博多ドンタクス誕生
第121話
「博多ドンタクス誕生」
娘たちが巣立っていったあと。
博多にある一戸建ての小倉家は静かになった
もちろん、
完全に静かなわけではない。
小倉光子 と
小倉優子 は、
相変わらず帰省するたびに爆笑ギャグコントを持ち込み、
大畑奏太 と
大畑小春 まで混ざるものだから、
家は定期的にライブ会場みたいになっていた。
それでも。
子育て中心だった日々が終わり、
美鈴はふと、
ひとつのことを考えるようになっていた。
ある夜。
博多のリビング。
スポーツニュースでは、
ママさんバレー全国大会の特集が流れていた。
美鈴は、
ぼんやりと画面を見つめる。
その横で、
優馬が麦茶を飲みながら聞いた。
「……バレー、したいっちゃろ?」
「……え?」
「顔見りゃ分かる」
美鈴は、
少しだけ笑った。
「……もう46やけんねぇ」
「何言いよる。
あんたまだ体育館入ったら別人やん」
「腰痛いし」
「俺も痛い」
「膝も痛い」
「俺も」
「階段つらい」
「それは前からやろ」
「うるさい」
二人で笑う。
そして美鈴は、
静かに呟いた。
「……でもさ。
もう一回、
みんなで笑いながらバレーしたい」
数日後。
フェニックスOGが集まる居酒屋。
そこには、
佐野紗希 の姿もあった。
「……で?
美鈴。
また悪い顔しとるけど?」
「へへへ」
「その顔は絶対ロクでもない」
美鈴は、
ニヤリと笑った。
「紗希先輩。
ママさんバレーチーム作らん?」
一瞬沈黙。
次の瞬間。
紗希もニヤリ。
「あの料理理論いく?」
「……行こうか」
周囲。
「……料理理論?」
「え?」
「何それ?」
「バレーよね?」
「料理教室始まると?」
全員チンプンカンプン。
美鈴は立ち上がる。
「バレーっちゅうのはね!」
始まった。
黒崎……いや、
小倉美鈴の長話である。
「まずレシーブは“出汁”たい」
「は?」
「出汁が弱い料理は全部ダメになるやろ?」
「いや分からん」
「土台たい土台!」
「はぁ……」
「トスは“火加減”!」
「料理やん!」
「強すぎても弱すぎてもダメ!」
「なんか分かるような分からんような!」
「スパイクは“メインディッシュ”!」
「もう完全に料理やん!!」
紗希先輩、
腹抱えて笑い始める。
「やばい……
久しぶりに聞いた……
美鈴の料理バレー理論……!」
そこへ。
宗像中、
宗像高校時代の後輩たちも集まり始める。
「美鈴先輩、
本当にチーム作るんですか?」
「作るばい!」
「え、でも私らもう40代ですよ?」
「知らん!
気持ちは17歳!」
「膝は47歳です」
「黙らんね!」
大爆笑。
さらに。
「……あの、
私も入ってよかですか?」
入口から、
ひとりの女性が顔を出した。
古賀麻理子 。
宗像高校OGで、
現在は地域スポーツクラブ指導員。
美鈴が目を丸くする。
「麻理子!?」
「久しぶりです、美鈴先輩」
「うわぁぁ!
なん年ぶり!?」
「17年です」
「数字にすると怖い!」
麻理子は、
少し照れながら笑った。
「……実は私も、
また本気でバレーしたかったんです」
その言葉に、
美鈴と紗希は顔を見合わせる。
そして。
二人同時にニヤリ。
「……よし」
「面白くなってきた」
こうして誕生した。
《博多ドンタクス》。
平均年齢40代後半。
腰痛持ち多数。
湿布常備。
子どもの進路相談しながら作戦会議。
なのに。
なぜか異常に強い。
そして何より。
日本一、
笑い声が響くチームだった。




