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笑う母の物語  作者: リンダ


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夜泣き予行演習と世界の涙

第112話「夜泣き予行演習と世界の涙」


 2022年春。


 白金荘201号室は、

 日に日に“赤ちゃん準備基地”になっていた。


 ベビーベッド。


 小さな肌着。


 哺乳瓶。


 ぬいぐるみ。


 そして――


「うぎゃああああああああ!!!」


 深夜二時。


 優馬の絶叫が響く。


「なん!?地震!?」


 飛び起きた美鈴。


 すると、

 優馬がスマホを握りしめていた。


「夜泣きシミュレーターアプリ入れてみた!!」


「なんで!?」


「今のうちに慣れとかんと!!」


 スマホから響く、

 本気すぎる赤ちゃんの泣き声。


『おぎゃああああああ!!』


「リアルすぎる!!」


「AI搭載らしい!」


「技術の使い方おかしい!!」


 さらに優馬。


「しかも双子モード」


 ぽち。


『おぎゃあああ!!』

『ふぎゃああああ!!』


「増えたぁぁぁぁ!!」


 美鈴、

 腹を抱えて笑う。


「優馬、

 今のうちから寝不足なっとるやん!」


「育児なめたらあかんと思って!」


「方向性は真面目なんやけど、

 全部アホなんよ!!」



 一方フェニックス福岡。


 体育館の隅では、

 なぜか大人たちが真剣な顔で円陣を組んでいた。


「よし。

 双子専用応援歌を作る」


「まだ生まれてないけん!?」


 美鈴、

 即ツッコミ。


 松永紗希――いや、

 佐野紗希が大笑いする。


「いやでも絶対必要やろ!」


 しんちゃんこと、

 佐野慎太郎もノリノリ。


「タイトルはどうする?」


「“ツインズ・アタック”!」


「戦隊モノ感!!」


 さらに誰かがホワイトボードに書く。


『将来のセッター候補』


「気が早い気が早い!!」


 そこへ――


「おぎゃあああああ!!」


 体育館の入り口から、

 赤ちゃんの泣き声。


「来たぁぁぁ!!」


 紗希が抱いていたのは、

 生まれたばかりの男の子だった。


「紹介します♡

 佐野湊みなとです♡」


 一同、

 一気に顔が崩れる。


「かわいぃぃぃぃぃ!!!」


 美鈴も思わず涙ぐむ。


「紗希先輩……

 ほんとにお母さんになったんやね……」


 湊は、

 紗希そっくりの目元。


 けれど、

 鼻筋や口元は、

 しんちゃんによく似ていた。


「しんちゃんの遺伝子、

 口元に全集中しとる」


「なんやそれ!」


 爆笑。


 美鈴と優馬は、

 小さなおくるみセットを渡す。


「これ、

 二人から」


「えぇ〜!!

 ありがとう〜!!」


 さらに、

 全国のバレー仲間からも祝いの荷物が届いていた。


「ベビーシューズ」

「ミニバレーボール」

「フェニックス公式よだれかけ」


「なんで公式グッズあるん!?」


「広報が暴走した」


「仕事早すぎる!!」



 そして、

 時は流れ――


 二〇二二年七月六日。


 夕方十八時頃。


 白金荘。


「……優馬」


「ん?」


「……きたかも」


「え?」


 美鈴が、

 お腹を押さえていた。


「……痛っ」


 優馬、

 三秒停止。


「えっ!?

 えっ!?

 えっ!?!?」


「落ち着いて!!」


「いや無理やろ!!」


 慌てて病院バッグを持つ優馬。


 鍵を落とす。


 財布を落とす。


 スマホを冷蔵庫に入れる。


「全部逆!!」


「脳がバグっとる!!」



 七月七日未明。


 博多南総合病院。


 陣痛室。


「いっっったぁぁぁ……!!」


 美鈴の声が響く。


 優馬、

 涙目で手を握る。


「が、頑張れ……!」


「お前が産むみたいな顔すんな!!」


「だって痛そうなんやもん!!」


 佳代、

 外で号泣。


「美鈴ぅぅぅぅ……」


 正一、

 落ち着いてるように見えて、

 ペットボトル逆さに持ってる。


 誠一はアメリカからオンライン接続。


「姉ちゃん頑張れぇぇ!!」


 そして――


 七月七日・昼過ぎ。


『おぎゃあああああ!!』


『ふぎゃあああああ!!』


 二つの産声が、

 病院に響いた。


 優馬、

 完全崩壊。


「うわぁぁぁぁぁぁ……!!」


 涙が止まらない。


 美鈴も、

 汗だくのまま笑っていた。


「……会えた」


 助産師が、

 二人に赤ちゃんを見せる。


 小さな、

 小さな双子の女の子。


 優馬は、

 震える声で言う。


「……名前、

 決めよう」


 美鈴が頷く。


「うん」


 二人は、

 顔を見合わせる。


「光にあふれて、

 優しさに包まれた人生を歩んでほしい」


 そして――


 姉の名は、

 光子みつこ


 妹の名は、

 優子ゆうこ


 病室の窓から、

 夏の光が差し込んでいた。


 その光はまるで、

 新しい時代の始まりを祝福しているみたいだった。



次回予告 第113話「双子誕生と白金荘壊滅」


 ついに始まった、

 双子育児。


 だが白金荘では――


『おぎゃあああ!!』

『ふぎゃあああ!!』


「同時に泣くなぁぁぁ!!」


 優馬、

 寝不足で限界突破。


「俺今、

 三日くらい瞬きしてない」


「人類やめかけとる」


 一方フェニックスでは、

 “双子初観戦計画”始動。


「生後三ヶ月で体育館デビュー!?」


「早すぎる!!」


 さらに幼稚園では、

 星組園児たちが大暴走。


「みつこちゃん♡」

「ゆうこちゃん♡」


「まだ会ってないやろ!?」


 次回、

 第113話「双子誕生と白金荘壊滅」。


 笑いと泣き声で、

 家族の新しい毎日が始まる。

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