二年目のインターハイ予選
第52話
二年目のインターハイ予選
黒崎定食の研究会を重ね、新チームは少しずつ形になってきた。
だが、インターハイ予選は甘くなかった。
三冠王者・宗像高校。
その名前だけで、相手校は目の色を変えてくる。
美鈴のフォークサーブ。
緩急の配球。
藤崎香織監督の采配。
そして、新一年生の弱点。
すべてが研究されていた。
*
予選初戦。
相手は、徹底的に一年生を狙ってきた。
牧野朱里のレシーブの間。
村瀬琴葉のトス判断。
河野美桜のブロックの遅れ。
美鈴は歯を食いしばった。
「守るだけじゃ勝てん。育てながら勝つ」
その言葉に、新しく三年になった桜庭ひかりがうなずいた。
「美鈴ちゃん、一人で背負わんで」
中原小雪も続ける。
「組み立ては私も見る」
伊東沙耶が声を張る。
「空気は私が上げます!」
有村凛が静かに言う。
「ブロックは任せて」
美鈴は、先輩になった同級生たちを見た。
去年一緒に潰れかけた一年生たち。
黒崎家で映像を見て、笑いながら帰った仲間たち。
今は三年生となった先輩たちと力を合わせ、新チームを支える柱になっていた。
*
タイムアウト。
美鈴はホワイトボードを見つめた。
「去年は和食。日替わり。全部のせ」
藤崎監督が眉を上げる。
「黒崎、また何か始まりますね」
「はい」
美鈴は大きく書いた。
『中華定食』
体育館が一瞬、静まり返った。
白石莉央が恐る恐る言う。
「黒崎先輩……ここ、バレー部ですよね?」
美鈴は即答した。
「もちろんたい」
藤崎監督がため息をつく。
「説明しなさい」
*
美鈴は全員を見た。
「中華定食は、勢いと火力たい」
伊東沙耶が目を輝かせる。
「火力!」
「でも、ただ強火にすれば焦げる。炒める順番、入れるタイミング、仕上げのスピードが大事」
中原小雪がうなずいた。
「速い展開と役割の切り替えですね」
「そう」
美鈴はメニューを書き出した。
宗像高校・新メニュー
中華定食
黒崎美鈴/回鍋肉
勝負どころで強く、味が濃い。攻守の切り替えで流れを戻す主軸。
桜庭ひかり/卵スープ
守備の安定。優しく見えて、全体の温度を整える存在。
中原小雪/チャーハン
全体を素早くまとめる司令塔。具材を散らさず、攻撃を組み立てる。
伊東沙耶/麻婆豆腐
声と勢いで流れを熱くする。辛さと迫力で相手を揺さぶる。
有村凛/青椒肉絲
細く鋭いブロック。派手ではないが、試合の形をきれいに整える。
片瀬未来/油淋鶏
高さと勢い。外から流れを変える攻撃役。
牧野朱里/ザーサイ
小さくても効く守備。一本のレシーブで全体を締める。
村瀬琴葉/小籠包
中に熱い判断を隠すセッター候補。落ち着いて見えて、芯が強い。
河野美桜/春巻き
まだ巻き途中。でも完成すれば、外はパリッと中は熱いブロッカー。
緒方真衣/杏仁豆腐
試合後半に効くサーブ。甘く見せて、相手のタイミングを外す。
島袋花菜/エビチリ
独特のリズムと刺激。相手のテンポをずらす切り札。
*
一年生たちは、ぽかんとしていた。
やがて朱里が言った。
「私、ザーサイですか」
「ザーサイは大事たい。ちょっとあるだけで、ご飯が進む」
「ご飯……今回はチャーハンですよね?」
「よく気づいた。成長しとる」
琴葉が小さく笑う。
「私は小籠包……」
「中に熱いもの持っとるけんね。焦って破れんように」
美桜が自分の欄を見て、少し困った顔をする。
「春巻き、まだ巻き途中……」
「完成前ってことたい。伸びしろ山盛り」
藤崎監督がぼそっと言った。
「黒崎、表現は妙ですが、意外と的確です」
体育館に笑いが広がった。
*
試合再開。
宗像高校は、中華定食作戦で流れを変えた。
小雪がテンポよくトスを散らす。
「チャーハン、炒めます!」
沙耶が声で空気を押し上げる。
「麻婆、辛口で行くよ!」
ひかりが守備で拾い、朱里が一本つなぐ。
「ザーサイ効いた!」
美鈴が叫ぶ。
美桜がブロックに触る。
完全には止められない。
でも、ワンタッチ。
「春巻き、巻けてきた!」
ベンチが沸いた。
*
最終セット。
13対13。
相手は美鈴を止めに来た。
ブロック二枚。
守備は深い。
だが、美鈴は焦らなかった。
「中華は火力だけやなか」
小雪がトスを上げる。
美鈴は打つと見せて、花菜へつなぐ。
島袋花菜が独特のリズムで入り、相手ブロックのタイミングを外した。
決まる。
「エビチリ、辛かー!」
沙耶が叫ぶ。
14対13。
最後は、美鈴のサーブ。
強打を見せて、ふわりと緩い回転サーブ。
相手の足が止まる。
レシーブが乱れる。
返ってきたボールを、凛がブロックで仕留めた。
試合終了。
宗像高校、初戦突破。
*
試合後。
藤崎監督は全員を集めた。
「まだ粗いです」
全員が背筋を伸ばす。
「ですが、新しい形は見えました」
美鈴は静かにうなずいた。
中華定食。
勢い。
火力。
タイミング。
切り替え。
新しい宗像高校のメニューが、ようやく決まり始めた。
*
その夜。
美鈴はノートに書いた。
『二年目のインターハイ予選』
『新チーム初の大勝負』
『守るだけじゃ勝てない』
『育てながら勝つ』
『新メニュー:中華定食』
『まだ粗い。でも火は入った』
最後に、こう書いた。
『今年の宗像高校は、去年とは違う味で勝つ』
次回予告
第53話「中華定食、まだ焦げる」
新メニュー・中華定食で初戦を突破した宗像高校。
だが、火力の高い戦い方には危うさもあった。
勢いに乗れば強い。
しかし、タイミングを誤れば一気に焦げる。
新一年生の空回り。
二年生美鈴の背負いすぎ。
三年生たちの焦り。
「火加減、間違えたら全部焦げるたい」
次回、第53話「中華定食、まだ焦げる」。
新チーム、本当の試練へ。




