定食の火力が、少しずつ空回りし始めた。


「焦げとる……」


 美鈴はコートの中で、小さく呟いた。


     *


 第1セットを落とした。


 第2セットも、相手に先行される。


 8対14。


 まさかの二回戦敗退危機。


 新一年生の顔が青い。


 美桜はブロックに入る足が止まり、真衣はサーブをネットにかけた。


 朱里のレシーブも乱れ始める。


 美鈴自身も、後輩を見すぎて自分の助走が遅れていた。


 藤崎香織監督がタイムアウトを取った。


     *


 ベンチに戻ると、空気が重かった。


 誰も声を出せない。


 その時、美鈴が両手を叩いた。


「はい、黒焦げ寸前!」


 全員が顔を上げる。


「今のうちら、回鍋肉やなくて、フライパンに忘れられたピーマンたい」


 沙耶が思わず吹き出した。


「ピーマン……」


 美鈴は続ける。


「火力は悪くない。でも、火加減と順番がぐちゃぐちゃ。強く行くところと、落ち着くところを間違えとる」


 藤崎監督がうなずく。


「黒崎の言う通りです。勢いだけで攻めています。まず一本目を丁寧に」


 小雪が深く息を吸った。


「トス、散らします。急ぎません」


 ひかりが言う。


「守備から立て直す」


 美鈴は一年生たちを見た。


「焦げても、まだ食べられるところはある」


 朱里が笑いながら言う。


「それ、励ましですか?」


「もちろん。ここから盛り返したら、香ばしさになる」


 ベンチに笑いが戻った。


     *


 試合再開。


 まず、朱里が拾った。


「上げました!」


 小雪が落ち着いてトスを上げる。


 沙耶ではなく、凛へ。


 ブロックのワンタッチ。


 宗像高校がつなぐ。


 最後は美鈴。


 強打ではなく、相手の前へ短く落とす。


 得点。


 9対14。


「まず一点たい!」


     *


 そこから宗像高校は、少しずつ息を吹き返した。


 ひかりの守備が安定する。

 小雪のトスが散る。

 美桜がワンタッチを取る。

 花菜のリズム攻撃が効く。

 美鈴は決める場面と任せる場面を切り替える。


 中華定食は、火力任せではなくなった。


 炒める。

 蒸す。

 絡める。

 仕上げる。


 美鈴は声を飛ばした。


「火加減戻った!」


 沙耶が叫ぶ。


「麻婆、辛さ調整しました!」


「よし、辛すぎ注意!」


     *


 20対20。


 追いついた。


 相手が動揺する。


 ここで真衣がサーブに立った。


 初めにネットへかけた真衣。


 手が震えていた。


 美鈴が声をかける。


「真衣!」


「はい!」


「杏仁豆腐は、最後に効くとよ」


 真衣が笑った。


「甘く見せて、外します!」


 サーブ。


 ゆるく見えて、最後に伸びる。


 相手レシーブが乱れた。


 宗像高校がチャンスボールをもらう。


 美鈴が打つ。


 決まる。


 21対20。


     *


 第2セットを取り返した。


 最終セット。


 宗像高校は、もう黒焦げではなかった。


 強い火力。

 落ち着いた火加減。

 仲間を生かす順番。


 最後は美鈴が、相手ブロックの指先を狙って打ち抜いた。


 15対12。


 宗像高校、二回戦突破。


     *


 ベンチに戻った一年生たちは、放心していた。


「負けるかと思いました……」


 美桜が小さく言う。


 美鈴は笑った。


「危うく黒焦げ定食になるところやったね」


 藤崎監督が即座に言う。


「黒崎、笑い事ではありません」


「はい」


「ですが、よく立て直しました」


 美鈴は深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


     *


 その後の宗像高校は、試合ごとに中華定食の火加減を整えていった。


 準々決勝では、朱里の守備が光った。


 準決勝では、小雪のトスワークが相手ブロックを崩した。


 決勝では、沙耶の声と美鈴の分析がチームを支えた。


 福岡予選決勝。


 最終セット終盤。


 14対13。


 美鈴のサーブ。


 相手はフォークサーブを警戒して前へ意識を置いていた。


 美鈴は逆に、強い伸びるサーブを奥へ打った。


 レシーブが乱れる。


 返ってきたボールを、花菜が独特のリズムで決める。


 試合終了。


 宗像高校、インターハイ福岡代表決定。


     *


 体育館に歓声が響く。


 一年生たちは泣いていた。


 二年生たちは笑っていた。


 三年生たちは、肩の力を抜いて空を見上げていた。


 美鈴は拳を握った。


「全国たい」


 ひかりが隣で言う。


「二年目も、ここまで来たね」


「うん」


 美鈴は深く息を吸った。


「でも、まだまだ火加減は難しか」


 小雪が笑う。


「全国では、もっと焦げそうやね」


 美鈴はにっと笑った。


「焦げんように、みんなで調理するたい」


     *


 その夜。


 美鈴はノートを開いた。


『二回戦、敗退危機』

『中華定食、黒焦げ寸前』

『勢いだけでは勝てない』

『火力、順番、落ち着き』

『育てながら勝つ』

『福岡代表決定』


 最後に書いた。


『全国では、もっと強い火が来る。焦げずに、熱く戦う』



次回予告


第54話「二年目の全国へ」


 インターハイ福岡代表となった宗像高校。


 だが、全国の舞台では、去年の三冠王者として徹底的に研究される。


 新メニュー・中華定食は通用するのか。

 新一年生は全国の圧に耐えられるのか。

 美鈴は、背負いながら勝てるのか。


「全国は、火力も圧も段違いたい」


 次回、第54話「二年目の全国へ」。

 宗像高校、再び全国のコートへ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ