年末の報告と、小さな命
第110話「年末の報告と、小さな命」
2021年12月。
白金荘201号室は、
今日も平和に騒がしかった。
「優馬ぁ〜」
「ん〜?」
「みかん取って〜」
「自分で取れる位置やろ!」
「妊婦は甘えてよかと♡」
「便利ワード化しとる!!」
ソファで毛布にくるまる美鈴のお腹は、
少しずつふくらみ始めていた。
医師から正式に告げられた。
——双子。
しかも女の子。
予定日は2022年7月初め。
優馬は最初、
診察室で五秒くらい停止した。
「……ふ、ふたご?」
「はい、お二人とも元気ですよ」
「え、待って。二人!? 一気に!?」
「優馬、顔真っ白」
「だって責任重大すぎるやん!!」
だがその直後。
エコー写真を見た瞬間、
優馬は泣いた。
「……おる……」
「おるねぇ」
「ほんとに……おる……」
「そりゃおるたい」
「俺、父親になるん……?」
「今さら!?」
診察室で、
夫婦そろって泣いて笑った。
⸻
そして年末。
二人は黒崎家へ帰省していた。
佳代が鍋を運び、
正一が日本酒を準備している。
「で? なんか報告あるっちゃろ?」
正一がニヤニヤしながら言う。
すると美鈴が、
ちらりと優馬を見る。
「優馬」
「お、おう」
「言って」
「なんで俺!?」
「父親やろ?」
「圧が強い!」
優馬は深呼吸した。
「……えっと」
「うん」
「子ども、できました」
一瞬静まり返る。
そして。
「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」」
黒崎家、大爆発。
「しかも」
美鈴が続ける。
「双子の女の子たい」
佳代、
泣きながら座布団に崩れ落ちる。
「双子ぉぉぉぉぉ!?!?」
正一、
立ち上がった勢いでテーブルに膝をぶつける。
「痛ぁぁ!! いやそれどころやない!!」
「じいちゃんになるん!?」
「早い早い!!」
家の中が、
一気に笑い声と涙でいっぱいになった。
⸻
一方。
フェニックスでも、
年末の納会が行われていた。
「小倉先輩、双子ってマジですか!?」
「マジたい」
「絶対元気な子生まれますよ!」
「いやもう既にお腹蹴りよるもん」
「早っ!!」
するとそこへ。
「……あの〜」
松永紗希改め、
佐野紗希が照れくさそうに手を挙げた。
「うちも報告あるっちゃん」
「ん?」
「赤ちゃんできました」
「「おおぉぉぉぉ!!!」」
体育館、
またも大騒ぎ。
隣では、
佐野慎太郎がニコニコしている。
「しんちゃん、顔ゆるみすぎ」
「そりゃ緩むやろ〜!」
紗希はお腹をさすりながら笑った。
「男の子らしいっちゃん」
「うわぁぁぁ、おめでとうございます!!」
「これで次世代フェニックス決定やん!」
「気が早い!!」
結婚したばかりだった二組は、
今度は“親になる未来”へ進み始めていた。
⸻
だが。
テレビから流れるニュースは、
穏やかなものばかりではなかった。
『ロシアとウクライナの緊張が——』
『国境地帯では軍の集結が——』
食卓の空気が、
少し静かになる。
美鈴は、
そっと自分のお腹に手を当てた。
「……この子たちが大きくなる頃には」
小さく呟く。
「争いごとのない世界やったらよかね」
優馬も頷いた。
「うん」
正一も、
静かに酒を置く。
「戦争はなぁ……誰も幸せにならん」
佳代が、
優しく美鈴の肩を撫でた。
「この子たちは、
笑って生きていける時代になりますように」
窓の外では、
静かに雪が降り始めていた。
⸻
そして。
もう一つ、
黒崎家には大きな報告があった。
「俺も決まりました」
誠一が、
少し緊張した顔で言う。
「4月からアメリカ行きます」
「えっ」
「シリコンバレーの医療機器メーカーです」
場の空気が変わる。
「開発エンジニアとして採用されました」
正一の目が丸くなる。
「お前……すごかやないか」
「ありがとう」
誠一は、
静かに笑った。
「姉ちゃんの事故の時、
何もできんかったけん」
美鈴を見る。
「だから今度は、
誰かを助けられる側になりたい」
美鈴の目に、
涙が浮かぶ。
「誠一……」
「アメリカ行っても、
ちゃんと帰ってくるけん」
「うん……!」
家族みんなが、
未来へ向かって進み始めていた。
不安もある。
でも、
笑いながら前へ進む。
それが、
小倉家と黒崎家だった。
⸻
次回予告 第111話「双子パニックとシリコンバレー」
美鈴、
ついに本格的な“妊婦生活”突入!
「優馬ぁ……
足むくんだぁ〜」
「マッサージ店化しとる!!」
一方フェニックスでは——
「双子用ベビーユニフォーム作ろう!」
「気が早すぎる!!」
さらに誠一、
アメリカ渡航準備開始。
「シリコンバレーって、
ほんとに谷あると?」
「そこ!?」
そして白金荘では、
夫婦初の“育児シミュレーション”が始まる。
「夜泣き訓練です♡」
「なんで今から寝不足体験!?」
次回、
第111話「双子パニックとシリコンバレー」。
新しい命と、
新しい未来が動き始める。




