表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑う母の物語  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/84

全国の壁、高校の壁

 第42話

 全国の壁、高校の壁


 インターハイ初戦を突破した宗像高校。


 だが、次に待っていた相手は、全国屈指の高さを誇る強豪校だった。


 試合前の公式練習。


 相手のスパイクが、宗像高校のコートに鋭く突き刺さる。


 打点が高い。

 サーブが速い。

 ブロックの圧が重い。


 中学時代には見たことのない高さだった。


 美鈴は思わず息をのんだ。


「これが、高校全国……」


 *


 第1セット。


 宗像高校は序盤から押された。


 相手のサーブでレシーブが乱れる。

 高いブロックに攻撃が止められる。

 相手エースのスパイクは、まるで上から落ちてくるようだった。


 美鈴にもトスが上がる。


 ブロック二枚。


 高い。


 美鈴はブロックアウトを狙った。


 だが、相手の手が思ったより上にある。


 ボールは跳ね返される。


「くっ……!」


 自分の武器が、簡単には通じない。


 高校全国の壁は、想像以上に厚かった。


 *


 だが、美鈴は下を向かなかった。


 攻撃が止められても、目は動いていた。


 相手のエースは、苦しい時にクロスへ打つ。

 ミドルは速いが、連続では使ってこない。

 リベロは強打には強いが、前への反応が半歩遅い。

 ブロックは高いが、横の移動は少し重い。


 美鈴は考えた。


(自分なら、どこに落とされるのが嫌か)


(どこに打てば、相手が拾いにくいか)


 そして気づく。


 高さでは勝てない。


 なら、速さと角度と間で崩す。


 *


 タイムアウト。


 藤崎香織監督が選手たちを集める。


 美鈴は息を切らしながら口を開いた。


「監督、相手リベロ、前が少し遅いです」


 藤崎監督が見る。


「続けて」


「あと、ブロックは高いけど、横移動は少し重かです。ミドルを左右に振れば、次の一本で隙が出ると思います」


 長谷川真帆がうなずく。


「つまり、正面から打つより、揺さぶる?」


「はい。高城先輩の強打を見せて、次に里奈先輩の速攻。そこから前へ落とす」


 岩崎彩音が笑った。


「黒崎、まるで野球のキャッチャーみたいに配球読んどるね」


 美鈴は即答した。


「弟が野球しよるけん、配球の気持ちだけ借りました」


 ベンチに少し笑いが起きる。


 藤崎監督も口元を緩めた。


「いい分析です。真帆、使いなさい」


「はい」


 *


 試合再開。


 宗像高校は攻撃を変えた。


 高城由奈の強打を見せる。


 相手ブロックが寄る。


 次に三枝里奈の速攻。


 さらに、長谷川真帆が相手リベロの前へ短く落とす攻撃を使う。


 相手が一瞬遅れる。


 得点。


「よし!」


 美鈴はベンチへ向かって拳を握る。


 次のラリーでも、宗像高校は相手を横に揺さぶった。


 高いブロックを正面突破するのではなく、動かして崩す。


 相手の守備が乱れ始める。


 *


 それでも相手は強かった。


 第1セットは落とした。


 だが、後半には明らかに手応えがあった。


 ベンチに戻った高城由奈が、美鈴に言った。


「黒崎、あんたの読み、当たっとる」


「ありがとうございます」


「でも、第2セットは相手も修正してくる」


「はい。だから、次は逆を使います」


 由奈が笑う。


「ほんと、キャッチャーやね」


 美鈴は真顔で言った。


「ただし、私は配球より定食派です」


「今それ言う?」


 *


 第2セット。


 宗像高校はさらに組み立てを変えた。


 前へ落とす攻撃を見せたあと、深い奥へ打つ。

 ミドルを見せたあと、サイドへ振る。

 美鈴は囮に入り、相手の高いブロックを引きつける。


 相手の守備が迷い始めた。


 美鈴は自分が決めるだけではなく、試合そのものを組み立てる一部になっていた。


 中盤。


 美鈴にトスが上がる。


 相手ブロックは高い。


 だが、今度は真正面からは行かない。


 ブロックの横移動が遅れた瞬間、外側をかすめるように打つ。


 ボールは外へ弾ける。


 得点。


「ナイス!」


 真帆が声を上げる。


 美鈴は息を吐いた。


 高さでは負けても、読みで勝つ。


 それが今できる戦い方だった。


 *


 第2セットは宗像高校が取り返した。


 最終セット。


 互いに譲らない。


 12対12。


 相手エースの強打。


 森本千春が拾う。


 真帆が上げる。


 美鈴へ。


 ブロック二枚。


 美鈴は跳んだ。


 相手の手は高い。


 でも、横がわずかに空いた。


(ここ)


 ブロックの指先ではなく、肘の外側を狙うような角度。


 ボールが外へ弾ける。


 13対12。


 *


 最後の一本。


 相手は全力で高さをぶつけてきた。


 だが、宗像高校はもう怖がらなかった。


 拾う。

 揺さぶる。

 動かす。

 隙を突く。


 最後は高城由奈が、相手ブロックの遅れた瞬間を打ち抜いた。


 試合終了。


 宗像高校、勝利。


 *


 整列後、美鈴は深く息を吐いた。


 高校全国の壁。


 それは確かに高かった。


 でも、越えられない壁ではなかった。


 ただし、中学時代のやり方では足りない。


 見る。

 読む。

 伝える。

 組み立てる。


 その全部が必要だった。


 *


 試合後、藤崎香織監督が美鈴を呼んだ。


「黒崎」


「はい」


「今日の分析は大きかったです」


「ありがとうございます」


「あなたは、自分が決められない時でも、チームを勝たせる材料を見つけられる」


 美鈴は静かに聞いた。


「ただし、まだ途中です。全国の上位は、さらに修正してきます」


「はい」


「それでも、今日のあなたは高校全国で戦える目を持っていました」


 美鈴は深く頭を下げた。


「もっと見えるようになります」


 *


 帰り道。


 岩崎彩音が美鈴の肩を叩いた。


「黒崎キャッチャー、次も頼むばい」


「キャッチャーやなくてウイングです」


 高城由奈が笑う。


「でも、今日の配球は助かった」


 美鈴は少し照れた。


「次は、定食と配球を融合させます」


 真帆が即座に言った。


「やめて。情報量が多すぎる」


 笑いが広がる。


 その笑いの中で、美鈴は思った。


 高校全国。


 怖い。


 でも、面白い。


 この壁の向こうに、もっと強い自分がいる。


 次回予告

 第43話「準々決勝の風」


 全国屈指の高さを破った宗像高校。


 次の相手は、スピードと連携で相手を翻弄する強豪校。


 高さの次は、速さ。


 美鈴の分析力が試される中、相手は宗像高校の守備の隙を徹底的に突いてくる。


「速すぎる……でも、読めんわけやない」


 次回、第43話「準々決勝の風」。

 美鈴は、風のような攻撃に挑む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ