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笑う母の物語  作者: リンダ


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白金荘と婚約指輪

 第104話「白金荘と婚約指輪」


 春が過ぎ、

 初夏の風が吹き始めていた。


 黒崎美鈴がリハビリを始めて、

 半年。


 杖を使えば、

 短い距離なら歩けるようになっていた。


 右手はまだ不自由。


 長時間立つことも難しい。


 それでも。


「うち、ここまで戻ってこれた」


 その言葉には、

 確かな実感があった。


 博多南総合病院・リハビリ室


「今日は階段いきましょう」


 理学療法士、

 さらっと言う。


 美鈴、

 固まる。


「……え?」


 優馬も固まる。


「え?」


「階段です」


「ラスボス早い!!」


 優馬、

 即ツッコミ。


 理学療法士、

 慣れてる顔。


「黒崎さん、

 もうかなり回復してますから」


「いやでも階段は怖か……」


 美鈴、

 手すりを見る。


 事故前なら、

 二段飛ばしでも余裕だった。


 でも今は違う。


 右脚に力が入りにくい。


 一歩間違えれば、

 転ぶ。


 その恐怖がある。


「……大丈夫」


 隣で、

 優馬がそっと言う。


「落ちても支えるけん」


「それ、

 プロポーズみたいな言い方せんで」


「いやもう半分プロポーズ済みやし」


「ふふっ」


 笑って。


 美鈴は、

 手すりを握った。


 一段。


 また一段。


 汗が落ちる。


 呼吸が荒くなる。


 でも。


 最後の一段を登り切った瞬間——


「……できた」


 優馬、

 目を潤ませる。


「すげぇ……」


「泣くの早くない?」


「だってお前、

 階段登いたぞ!?」


「幼児扱いやめぇ!!」


 リハビリ室、

 爆笑。


 そして数日後


 福岡市内・ホテル大宴会場。


 本日の貸切案内。


【黒崎美鈴 退院祝賀会】


 会場、

 とんでもない人数だった。


 博多南幼稚園の先生たち。


 フェニックス福岡。


 宗像高校女子バレー部OG。


 宗像中女子バレー部OG。


 後輩。


 指導者。


 保護者。


 関係者。


 まるで県大会決勝後みたいな熱気。


 会場入口


「黒崎ぁぁぁぁ!!」


 松永先輩、

 爆走。


「うわっ危なっ」


 車椅子の美鈴へ、

 抱きつく。


「生きとってほんと良かったぁぁ!!」


「先輩泣きすぎやけん!」


「泣くわ!!」


 後ろでは。


 宗像高校OG、

 号泣。


「黒崎先輩ぃぃぃ!!」


「生き返ったぁぁぁ!!」


「ゾンビみたいに言わんで!?」


 会場、

 笑いと涙で大混乱。


 さらに


 藤崎香織監督、

 登場。


「黒崎」


「監督……!」


「相変わらず騒がしいね」


「監督の代も十分騒がしかったです」


「否定できん」


 二人、

 笑う。


 そこへ。


 西嶋百合愛監督。


「ほら、

 宗像中OG整列!!」


「うおおおお!!」


 謎の体育会系拍手。


 ホテルなのに、

 完全に体育館空気。


 一方その頃


 優馬。


 端っこで、

 ガチガチ。


 そのポケットには。


 婚約指輪。


 今日、

 正式に渡すつもりだった。


「うわぁぁ……緊張する……」


 小倉家の父、

 小倉隆志が肩を叩く。


「男は腹くくれ」


 母・小倉由紀子、

 ニコニコ。


「優馬、顔真っ青よ?」


「無理やて……!」


 祝賀会スタート


 乾杯。


 拍手。


 歓声。


 そして。


「黒崎さん、

 一言お願いします!」


 マイクが渡る。


 美鈴、

 受け取る。


「えー、

 みなさん今日はありがとうございます」


 しんみり空気。


 だが。


「ちなみに、

 うち一時期幽霊やったと」


 会場、

 一瞬停止。


「はい?」


 優馬、

 嫌な予感。


 美鈴節、開幕


「で、

 白金荘で優馬と暮らしよったっちゃけど」


 正一、

 吹き出す。


「待て待て待て」


「優馬がね、

 女性耐性ゼロやけん」


「やめろぉぉぉ!!」


「うちが風呂入ってきただけで三回絶叫して」


 会場、

 ざわつく。


「しかも鼻血」


 誠一、

 テーブル叩いて爆笑。


「優馬くん、

 マンガか!!」


「違うんです!!

 状況が特殊すぎたんです!!」


「あと、

 うちが優馬のトランクス履いた時」


「やめて!?全国大会より恥ずかしい!!」


「鼻血でティッシュ一箱消えた」


 佳代、

 腹抱えて笑う。


「もうダメ……っ!」


 小倉由紀子、

 涙流しながら笑う。


「優馬、

 昔から女の子耐性なかったけど、

 ここまでとは……!」


 さらに。


「下着買いに行った時なんか——」


「ストーーップ!!!」


 優馬、

 マイク奪いに行く。


 だが。


 右脚がまだ不自由な美鈴を、

 誰より自然に支える。


 その瞬間。


 みんな、

 少しだけ静かになる。


 事故の前と後。


 変わったもの。


 でも、

 変わらないもの。


 それが、

 そこにあった。


 そして——


 優馬、

 深呼吸。


「……美鈴」


 会場が静まる。


 優馬、

 ポケットから小箱を出した。


「うわぁぁぁ!!」


「来たぁぁぁ!!」


「静かに!!」


 フェニックス勢、

 完全に観客。


 優馬は、

 震える手で箱を開けた。


 中には、

 小さな婚約指輪。


「美鈴」


 優馬、

 真っ直ぐ見る。


「幽霊の時も、

 今も。


 俺はずっと、

 お前のことが好きです。


 結婚してください」


 静寂。


 美鈴、

 涙が溢れる。


「……はい」


 声にならない。


 泣きながら頷く。


 優馬、

 指輪をはめる。


 その瞬間。


 会場、

 大拍手。


 号泣。


 絶叫。


 なぜかフェニックス勢、

 ウェーブ開始。


「結婚おめでとぉぉぉ!!」


「ウェーブすな!!」


 だが最後に


 美鈴、

 涙目のままニヤリ。


「優馬」


「ん?」


「これで合法的に毎日膝枕できるね♡」


「そこぉぉぉ!?」


 会場、

 再び爆笑。


 涙と笑いで、

 ホテルの夜は更けていった。


 次回予告 第105話「結婚式前夜と白金荘パニック」


 結婚式準備スタート。


 だが白金荘では——


「優馬、

 式のダンス練習するよ!」


「なんで新婦がスパルタなん!?」


 一方フェニックスでは、

 余興会議が大暴走。


「火柱演出!?」

「結婚式で何する気!?」


 さらに宗像高校OG、

 まさかのサプライズ計画。


 そして美鈴は、

 ウェディングドレス姿で優馬の前に現れる。


「……どう?」


 次回、

 第105話「結婚式前夜と白金荘パニック」。


 人生最大のイベントが、

 爆笑と涙で始まる。

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