全国の壁、高校の壁
第42話
全国の壁、高校の壁
インターハイ初戦を突破した宗像高校。
だが、次に待っていた相手は、全国屈指の高さを誇る強豪校だった。
試合前の公式練習。
相手のスパイクが、宗像高校のコートに鋭く突き刺さる。
打点が高い。
サーブが速い。
ブロックの圧が重い。
中学時代には見たことのない高さだった。
美鈴は思わず息をのんだ。
「これが、高校全国……」
*
第1セット。
宗像高校は序盤から押された。
相手のサーブでレシーブが乱れる。
高いブロックに攻撃が止められる。
相手エースのスパイクは、まるで上から落ちてくるようだった。
美鈴にもトスが上がる。
ブロック二枚。
高い。
美鈴はブロックアウトを狙った。
だが、相手の手が思ったより上にある。
ボールは跳ね返される。
「くっ……!」
自分の武器が、簡単には通じない。
高校全国の壁は、想像以上に厚かった。
*
だが、美鈴は下を向かなかった。
攻撃が止められても、目は動いていた。
相手のエースは、苦しい時にクロスへ打つ。
ミドルは速いが、連続では使ってこない。
リベロは強打には強いが、前への反応が半歩遅い。
ブロックは高いが、横の移動は少し重い。
美鈴は考えた。
(自分なら、どこに落とされるのが嫌か)
(どこに打てば、相手が拾いにくいか)
そして気づく。
高さでは勝てない。
なら、速さと角度と間で崩す。
*
タイムアウト。
藤崎香織監督が選手たちを集める。
美鈴は息を切らしながら口を開いた。
「監督、相手リベロ、前が少し遅いです」
藤崎監督が見る。
「続けて」
「あと、ブロックは高いけど、横移動は少し重かです。ミドルを左右に振れば、次の一本で隙が出ると思います」
長谷川真帆がうなずく。
「つまり、正面から打つより、揺さぶる?」
「はい。高城先輩の強打を見せて、次に里奈先輩の速攻。そこから前へ落とす」
岩崎彩音が笑った。
「黒崎、まるで野球のキャッチャーみたいに配球読んどるね」
美鈴は即答した。
「弟が野球しよるけん、配球の気持ちだけ借りました」
ベンチに少し笑いが起きる。
藤崎監督も口元を緩めた。
「いい分析です。真帆、使いなさい」
「はい」
*
試合再開。
宗像高校は攻撃を変えた。
高城由奈の強打を見せる。
相手ブロックが寄る。
次に三枝里奈の速攻。
さらに、長谷川真帆が相手リベロの前へ短く落とす攻撃を使う。
相手が一瞬遅れる。
得点。
「よし!」
美鈴はベンチへ向かって拳を握る。
次のラリーでも、宗像高校は相手を横に揺さぶった。
高いブロックを正面突破するのではなく、動かして崩す。
相手の守備が乱れ始める。
*
それでも相手は強かった。
第1セットは落とした。
だが、後半には明らかに手応えがあった。
ベンチに戻った高城由奈が、美鈴に言った。
「黒崎、あんたの読み、当たっとる」
「ありがとうございます」
「でも、第2セットは相手も修正してくる」
「はい。だから、次は逆を使います」
由奈が笑う。
「ほんと、キャッチャーやね」
美鈴は真顔で言った。
「ただし、私は配球より定食派です」
「今それ言う?」
*
第2セット。
宗像高校はさらに組み立てを変えた。
前へ落とす攻撃を見せたあと、深い奥へ打つ。
ミドルを見せたあと、サイドへ振る。
美鈴は囮に入り、相手の高いブロックを引きつける。
相手の守備が迷い始めた。
美鈴は自分が決めるだけではなく、試合そのものを組み立てる一部になっていた。
中盤。
美鈴にトスが上がる。
相手ブロックは高い。
だが、今度は真正面からは行かない。
ブロックの横移動が遅れた瞬間、外側をかすめるように打つ。
ボールは外へ弾ける。
得点。
「ナイス!」
真帆が声を上げる。
美鈴は息を吐いた。
高さでは負けても、読みで勝つ。
それが今できる戦い方だった。
*
第2セットは宗像高校が取り返した。
最終セット。
互いに譲らない。
12対12。
相手エースの強打。
森本千春が拾う。
真帆が上げる。
美鈴へ。
ブロック二枚。
美鈴は跳んだ。
相手の手は高い。
でも、横がわずかに空いた。
(ここ)
ブロックの指先ではなく、肘の外側を狙うような角度。
ボールが外へ弾ける。
13対12。
*
最後の一本。
相手は全力で高さをぶつけてきた。
だが、宗像高校はもう怖がらなかった。
拾う。
揺さぶる。
動かす。
隙を突く。
最後は高城由奈が、相手ブロックの遅れた瞬間を打ち抜いた。
試合終了。
宗像高校、勝利。
*
整列後、美鈴は深く息を吐いた。
高校全国の壁。
それは確かに高かった。
でも、越えられない壁ではなかった。
ただし、中学時代のやり方では足りない。
見る。
読む。
伝える。
組み立てる。
その全部が必要だった。
*
試合後、藤崎香織監督が美鈴を呼んだ。
「黒崎」
「はい」
「今日の分析は大きかったです」
「ありがとうございます」
「あなたは、自分が決められない時でも、チームを勝たせる材料を見つけられる」
美鈴は静かに聞いた。
「ただし、まだ途中です。全国の上位は、さらに修正してきます」
「はい」
「それでも、今日のあなたは高校全国で戦える目を持っていました」
美鈴は深く頭を下げた。
「もっと見えるようになります」
*
帰り道。
岩崎彩音が美鈴の肩を叩いた。
「黒崎キャッチャー、次も頼むばい」
「キャッチャーやなくてウイングです」
高城由奈が笑う。
「でも、今日の配球は助かった」
美鈴は少し照れた。
「次は、定食と配球を融合させます」
真帆が即座に言った。
「やめて。情報量が多すぎる」
笑いが広がる。
その笑いの中で、美鈴は思った。
高校全国。
怖い。
でも、面白い。
この壁の向こうに、もっと強い自分がいる。
次回予告
第43話「準々決勝の風」
全国屈指の高さを破った宗像高校。
次の相手は、スピードと連携で相手を翻弄する強豪校。
高さの次は、速さ。
美鈴の分析力が試される中、相手は宗像高校の守備の隙を徹底的に突いてくる。
「速すぎる……でも、読めんわけやない」
次回、第43話「準々決勝の風」。
美鈴は、風のような攻撃に挑む。




