インターハイへの道
第40話
インターハイへの道
夏の大会で結果を残し始めた美鈴。
宗像高校は、インターハイ予選を勝ち進んでいた。
だが、全国への道は簡単ではない。
強豪校との連戦。
主力選手の疲労。
そして、美鈴への期待の高まり。
そんな中、藤崎香織監督が告げた。
「黒崎、次は最初から行く」
美鈴の胸が跳ねた。
「はい!」
ついに先発出場。
高校の主力として、試される時が来た。
*
次の相手には、また元宗像中のチームメイトがいた。
西村遥。
かつて宗像中で“ご飯”と呼ばれ、チーム全体を支えたセッター。
今は別の強豪校で、冷静な司令塔としてチームを動かしていた。
試合前、遥が美鈴に笑いかける。
「美鈴、ついに先発やね」
「うん。ばってん、相手が遥とか、初先発にしては味濃すぎるたい」
「味濃いのは美鈴の人生やろ」
二人は笑った。
でも、目は笑っていなかった。
お互いを知っている。
癖も、考え方も、苦しい時の選択も。
だからこそ、この試合はただの力勝負ではない。
読み合いの心理戦になる。
*
第1セット。
遥は最初から美鈴を揺さぶってきた。
美鈴が守る位置の少し外へ打たせる。
ブロックに入るタイミングをずらす。
宗像高校の守備の間を狙う。
美鈴はすぐに気づいた。
「遥、こっちの呼吸ば見とる」
長谷川真帆が言う。
「なら、こっちも呼吸をずらす」
美鈴はうなずく。
次のラリー。
遥は美鈴が前へ出ると読んで、後ろへ落とす攻撃を選んだ。
だが、美鈴は半歩だけ残っていた。
「読んどる!」
拾う。
真帆がトスを上げる。
美鈴が打つ。
遥のチームはブロックアウトを警戒。
美鈴はあえて鋭いストレートへ。
決まった。
美鈴が小さく笑う。
「知っとる相手には、知らん顔たい」
*
だが、遥も負けていない。
次のセットでは、美鈴が囮になるタイミングを読み、宗像高校の別攻撃を止めてきた。
「今の読まれた……!」
美鈴は舌を巻いた。
遥が向こうのコートで言う。
「美鈴が何もしない時ほど、何かあるけんね」
「そこまで覚えとるん?」
「全国連覇の同級生なめんで」
美鈴は笑った。
「なら、次は何かしそうで何もないを出す」
「ややこしか!」
*
試合は接戦になった。
第1セットを宗像高校が取る。
第2セットを相手が取り返す。
最終セット。
13対13。
インターハイへの道をかけた、重い一点。
遥は美鈴を読んでくる。
美鈴も遥を読んでいる。
技術と技術。
戦術と戦術。
記憶と成長。
すべてがぶつかる。
相手の攻撃。
遥のトスは、わずかに遅いテンポ。
美鈴は気づいた。
(これは囮)
本命はライト。
美鈴が一歩動く。
読み通り、ライトへトス。
宗像高校がワンタッチを取る。
森本千春が拾う。
真帆が上げる。
美鈴へ。
遥のチームは、美鈴のブロックアウトを警戒している。
美鈴は空中で一瞬、遥を見る。
「遥、これは読めんやろ」
強打ではない。
フェイントでもない。
ブロックの内側をすり抜ける、低く鋭いコース。
ボールはライン際へ落ちた。
14対13。
*
最後の一本。
遥は全力で勝負に来た。
速攻。
時間差。
フェイク。
だが、宗像高校も崩れない。
長いラリー。
美鈴が拾う。
由奈がつなぐ。
真帆が上げる。
美鈴が打つ。
拾われる。
再び相手。
遥がトスを上げる瞬間、美鈴はわずかな癖を見た。
(前じゃない。奥)
宗像高校の守備が半歩下がる。
読み通り、奥へ攻撃。
千春が拾う。
真帆が美鈴へ。
ブロック二枚。
遥が向こうで叫ぶ。
「外、切って!」
読まれている。
だから美鈴は、外へは打たなかった。
強打のフォームから、真下へ落とす。
相手が飛び込む。
届かない。
試合終了。
宗像高校、勝利。
*
整列後、遥が美鈴の前に来た。
「負けた」
「接戦やった」
「美鈴、また変わったね」
「遥も。めっちゃ読みにくかった」
「でも最後、読めんかった」
美鈴は笑った。
「インターハイへの道やけんね。こっちも新メニュー追加しとる」
遥は吹き出した。
「また料理」
「伝統たい」
*
試合後、藤崎香織監督は美鈴を見た。
「黒崎」
「はい」
「先発として、よく戦った」
「ありがとうございます」
「ただし、まだ終盤で危うい判断がある」
「はい」
「でも、元チームメイト相手の心理戦を制した。あれは大きい」
高城由奈も言った。
「今日の黒崎は、主力として見られる内容やった」
美鈴は深く頭を下げた。
「もっと強くなります」
*
インターハイへの道は、まだ続く。
だが、美鈴は確かに一歩進んだ。
元チームメイトとの読み合い。
高校バレーの速度。
先発としての責任。
そのすべてを受け止め、接戦を制した。
中学時代の黒崎美鈴ではない。
宗像高校の黒崎美鈴として、少しずつ主力の座へ近づいていた。
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次回予告
第41話「初めてのインターハイ」
激戦を勝ち抜き、宗像高校はインターハイ出場を決める。
美鈴にとって、高校では初めての全国大会。
中学とは違う、さらに上の舞台。
全国から集まる高校トップクラスの選手たち。
そこで美鈴は、自分の現在地を再び思い知らされる。
「高校の全国は、また別世界たい」
次回、第41話「初めてのインターハイ」。
美鈴、新たな全国の景色へ。




