中華定食、まだ焦げる
第53話
中華定食、まだ焦げる
新メニュー・中華定食。
勢い。
火力。
タイミング。
切り替え。
初戦では、それが確かに機能した。
だが、火力の高い戦い方には危うさもある。
火が弱ければ、味は出ない。
火が強すぎれば、全部焦げる。
*
二回戦。
宗像高校は序盤から勢いよく攻めた。
沙耶の声。
小雪の速いトス。
美鈴の切り込み。
花菜の独特なリズム。
だが、相手は冷静だった。
宗像高校の勢いを正面から受けず、少しずついなしてきた。
強打を拾う。
速攻を触る。
緩いボールを前で待つ。
中華定食の火力が、少しずつ空回りし始めた。
「焦げとる……」
美鈴はコートの中で、小さく呟いた。
*
第1セットを落とした。
第2セットも、相手に先行される。
8対14。
まさかの二回戦敗退危機。
新一年生の顔が青い。
美桜はブロックに入る足が止まり、真衣はサーブをネットにかけた。
朱里のレシーブも乱れ始める。
美鈴自身も、後輩を見すぎて自分の助走が遅れていた。
藤崎香織監督がタイムアウトを取った。
*
ベンチに戻ると、空気が重かった。
誰も声を出せない。
その時、美鈴が両手を叩いた。
「はい、黒焦げ寸前!」
全員が顔を上げる。
「今のうちら、回鍋肉やなくて、フライパンに忘れられたピーマンたい」
沙耶が思わず吹き出した。
「ピーマン……」
美鈴は続ける。
「火力は悪くない。でも、火加減と順番がぐちゃぐちゃ。強く行くところと、落ち着くところを間違えとる」
藤崎監督がうなずく。
「黒崎の言う通りです。勢いだけで攻めています。まず一本目を丁寧に」
小雪が深く息を吸った。
「トス、散らします。急ぎません」
ひかりが言う。
「守備から立て直す」
美鈴は一年生たちを見た。
「焦げても、まだ食べられるところはある」
朱里が笑いながら言う。
「それ、励ましですか?」
「もちろん。ここから盛り返したら、香ばしさになる」
ベンチに笑いが戻った。
*
試合再開。
まず、朱里が拾った。
「上げました!」
小雪が落ち着いてトスを上げる。
沙耶ではなく、凛へ。
ブロックのワンタッチ。
宗像高校がつなぐ。
最後は美鈴。
強打ではなく、相手の前へ短く落とす。
得点。
9対14。
「まず一点たい!」
*
そこから宗像高校は、少しずつ息を吹き返した。
ひかりの守備が安定する。
小雪のトスが散る。
美桜がワンタッチを取る。
花菜のリズム攻撃が効く。
美鈴は決める場面と任せる場面を切り替える。
中華定食は、火力任せではなくなった。
炒める。
蒸す。
絡める。
仕上げる。
美鈴は声を飛ばした。
「火加減戻った!」
沙耶が叫ぶ。
「麻婆、辛さ調整しました!」
「よし、辛すぎ注意!」
*
20対20。
追いついた。
相手が動揺する。
ここで真衣がサーブに立った。
初めにネットへかけた真衣。
手が震えていた。
美鈴が声をかける。
「真衣!」
「はい!」
「杏仁豆腐は、最後に効くとよ」
真衣が笑った。
「甘く見せて、外します!」
サーブ。
ゆるく見えて、最後に伸びる。
相手レシーブが乱れた。
宗像高校がチャンスボールをもらう。
美鈴が打つ。
決まる。
21対20。
*
第2セットを取り返した。
最終セット。
宗像高校は、もう黒焦げではなかった。
強い火力。
落ち着いた火加減。
仲間を生かす順番。
最後は美鈴が、相手ブロックの指先を狙って打ち抜いた。
15対12。
宗像高校、二回戦突破。
*
ベンチに戻った一年生たちは、放心していた。
「負けるかと思いました……」
美桜が小さく言う。
美鈴は笑った。
「危うく黒焦げ定食になるところやったね」
藤崎監督が即座に言う。
「黒崎、笑い事ではありません」
「はい」
「ですが、よく立て直しました」
美鈴は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
*
その後の宗像高校は、試合ごとに中華定食の火加減を整えていった。
準々決勝では、朱里の守備が光った。
準決勝では、小雪のトスワークが相手ブロックを崩した。
決勝では、沙耶の声と美鈴の分析がチームを支えた。
福岡予選決勝。
最終セット終盤。
14対13。
美鈴のサーブ。
相手はフォークサーブを警戒して前へ意識を置いていた。
美鈴は逆に、強い伸びるサーブを奥へ打った。
レシーブが乱れる。
返ってきたボールを、花菜が独特のリズムで決める。
試合終了。
宗像高校、インターハイ福岡代表決定。
*
体育館に歓声が響く。
一年生たちは泣いていた。
二年生たちは笑っていた。
三年生たちは、肩の力を抜いて空を見上げていた。
美鈴は拳を握った。
「全国たい」
ひかりが隣で言う。
「二年目も、ここまで来たね」
「うん」
美鈴は深く息を吸った。
「でも、まだまだ火加減は難しか」
小雪が笑う。
「全国では、もっと焦げそうやね」
美鈴はにっと笑った。
「焦げんように、みんなで調理するたい」
*
その夜。
美鈴はノートを開いた。
『二回戦、敗退危機』
『中華定食、黒焦げ寸前』
『勢いだけでは勝てない』
『火力、順番、落ち着き』
『育てながら勝つ』
『福岡代表決定』
最後に書いた。
『全国では、もっと強い火が来る。焦げずに、熱く戦う』
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次回予告
第54話「二年目の全国へ」
インターハイ福岡代表となった宗像高校。
だが、全国の舞台では、去年の三冠王者として徹底的に研究される。
新メニュー・中華定食は通用するのか。
新一年生は全国の圧に耐えられるのか。
美鈴は、背負いながら勝てるのか。
「全国は、火力も圧も段違いたい」
次回、第54話「二年目の全国へ」。
宗像高校、再び全国のコートへ。




