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ビニントン襲撃①

 糞ったれ! いくら何でも果実酒もパイ料理もない僻地に呼び出されるなんて!!


 〈傀儡糸〉メイフィールドはかつてないほど腹を立てていた。

ここ小国コーストンまで早馬車を用意してくれたが7日の旅はさすがに体に堪えた。更には到着してもまともな宿もないために、古びた貴族の館の一室をあてがわれ閉口した。

 食事もろくな調味料が使われていない野卑なモノばかりで、アイソラ出身のメイフィールドには我慢ならなかった。

せっかく強盗ギルド〈崖の墓守〉で幹部まで上り詰めたのに、難しい依頼はメイフィールドに回ってきてこうやって現場に出向く日々が続き、ストレスがたまりにたまっている。

 4つの国で17の下部組織をもち、全ギルド員が387人に達したというのに、まったく楽ができない現状にメイフィールドは奥歯を強くかむ。

 こんなところまで来ることになったボスの無理の要求にイラついていたが、待ち合わせの館に入るとに気持ちが引き締まった。

 

「やあやあ、メイフィールドちゃんもこの変な作戦に駆り出されたんだね。ご苦労ちゃん」


 そういって姿を見せたのは七色の外套を着た伊達男であった。貴族のような優雅な装いと身のこなしのキングストンであったがれっきとした暗殺者ギルドのエースだ。

 キングストン一人いれば騎士団でさえも壊滅できるといわれているのを知っている名フィールドは自分が必要なのかと疑問に思った。

 そんなメイフィールドの顔を見たキングストンは無邪気に映る顔でクスリと笑う。


「まだ驚くのは早いよ。二階に目をやるといいよ」


 そういわれたメイフィールドが顔を上げると、レースがふんだんに使われたドレス須姿の美しい女性がお茶を飲んでいた。

 女性が座っているのは椅子ではなく、またお茶を入れているのも人ではない。

 女性を甲斐甲斐しく世話をしているのは根を足のように使い、葉を手のように使う大きな花であった。

 〈死の蘭〉使いのジャービスであった。ジャービスは女性だけの犯罪組織「闇華」の幹部で植物を自在に操る術師である。

 夜の蝶にも見えるジャービスであるがまた暗殺から大量殺戮まであらゆる任務をこなせるエキスパートであるので、いよいよわけが分からなくなる。

 メイフィールドは自分の所属するギルド〈崖の墓守〉と〈闇華〉は同盟関係にあるので、挨拶しようと動き出す。

 が、背後の扉が開き、姿を見せた人物にギョッとなる。


「ここで作戦の概要が聞けると聴いたが間違いないか?」


 そういったのは赤い鍔広帽に赤い外套と裾が膨らんだ赤いズボンを身に着けた青年であった。顔を巻いた布で隠している人物は表の世界でも有名である。

 最強と呼ばれる魔術師ベネディクトその人であったのだ。

 自分も一角の暗黒街の有名人だと思っていたが、今の現状では一番位がしたのでメイフィールドがベネディクトに会釈する。


「そういう話でござんす! まもなく雇い主から説明があると存じやす!」


 それを聞いたベネディクトは頷くと、空いている椅子に無造作にドカリと座った。

 ジャービスもキングストンもベネディクトを注視しているのがメイフィールドに伝わる。

 ベネディクトはバリバリの英才教育を受けた魔法軍のエリートであるのだ。強大な魔法を操り、戦場で確かな実績を積んできていたのである。

 ベネディクトはここ5か国からなるフダニット地方の人間ではなく、西の大陸プロシジャル地方のノックナリ王国の軍人である。ベネディクトがフダニット地方で有名なのは、ノックナリ王国から亡命し、どこか自分を軍幹部として雇用してくれないかと大々的に発信したことにある。

 祖国ノックナリ王国の公爵の恨みを買ったベネディクトではあるが、その実力は傭兵・冒険者としてあっという間に証明して見せた。千人を超える盗賊団を壊滅させ、街を強襲した40人の巨人族を撃退して見せ、多くの民が拍手喝采・賛辞を贈った。

 だがフダニット地方の国でベネディクトを召し抱えようとする国は今のところ現れてはいない。ベネディクトがあまりに強すぎたために、国家の形態を揺るがしかねないという評価が世間で出回ったのだ。

 ベネディクトも登用を口にしなくなるが、その活躍は時折世を騒がせた。短期間ベネディクトを金で雇い、難局を打開させる貴族・大商人が度々現れたのだ。

 メイフィールドは生唾を飲み込む。ベネディクトが来たとなると100人未満の敵を相手にするのではないとわかったからだ。

 間もなく古びた屋敷に訪問者が現れる。

 仮面をしているが颯爽とした身のこなしと6人の護衛を従えることで、一目で貴族とわかる中年男性が姿を見せた。


「名前を言えぬが、わたしが君たちの雇い主だ。早速だがここ小国コーストンのビニントンという地で、敵対行動する者を全員排除してほしい。ビニントンはここら馬車で3時間ほどの山で、そこにある集落に言って仕事をしてほしい」

 

 キングストンが雇い主に質問する。


「早い話、そのビニントンには何がいる? モンスター相手ならばわたしは不向きだとわかっていると思うが――」


「すまないが確実なことは言えない。多くの犯罪組織が買い上げた多くの奴隷を奪還し、今もかくまっている者がそこにいる。140名の奴隷を数人で奪還して匿っているのだ」


 それを聞いたジャービスが鼻を鳴らして不満を口にする。


「凄くて未知のスキルを持っている奴を相手にしろっていうの? それにその感じだと奴隷も殺さない方がいいっていう話じゃないの?」


「その通りだ。奴隷の中に何人か、誘拐・監禁していた要人が入っている。だからできるだけ殺さないでほしいのは確かだ。ただ、奪還できないとなれば皆殺しにして構わない。モンスターがうろつく山の上で籠城する者を相手にするのはあまりも莫大な費用と時間が必要になってしまう。なので奴隷を奪還できないと判断した場合は全滅させるように動いてほしい!」


 ここでベネディクトが声を出す。


「『奪還できない』と判断するのは誰なのだ? 間違いがあってはならないので雇い主のあなたが判断するというのでよろしいか?」


 すると仮面の中年は顔を横に振る。


「いいや、判断は高名なベネディクト氏にお願いする。40人からなる奪還部隊を指揮し、相手が強大であると判断した場合はベネディクト氏に殲滅の号令を出すように依頼したいがいかがか?」


 それにベネディクトが服の襟と布で覆われた口から笑い声をも漏らす。


「クククッ、作戦の意図は把握した。しっかりと意向に沿った仕事をしよう。把握できないスキルを持つ物と戦ったことは数十回とあるので、よもや判断を間違えるとは思わないでもらおう!」


 ベネディクトが明らかに楽しそうに言っているのを聞いて、皆押し黙る。ベネディクトが放つ魔法が途方もなく激しく苛烈であることを知らぬ者がいなかったからだ。

 

 これは十中八九、奴隷は皆殺しだろうな……。


 メイフィールドはベネディクトが放つ暗く圧倒的な雰囲気を肌で感じ、相当な陰惨な出来事が起こる予感を抱いたのだった。

 仮面の依頼主は部下に命じて、大きな卓の上に複数のアイテムを置く。それは魔法の巻物に数々の薬瓶であった。


「目的地ビニントンに近づくと、ダニに全身を食われ、熱病を発症し、魔力の消費が早くなるという報告がある。虫払いのアミュレット、病気を回避するスクロール、病気を退けるポーション、魔力回復ポーションを用意した。十分に活用してくれたまえ。君たち最高峰のプロに説教する気はないが十二分に気を付けてくれたまえ。あそこには得体のしれない何かがいる!」


 明らかに大物の貴族の言葉をメイフィールドは重く受け止めた。とはいえもう成功は疑いようがないのだ。

 こちらが仕事に支障をきたした時点で、相手はベネディクトの死の洗礼を受けることになるのだから。

 〈死の旋律〉ベネディクトと一緒に仕事をしたことは闇の世界では多くな勲章になることを確信し、すでに胸がわくわくし始めていた。


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