止まった笑顔と、赤いサイレン
第119話「止まった笑顔と、赤いサイレン」
白金荘を離れ、家族で一戸建てへ引っ越してから、五年以上の歳月が流れていた。
引っ越した当時、光子と優子は、まだ幼稚園の年少だった。
広いリビングを走り回り、空になった段ボール箱へ潜り込み、家中を秘密基地に変えていた二人も、今では小学四年生になっている。
玄関には、少し傷の増えた二つのランドセル。
壁には、小学校へ入学した日の写真。
棚には、運動会や学芸会、家族旅行の写真が並んでいる。
白金荘から運んできた古い家具も、今ではすっかり新しい家の風景へ溶け込んでいた。
そして、リビングの一角には、一枚の写真が飾られている。
美香。
光子。
優子。
三人が並び、満面の笑顔でポーズを取っている。
音楽ユニット《トリプルピーチ★》。
美香が東京の音楽大学へ進学してからは、三人が常に揃って活動することは難しくなっていた。
それでも長期休暇や帰省の時期には、三人でステージに立った。
歌い。
演奏し。
コントを披露し。
会場を笑顔にした。
現在、美香は二十歳。
東京音楽大学の三年生として、演奏技術と音楽理論を学んでいる。
トロンボーン奏者としての将来を見据え、講義、個人練習、合奏、演奏会に追われる毎日だった。
離れて暮らしていても、三姉妹の関係は変わらなかった。
夜になると、光子と優子から頻繁に電話がかかってきた。
『美香お姉ちゃん、今日ね、光子が給食の牛乳こぼしたとよ』
『優子が笑わせたけんやろ!』
『うちは何もしとらんもん!』
『変な顔しよった!』
『生まれつきたい!』
『そこは否定せんとね!』
東京の学生寮に、美香の笑い声が響く。
そんな日々が、これからも続くはずだった。
*
九月。
二学期の始業式の日。
福岡には、まだ夏の名残が残っていた。
秋とは呼べないほど強い日差しが、博多南小学校の校庭を照らしている。
朝から始業式を終えた子どもたちは、久しぶりに会った友達との会話に夢中になっていた。
「夏休み、どこ行ったと?」
「うちは海!」
「光子たちは?」
「東京行った!」
「美香お姉ちゃんの演奏会、見に行ったとよ!」
光子が得意そうに胸を張る。
優子も隣から口を挟んだ。
「でも光子、演奏会の途中で寝よった」
「寝てない!」
「口開けて寝よった!」
「あれは音楽ば全身で受け止めよったと!」
「全身で受け止めた結果、よだれ垂らしよったやん!」
周囲の友達が一斉に笑う。
「始業式の日から、相変わらずやね」
「二学期もにぎやかになりそう」
担任も苦笑しながら、二人を見ていた。
二学期最初の日は、午前中で終わった。
宿題の確認。
新しい教科書の配布。
係の説明。
そして、翌日から始まる授業についての連絡。
「今日は寄り道せずに、まっすぐ帰ること」
「まだ暑いけん、水分もちゃんと取るんよ」
担任の言葉に、子どもたちは元気よく返事をした。
「はーい!」
光子と優子も、ランドセルを背負って教室を出る。
「二学期始まったね」
「明日からまた宿題あるね」
「夏休み終わったばっかりなのに、もう冬休みにならんかな」
「まだ一日も授業受けてないやん」
二人は笑いながら、校門を出た。
*
その日、美鈴は博多南幼稚園に勤務していた。
優馬は、みらいのたねの事務所で、支援を必要とする子どもたちについて職員と話し合っていた。
始業式の日は早く下校するため、近所の保護者や地域の見守り隊が通学路に立っている。
光子と優子も、何度も歩いた道を並んで帰っていた。
「帰ったらアイス食べよう」
「冷蔵庫に残っとった?」
「お父さんが食べとらんかったらある」
「昨日、冷凍庫の前で怪しかったよ」
「帰ったら事情聴取やね」
「優子刑事が取り調べする」
「光子警部が逮捕する」
「お父さん、アイス食べただけで逮捕されると?」
二人の笑い声が、住宅街へ広がる。
信号のある交差点が見えてきた。
いつも通る交差点。
学校から家へ帰る時、必ず渡る横断歩道。
光子と優子は、横断歩道の手前で立ち止まった。
信号は赤だった。
「まだ赤」
「待たないかんね」
二人は並んで待つ。
車が何台か目の前を通過する。
やがて、歩行者用信号が青に変わった。
「青になった」
「右見て」
「左見て」
「もう一回右」
二人は、学校で繰り返し教えられたとおりに左右を確認した。
車が止まっていることも確認する。
「よし」
光子が一歩踏み出す。
優子も隣を歩く。
その時だった。
交差点の先から、一台の車が近づいていた。
速度を落とす気配がない。
車側の信号は、すでに赤へ変わっていた。
だが、運転手は前を見ていなかった。
車内で落としたものを拾おうと、視線を下へ向けていた。
そして顔を上げた時には、すでに交差点へ進入していた。
横断歩道の上。
二人の子ども。
運転手の表情が凍りつく。
ブレーキが踏み込まれた。
――キキィィィィィッ!!
耳を突き刺すような音が、住宅街に響いた。
光子が振り向く。
優子も顔を上げる。
目の前に、車が迫っていた。
「優子!」
光子が叫ぶ。
「光子!」
次の瞬間。
――ドンッ!!!
鈍く、重たい衝撃音。
二人の身体がはじき飛ばされる。
ランドセルが地面へ叩きつけられる。
始業式でもらったプリントが、道路に散らばる。
風に煽られた白い紙が、赤信号の交差点を舞った。
時間が止まった。
数秒間。
誰も動けなかった。
近くにいた見守り隊の女性が、最初に叫んだ。
「救急車!」
「早く救急車を!」
周囲の人々が駆け寄る。
光子は道路の端に倒れていた。
優子は少し離れた場所で、動かなくなっている。
「聞こえる?」
「名前、言える?」
呼びかけても、返事がない。
血が、道路へ広がっていく。
「動かしたらいかん!」
「車を止めて!」
「学校にも連絡して!」
誰かが一一九番へ電話をかける。
別の誰かが警察へ連絡する。
やがて、遠くからサイレンが聞こえてきた。
赤い光が、交差点へ近づいてくる。
*
みらいのたね事務所。
優馬は、支援計画書へ目を通していた。
「この子の場合は、学校だけじゃなくて家庭側への支援も必要やと思います」
職員の言葉に、優馬がうなずく。
「保護者とも一度話しましょう」
机の上に置いていたスマートフォンが鳴った。
知らない番号だった。
「はい、小倉です」
電話の向こうから、落ち着いた声が聞こえる。
『博多南警察署の者です』
優馬の表情が変わった。
『小倉光子さんと、小倉優子さんのお父様で間違いありませんか』
「はい」
『お二人が交通事故に遭われました』
優馬の手が止まる。
「……え?」
『現在、救急搬送されています』
「ちょっと待ってください」
「事故って……」
「二人ともですか?」
『お二人ともです』
「意識は?」
電話の向こうで、一瞬の間があった。
『詳しい状態については、搬送先の病院で説明があると思います』
その答えだけで、深刻さは伝わった。
「病院はどこですか」
優馬の声が震える。
搬送先を聞く。
メモを取ろうとする。
しかし、ペンがうまく握れない。
職員が代わりに電話の内容を書き留める。
通話が終わる。
優馬は、数秒間動かなかった。
「小倉さん……?」
職員が声をかける。
優馬は立ち上がろうとした。
だが、足から力が抜ける。
「光子と……」
椅子へ手をつく。
「優子が……」
「事故に遭った……」
*
博多南幼稚園。
美鈴は職員室で、二学期の行事予定を確認していた。
電話が鳴る。
園長が受話器を取った。
「はい、博多南幼稚園です」
電話の内容を聞いた園長の顔が、みるみる険しくなる。
「分かりました」
「すぐに伝えます」
電話を切る。
「美鈴先生」
美鈴が顔を上げる。
「ご主人からです」
「光子ちゃんと優子ちゃんが……」
園長の声が詰まる。
「交通事故に遭ったそうです」
美鈴は笑顔のまま固まった。
「……誰が?」
「光子ちゃんと、優子ちゃんです」
「二人とも、病院へ運ばれたって……」
「嘘」
美鈴は立ち上がる。
「今日、始業式やっただけですよ」
「もう家に帰る時間で……」
机の上に置かれていた書類が、床へ落ちる。
「先生」
「すぐ行ってください」
「ここは私たちに任せて」
園長が美鈴の肩を支える。
美鈴の顔から血の気が引いていた。
「また……事故……」
かつて自分が事故に遭った時の光景が、頭の奥から蘇る。
衝撃。
救急車。
病院。
意識のない時間。
「今度は……娘たちが……」
「美鈴先生!」
同僚が抱き止める。
「しっかりしてください」
「ご主人が迎えに来ます」
「二人のところへ行きましょう」
*
博多南総合病院。
一台目の救急車が到着する。
「小学四年生女児!」
「車と接触!」
「頭部外傷あり!」
「血圧低下!」
救急車の扉が開く。
ストレッチャーが降ろされる。
酸素マスクをつけた光子。
顔や腕に血が付着している。
呼びかけへの反応はない。
「処置室へ!」
医師たちが走る。
間を置かず、二台目の救急車が到着した。
「同じ事故の負傷者!」
「こちらも意識なし!」
優子が運び込まれる。
病院の廊下に、車輪の音が響く。
*
優馬と美鈴が、病院へ駆け込んできた。
「光子!」
「優子!」
受付で名前を告げる。
看護師が二人を救急処置室の前へ案内する。
扉の向こうでは、医師たちの声が飛び交っていた。
「血圧下がっています!」
「輸血準備!」
「外科を呼んで!」
美鈴が扉へ近づこうとする。
「お母さん、入れません!」
看護師が止める。
「娘がおるんです!」
「分かっています」
「でも今は、処置を優先させてください」
「一目だけでも!」
「お願いです!」
「光子!」
「優子!」
扉は開かなかった。
優馬が美鈴の肩を抱く。
しかし、優馬自身も激しく震えていた。
「先生に任せよう」
「任せるしかない」
「でも……」
「二人とも、朝は元気やったとよ」
「行ってきますって……」
「普通に出ていったとよ……」
美鈴の声が崩れる。
「なんで……」
「なんで二人とも……」
しばらくして、光子と優子は手術室へ運ばれた。
二つの手術室。
二つの赤いランプ。
美鈴と優馬は、その間にある待合室に取り残された。
*
東京。
東京音楽大学。
美香は、防音室でトロンボーンの個人練習をしていた。
譜面台には、演奏会で披露する予定の楽譜が置かれている。
息を吸う。
音を出す。
長く、深い音が室内に響く。
演奏が終わった時、椅子の上に置いていたスマートフォンが何度も振動していることに気づいた。
画面を見る。
父からの着信。
母からの着信。
知らない番号。
再び、父から電話がかかってくる。
「もしもし、お父さん?」
電話の向こうから、すぐに返事はなかった。
『美香……』
優馬の声が、いつもと違っていた。
「どうしたと?」
『落ち着いて聞いてくれ』
その一言だけで、美香の胸がざわつく。
「何?」
『光子と優子が、事故に遭った』
美香の手から、マウスピースが落ちる。
床へぶつかり、金属音が響いた。
「……え?」
『二学期の始業式の帰りに、車にはねられた』
「二人は?」
『今、手術しよる』
「意識は?」
優馬が答えない。
「お父さん」
「意識あると?」
『ない』
美香は壁へ手をついた。
視界が揺れる。
「嘘……」
『美香』
「今日、朝にメッセージ来たよ」
「二学期始まるって」
「また宿題が始まるって、二人で笑っとったよ」
『分かっとる』
「なんで……」
美香は、その場へ座り込んだ。
「なんで二人が……」
『美香、今から帰ってこられるか』
「帰る」
美香は即座に答えた。
「すぐ帰る」
「飛行機でも新幹線でも、何でもいい」
「絶対帰る」
電話を切る。
だが、立ち上がろうとしても、足に力が入らない。
同じ大学に通う友人が、防音室の扉を開けた。
「美香?」
「どうしたの?」
美香は涙を流しながら、友人を見た。
「妹たちが……」
「事故に遭った……」
友人の表情が変わる。
「二人とも……」
「意識がないって……」
美香は両手で顔を覆った。
「昨日、電話で話したばっかりなのに……」
「また三人で演奏しようって……」
「言ったばっかりなのに……」
*
大学側の配慮により、美香はすぐに福岡へ戻る準備を整えた。
羽田空港へ向かう車の中。
美香は何度もスマートフォンの画面を見ていた。
光子から届いたメッセージ。
『明日から二学期たい』
優子から届いた写真。
二人が新しい上履きを持って笑っている。
今朝送られてきた短い動画。
『美香お姉ちゃん、二学期も頑張るけんね!』
『今度帰ってきたら、新しいネタ見せるよ!』
動画の中で、二人は笑っている。
何度再生しても、同じ笑顔。
その笑顔が、今は病院のベッドの上で止まっている。
「待っとって……」
美香はスマートフォンを胸へ抱いた。
「絶対に帰るけん」
*
病院の待合室。
手術が始まってから、何時間も経過していた。
美鈴は椅子に座り、両手を組んでいる。
優馬は落ち着かず、何度も立ち上がっては廊下を歩く。
そこへ、急ぐ足音が響いた。
「お父さん!」
「お母さん!」
美香だった。
東京から飛行機で福岡へ戻り、空港からそのまま病院へ駆けつけていた。
大学から着てきた服のまま。
楽器ケースも持ったまま。
息を切らしながら、両親の前へ立つ。
「美香……」
「二人は?」
「まだ手術中」
美香は赤いランプを見上げる。
「いつから?」
「もう何時間も……」
美香は楽器ケースを壁際へ置いた。
そして、美鈴の前へ膝をつく。
「お母さん」
美鈴は美香を抱きしめた。
「美香ちゃん……」
「二人が……」
「うちの子たちが……」
「大丈夫」
美香は答えようとした。
だが、声が震える。
「大丈夫やけん」
「二人は強いけん」
自分自身に言い聞かせていた。
「光子も優子も、絶対戻ってくる」
「また三人で歌うって約束したけん」
優馬は壁へ拳をついた。
「なんでや……」
低い声だった。
「なんで、あの子たちなんや」
「始業式から普通に帰りよっただけやろ」
「青信号ば渡りよっただけやろ」
「何も悪いことしとらんやろ!」
声が待合室に響く。
優馬の拳が震えている。
「なんで……」
「なんでうちの娘たちなんや……!」
美香は父へ近づき、その腕をつかんだ。
「お父さん」
「手、怪我するよ」
「怪我したってどうでもいい」
「よくない」
美香は涙を流しながら言った。
「光子と優子が目を覚ました時、お父さんまで怪我しとったら心配するよ」
優馬の拳から力が抜ける。
美鈴、美香、優馬。
三人は、言葉を失ったまま、赤いランプを見続けた。
*
夜。
一つ目のランプが消えた。
続いて、もう一つも消える。
医師が手術室から出てくる。
三人は同時に立ち上がった。
「先生」
美鈴の声が震える。
「娘たちは……」
医師は、ゆっくりと口を開いた。
「二人とも、命は繋ぎ止めています」
三人の身体から、一瞬だけ力が抜ける。
美香は口元を押さえた。
「生きとる……」
美鈴が呟く。
「二人とも、生きとる……」
しかし、医師の表情は厳しいままだった。
「ただし、二人とも頭部を含め、全身に大きな損傷があります」
「現在も非常に危険な状態です」
「意識が戻るかどうかについても、まだ何も言えません」
「今夜が一つの大きな山になります」
美鈴は優馬の腕へつかまった。
美香が医師へ尋ねる。
「会えますか」
「短時間であれば」
「お願いします」
「声をかけさせてください」
*
集中治療室。
光子と優子は、別々のベッドで眠っていた。
頭には包帯。
顔には傷。
身体には、いくつもの管が繋がれている。
規則的な電子音だけが、静かな室内に響いていた。
美鈴は光子の手を握る。
「光子」
「お母さんやよ」
「帰ってきて」
優馬は優子のそばに立つ。
「優子」
「お父さん、ここにおるぞ」
「怖くないけん」
「一人やないけん」
美香は、二人のベッドの間に立った。
東京から持ってきた楽器ケースを、集中治療室の外に置いてきた。
本当なら、次に帰省した時。
三人で合わせるはずだった。
新しい曲を演奏するはずだった。
「光子」
「優子」
美香の声が震える。
「美香お姉ちゃん、帰ってきたよ」
返事はない。
「東京から、ちゃんと帰ってきたよ」
「二人がまた変なネタ考えとるって、動画送ってきたやろ」
「まだ見せてもらってないよ」
涙が落ちる。
「トリプルピーチ★、終わらせんよ」
「二人が戻ってくるまで、待っとるけん」
「一年でも」
「何年でも」
「ずっと待っとるけん」
美香は、光子と優子の手へ、片方ずつ触れた。
「だから帰ってきて」
「お願いやけん」
「また三人で笑おう」
*
その夜。
一戸建ての小倉家に、笑い声はなかった。
光子と優子の部屋。
二つ並んだ机。
二つ並んだベッド。
夏休みに使った宿題帳。
二学期へ持っていくはずだった道具。
机の上には、トリプルピーチ★の新しいネタ帳が置かれていた。
表紙には、光子の字で書かれている。
『二学期の爆笑ネタ』
その下に、優子が書き足していた。
『美香お姉ちゃんに見せる』
美香は、ネタ帳を胸へ抱きしめた。
「見せてよ……」
声が漏れる。
「早く帰ってきて、見せてよ……」
美鈴は二人の枕を抱いて泣いた。
優馬は、壁に飾られた家族写真を見つめていた。
白金荘から引っ越してきた日の写真。
まだ家具の少ないリビング。
家族が床へ座り、おにぎりと唐揚げを食べている。
幼い光子と優子が、カメラへ笑顔を向けていた。
「ここでもいっぱい笑おうね」
「ずっとみんなで」
あの日、二人が交わした約束。
その約束を、ここで終わらせるわけにはいかなかった。
優馬は、写真へ向かって呟く。
「帰ってこい」
「絶対に帰ってこい」
「またこの家で、みんなで笑うぞ」
窓の外。
遠くを走る救急車の赤い光が、一瞬だけ家の壁を照らした。
笑顔が止まった夜。
小倉家の長い闘いが、静かに始まった。
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次回予告
集中治療室で眠り続ける、光子と優子。
二人の命を繋ぐ機械音だけが、夜の病院に響く。
美鈴は、かつて自分が事故によって生と死の狭間を彷徨った日々を思い出していた。
「お母さんも帰ってきたけん」
「二人も、絶対に帰ってこられる」
病院には、次々と仲間たちが駆けつける。
博多南幼稚園。
みらいのたね。
フェニックス福岡。
東京音楽大学の仲間たち。
そして、トリプルピーチ★を愛する人々。
一方、美香は二人のベッドの前で、一つの決意を固める。
「二人が目を覚ますまで、私は音楽を止めん」
「今度は、私の音で二人を呼び戻す」
次回、
第120話「祈りの待合室」。
笑顔が止まった夜。
それでも家族は、名前を呼び続ける。




