みすず先生、幼稚園へ帰る
第106話「みすず先生、幼稚園へ帰る」
2021年春。
桜がゆっくりと散り始めた頃――
小倉美鈴は、
再び博多南幼稚園の門をくぐっていた。
右手にはまだ少し痺れが残る。
長時間立つと、
右脚も痛む。
それでも。
ここへ戻ってきたかった。
「おはようございます!」
久しぶりの職員室。
その瞬間。
「みすず先生ぇぇぇぇ!!」
職員室の奥から、
ものすごい勢いで飛んできた人物。
加藤皐月先生。
二十四歳。
年少・星組担任。
元気。
声デカい。
リアクションが芸人。
「うわっ!?」
抱きつかれかけて、
美鈴がよろける。
「ちょ、皐月先生!?
勢い強い強い!!」
「帰ってきたぁぁぁ!!
みすず先生帰ってきたぁぁ!!」
半泣き。
半絶叫。
そこへ。
園長・大野晴美先生、
ゆっくり登場。
「加藤先生、
朝から園児より騒がしいですよ」
「すみません!!」
即土下座。
美鈴、
吹き出す。
「相変わらずやねぇ……」
大野園長、
柔らかく笑う。
「小倉先生。
無理は禁物ですよ」
「はい。
まだ副担任から、
少しずつ頑張ります」
そう。
美鈴はまだ、
フル担任復帰は難しかった。
だから今回は。
【年少・星組 副担任】
という形での復帰だった。
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博多南幼稚園
【年少】
・星組
・月組
・空組
【年中】
・ゆり組
・バラ組
・すみれ組
【年長】
・つばめ組
・ひばり組
・かもめ組
その中でも。
星組は特に——
カオスだった。
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星組・初日
「みんなー!
今日からみすず先生が戻ってきますよー!」
皐月先生、
元気よく言う。
すると。
「みすずせんせぇぇぇ!!」
園児たち、
大爆走。
「うおぉぉぉ!?」
美鈴、
一瞬で子どもまみれ。
「せんせー!
あいたかったー!」
「びょういんいたの!?」
「もういたくない!?」
「せんせ、
ちっちゃくなった?」
「それは元から!!」
職員室から、
皐月先生の爆笑が聞こえる。
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だが。
問題児・田中ゆうし君(4歳)。
「せんせー!」
「んー?」
「マスクたべた!」
一同停止。
「……はい?」
ゆうし君、
口を開ける。
本当に、
マスクの端が無い。
「なんでぇぇぇぇ!?」
皐月先生、
絶叫。
「え、食べた!?」
「おいしかった」
「おいしくない!!」
大騒ぎ。
保健室騒ぎ。
星組、
開幕十五分で地獄。
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さらに。
「せんせぇぇぇ!!」
別の園児。
「たける君がおしっこもらしたぁぁ!!」
「ぎゃあああ!!」
「待ってぇぇ!!」
皐月先生、
バタバタ。
美鈴、
笑いながら追いかける。
「皐月先生、
右!右!」
「え、なに右!?」
「たける君逃げた!!」
「待ってぇぇぇ!!」
もう完全にコント。
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一方その頃
白金荘。
優馬、
朝五時半起床。
「……眠い」
だが。
「優馬〜♡」
後ろから、
美鈴。
「お弁当、
ハートにして♡」
「女子高生か!!」
「うち、
新婚さんやけん♡」
「理由になっとらん!!」
だが結局。
卵焼き、
ハート。
「……俺、
何しよるんやろ」
⸻
幼稚園・昼食時間
「いただきまーす!」
星組、
食事開始。
だが。
「せんせー!」
「んー?」
「にんじんきらい!!」
「あらそう」
「たべたくない!!」
すると美鈴。
「じゃあ先生も、
ピーマン嫌いやけん食べん」
「えっ」
「でも食べる」
パクッ。
園児たち、
じーっと見る。
「……たべる」
一人。
また一人。
にんじんを食べ始める。
皐月先生、
感動。
「みすず先生すごい……!」
だがその直後。
「せんせぇぇ!!
みおちゃんが牛乳こぼしたぁぁ!!」
「うわぁぁぁ!!」
感動、
三秒終了。
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放課後
職員室。
美鈴、
ぐったり。
「……幼稚園、
こんな体力勝負やったっけ」
皐月先生、
笑う。
「でも、
みすず先生戻ってきて、
ほんと安心します」
「ん?」
「なんか、
子どもたちも落ち着くんです」
美鈴、
少し照れる。
「そげんことないよ」
「ありますよ」
そこへ。
園長・大野先生。
「小倉先生」
「はい?」
「子どもたち、
今日ずっと笑ってましたよ」
静かな言葉。
でも。
それが、
一番嬉しかった。
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夜・白金荘
「ただいま〜……」
疲労困憊の美鈴。
だが。
優馬、
ニヤニヤ。
「みすず先生〜?」
「その呼び方やめぇ」
「今日も大人気やったみたいやねぇ〜?」
「うるさい」
すると。
優馬、
後ろからそっと抱きしめる。
「……おかえり」
その一言で。
美鈴の肩から、
ふっと力が抜けた。
「……ただいま」
⸻
だが次の瞬間
「優馬」
「ん?」
「腰痛い」
「はい?」
「マッサージ」
「出た」
「あと膝枕」
「欲張りセットやめろ」
「新婚さんやけん♡」
「万能ワードにするな!!」
白金荘の夜は、
今日も騒がしかった。
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次回予告 第107話「星組パニック大作戦」
みすず先生、
ついに遠足へ!
だが星組は——
「せんせぇぇ!!
だんごむし食べたぁぁ!!」
「なんでぇぇぇ!!」
一方白金荘では。
「優馬、
肩車して♡」
「腰やられた言うとったやろ!?」
さらにフェニックスでは、
“美鈴ママ化疑惑”浮上。
「完全に保護者目線やん」
「誰がや!!」
そして幼稚園に、
まさかの“超問題児”登場。
次回、
第107話「星組パニック大作戦」。
笑いと体力勝負の日々は、
まだまだ終わらない。




