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悪魔憑き

 マルティンは現在が緊急事態であることはわかっているが、エノーラの事情について少し尋ねることにした。


「申し訳ないが俺は〈悪魔憑き〉というものに触れて生きてこなかったので、よくわかっていない。周りで悪魔に取りつかれた者もまったくいなかった。ざっとでいいので知っていることを教えてくれないか? そもそも悪魔とはなんだい? 悪霊や闇の精霊とは別なのかな?」


「はい。悪魔は神に準ずる存在とされています。半神なのですが、世界に害悪をなす存在が悪魔とされていますー」


「半神……ほぼほぼ神なのか。やばいな」


「いいえ、わたしも完全に分かっているわけではないですが、どうも神に昇格できなかった存在のようです」


「う~ん……消化するのに時間がかかりそうだから、他のことを教えてくれるかい?」


「わかりました。多くのことはわたし自身に禁忌の魔法が掛けられているので申し上げられませんが、冒険者ギルドのマスターが知っている程度の話はお教えできます。我々〈悪魔憑き〉になるのは長命種の者だけで、ここフダニット地方にいる人間種がなることはないです。悪魔にとりつかれると同胞に封印され、海外に道具として売られるのです」


「長命種……それってもしかしてエルフのこと?」


 この世界には人間以外に学習能力が高く魔法を操る種族がエルフ、ドワーフ、レベッグ、パックル、ケットシーがいる。いずれも人間より長生きだがエルフは人間の倍生きるとして知られている。

 マルティンの言葉にエノーラは首を横に振る。


「エルフほど寿命は短くないですね~。ちなみにわたしは人間でいうところの47歳ですー!」


 この言葉にマルティンは凍り付いた。エノーラは遠回しに自分が何者なのかを伝えたのがわかった。広く全般に高度な魔法に精通した幻の種族がいるといわれている。一つが龍と人間の間のドラゴニュート、もう一つが巨人のアルゴ、いま一つがエルフの上位種族のタイタニアだ。

 3つの種族はすでにアイソラ王国ではおとぎ話の存在であるが、文脈からするとエノーラはタイタニアの人間ということになる。タイタニアはとんでもなく高度な魔法を使うということであるから、〈悪魔憑き〉が他人に魔力を供給したり、魔力の流れに敏感な理由も納得できる。

 また同時にエノーラがある種、死を覚悟したからこそ教えてくれたのだと理解した。生きて帰れる保証がない状況だからこそ、情報を公開したのだとわかった。

 〈悪魔憑き〉がタイタニアだという事実が広く知られれば、人間の国で大きな騒動が起こることは間違いないだろう。

 またタイタニア族が悪魔に憑かれる理由や、憑かれた後になぜ人間の国に売られるかの疑問がわいてくるが、これはトップシークレットなのだろうと察する。


うっ、情報過多で頭がパンクしそうだ……。


 マルティンは前世の知識と自身の能力を知ったことだけで十分に混乱していたので、タイタニア族の情報はこれ以上いらなかった。

 話を現実的にするために切り替える。


「ここでグズグズしている時間はもうない。出口はウォーショーがいるだろうし、下に行けば別のモンスターに襲われるだろう。しかし――決断を下そうじゃないか」


 という言葉にエノーラは頷きを返す。


 さてとどうする? 何か攻撃性のある菌でもダンジョン内で探すか……


 マルティンはしばし思案すると、ある妙案が浮かんだ。それは前世の知識を生かしたモノであった。

 さっそく【培地】でダークネス菌を4000倍に増殖することに着手する。




 マルティンの下した判断は「しばらく時間稼ぎをする」というものであった。すぐに外に出てはウォーショーがいるので、しばしダンジョン内で【使役・極小】の能力を検証しようというのである。

 ダンジョン最下層にいるモンスターを倒せば、地上に帰還できる魔方陣が出現する理がある。だが今は最下層に行く選択肢は考えられない。

 マルティンの判断にエノーラも同意を示す。今、ウォーショーと遭遇するのはまずいとエノーラも判断したのだ。

 手持ちの持ち物は以下の通りである。小剣、ナイフ、〈マナ回復ポーション〉、〈フィジカル復元ポーション〉、中身がほぼない〈聖水ボトル〉、地図、ほくち箱、油、塩、ハサミ、包帯、小型ランタン、布、紙、水筒、木炭、魔法契約書、そして小麦粉と干し肉。

 装備は頭には鉄で補強したつば広帽子、胸と肩を覆う柔らかい皮鎧、ポケットの多い薄手の皮外套、ベルトに鉄板補強の長靴がマルティンの定番スタイルである。

 水は基礎魔法〈スプリングウォーター〉で何とかなるが、食料は節約して2人だと2日ほどだろうと判断する。

 ダンジョンのモンスターの肉を食うことも考えなくてはならないが、モンスターの肉は魔素が高いので、人間が食べるのは危険とされている。

 魔素は微細なマナのことであるが、魔素にはまだわからないことが多い。

 魔素の過剰摂取は心肺に負荷をかけ、正気を失うとされているのだ。

 モンスターの肉を【使役・極小】で何とかできる可能性はなくはない。肉の魔素を安全に分解する菌があれば何とかなるのだ。

 前の世界でも麹菌の酵素プロテアーゼで肉のタンパク質を分解し、美味しくさせる技術が存在しているので荒唐無稽な話ではない。

 【培地】はおおよそ3メートルの距離の微生物を収穫できることもわかってきている。

 また体内の善玉菌と呼ばれる、酪酸菌、乳酸菌、糖化菌、ビフィズス菌、バクテロイデス菌、ルミノコッカス菌、などを【培地】で1.5倍に増やして腸内に転移させると、体の調子が良くなった。

 ゆくゆくは光属性の善玉菌を作り上げれば、超健康体になれるかもしれないと思える。


「よし! 行くか……」


「はい!」


 すっかり体が万全になったマルティンはエノーラを背中に背負って進み始める。〈悪魔憑き〉は鎖で自由に歩けないので、基本的に他人に背負われて移動するのが常

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