トランクス大戦争
第95話「トランクス大戦争」
白金荘201号室。
朝。
優馬は、いつものように眠そうな顔で布団から這い出した。
「……ねむ……今日も朝から会議とか地獄やん……」
ぼさぼさ頭のまま、リビングへ向かう。
すると。
「おはよ、優馬♪」
美鈴がいた。
問題は――格好だった。
「…………」
優馬、停止。
下。
優馬のトランクス。
しかも今日のは黒。
上。
ぶかぶかの白Tシャツ。
さらに。
トランクスのウエスト部分を、わざわざ指で引っ張って見せていた。
「これ、意外と履き心地よかね〜♪」
「ぶっっっ!!!」
優馬、開幕鼻血。
「ちょっ!? 朝イチから何しよるん!?」
「え〜? 洗濯間に合わんかったけん、借りた♡」
「借りた、じゃないんよ!!」
美鈴はケラケラ笑う。
「優馬、顔真っ赤〜」
「なるわ!! なんでそんな格好で平然と歩けるん!?」
「え? 似合っとらん?」
くるっ。
美鈴が回る。
トランクスがふわっと揺れる。
優馬、視線が死ぬ。
「やめぇぇぇぇ!! 刺激が強い!!」
「ふふっ♪」
完全に遊ばれていた。
しかも。
「これ、前閉じとるタイプやね」
「情報を実況するなぁ!!」
「へぇ〜、男物ってこんな構造なんや〜」
「やめろぉぉぉぉ!!」
優馬、クッションで顔を覆う。
だが美鈴は止まらない。
「優馬さ〜」
「な、なん……」
「これ、ちょっと大きいっちゃけど」
「サイズ感の感想いらん!!」
「でも通気性よかよ?」
「レビューサイト開設するな!!」
美鈴、大爆笑。
腹を抱えて笑っている。
「っはははは!! 優馬、反応おもしろすぎ!!」
「人の理性をおもちゃにするな!!」
「だって優馬、すぐ鼻血出すやん!」
「そら出るやろ!!」
「ほらまた!」
つー。
「うわほんとに出とる!」
「誰のせいや!!」
美鈴はティッシュを持ってきて、優馬の鼻に押し当てた。
近い。
顔が。
近い。
「はいはい、じっとしとき〜」
「…………」
「優馬?」
「む、無理……近い……いい匂いする……」
「は?」
美鈴、数秒停止。
そして。
「〜〜〜〜っ!!」
顔真っ赤。
「な、何さらっと言いよると!?」
「いや本音が漏れた」
「漏れるな!!」
美鈴、照れ隠しで頭をぺしぺし叩く。
「いてっ! いてて!」
「ほんと優馬、危なっかしか!」
だが。
笑いながらも、美鈴は少し嬉しそうだった。
その時。
スマホのアラーム。
「やばっ!! 会社!!」
優馬、慌てて立ち上がる。
「うわぁぁ!! シャツどこ!? ネクタイどこ!?」
「はいはい、これ」
「なんで把握しとるん!?」
「うち、主婦力高いけん」
「幽霊なのに!?」
美鈴はニヤリ。
「いってらっしゃい、優馬♪」
その笑顔に。
一瞬。
優馬の動きが止まる。
「……」
「ん?」
「いや……なんでもない」
優馬は慌てて玄関へ向かった。
だが、ドアを開ける寸前。
「美鈴!」
「んー?」
「……その格好で外出るなよ!?」
「出らんわ!!」
白金荘に、美鈴の爆笑が響いた。
「っはははは!! 優馬ほんと面白すぎ!!」
玄関の外で、優馬は顔を真っ赤にしながら頭を抱える。
「……俺、ほんと幽霊に人生狂わされとる……」
でも。
口元は、少し笑っていた。
⸻
次回予告 第96話「病室の小さな奇跡」
眠り続ける黒崎美鈴。
だが病院では――
「脳波に反応があります!」
ついに“小さな奇跡”が起き始める。
一方白金荘では。
「優馬〜、洗濯物取り込んどって〜」
「なんで幽霊が家事指示しよるん!?」
さらにフェニックス福岡、
宗像高校、
宗像中学。
“黒崎美鈴のバレー”は、
全国を熱狂させ続ける。
そして優馬は、
自分の気持ちをもう誤魔化せなくなっていく。
「……俺、多分もう」
次回、
第96話「病室の小さな奇跡」。
止まっていた心が、
少しずつ動き始める。




