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笑う母の物語  作者: リンダ


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142/149

園長先生とドンタクスの女王

第122話


「園長先生とドンタクスの女王」


 2045年春。


 福岡の街にある、

 博多南幼稚園 。


 朝。


 園庭には、

 子どもたちの元気な声が響いていた。



「みすずせんせーーー!!」


「園長せんせぇぇぇ!!」


 小さな子どもたちが、

 一斉に駆け寄ってくる。


 その中心にいるのは――


 小倉美鈴 。


 かつて、

 死の淵を彷徨い、

 幽霊として白金荘を漂っていた女性。


 そして今は。


 博多南幼稚園の園長先生となっていた。



「こらこらー!

 走ったら危なかろーもん!」


 そう言いながらも、

 美鈴は笑顔で子どもたちを受け止める。


「園長先生!

 今日カエル捕まえた!」


「見てー!」


「いやなんで朝から虫カゴ持っとるん!!」


 職員室からは笑い声。



 若い先生たちにとっても、

 美鈴は特別な存在だった。


「小倉園長、

 本当に子どもの心掴むの上手ですよね……」


「怒る時も、

 ちゃんと愛情あるんですよね」


「しかも保護者対応が神」


「ただ時々、

 ツッコミが高速すぎる」



 昼休み。


 職員室。


 副園長が苦笑する。


「園長先生、

 今日も保護者会で爆笑取ってましたね」


「いやー、

 空気重かったけんねぇ」


「保護者会をライブ会場にせんでください」


「えへへ」



 だが。


 業務が終わると――


 美鈴は、

 再び“戦士”へ戻る。



 火曜日と木曜日の夜。


 そして土曜日の昼。


 体育館。


 そこには、

 ママさんバレー界を震わせるチーム。


 《博多ドンタクス》。



「集合ーーー!!」


 美鈴の声が響く。


「はいっ!!」


 平均年齢40代後半。


 湿布率高め。


 でも。


 空気だけは、

 まるで高校部活だった。



「今日のテーマ!

 “出汁の効いたレシーブ”!!」


「また始まった!!」


「料理理論やめてください!!」


 体育館、

 爆笑。



 だが。


 笑いながらも、

 全員知っていた。


 この人が、

 本当に強いことを。



 サーブ練習。


 美鈴が、

 ゆっくりボールを握る。


 46歳。


 だが。


 高校時代から、

 フェニックス福岡で活躍していた頃と変わらない、

 鍛え抜かれた身体。


 肩。


 背中。


 脚。


 積み重ねてきた年月が、

 その筋肉に刻まれている。



「……いきます」


 トス。


 踏み込み。


 そして――


 ドォォォンッ!!



 轟音。


 ボールが一直線に突き刺さる。


 床に叩きつけられた瞬間、

 体育館がどよめいた。



「うわっ……!」


「まだこんな球打つと!?」


「芸術やん……」


「46歳のサーブちゃう……」



 その様子を。


 体育館入口から、

 二人の人物が見つめていた。



 黒崎正一 。


 そして。


 黒崎佳代 。



 正一は、

 今やフェニックス福岡監督。


 佳代も、

 長年チームを支える存在となっていた。



「……戻ってきたな」


 正一が静かに呟く。


「うん……」


 佳代は、

 目を細めながら笑った。


「あの子、

 ほんとにバレー好きやったもんねぇ」



 コートの中。


 美鈴が、

 楽しそうに笑っている。


 仲間と。


 ボールを追い。


 汗を流し。


 声を出し。


 生きている。



 かつて。


 命の境界を彷徨った少女は。


 今――


 園長先生として。


 母として。


 妻として。


 そして。


 一人のバレーボール選手として。


 誰よりも、

 輝いていた。



次回予告 第123話「全国ママさんバレー開幕!」


 ついに始まる、

 全国ママさんバレー福岡予選!


 だがドンタクスは——


「平均年齢高くない!?」


「黙れ!

 経験値で殴るぞ!!」


 一方幼稚園では——


「園長せんせー!

 トカゲ逃げたぁぁ!」


「なんで園長室に放つと!?」


 さらにフェニックスでは、

 正一監督が対抗心メラメラ。


「……あいつ、

 まだ現役みたいな顔しとる」


「娘に嫉妬せんでください」


 そして美鈴、

 久々の公式戦へ。


「全部繋ぐよ。

 このチームで」


 次回、

 第123話「全国ママさんバレー開幕!」


 40代、

 湿布まみれ、

 でも青春はまだ終わらない。

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