会議①
急ピッチで建築物が増え、排水溝や道の舗装が進む開拓地はもはや村と呼んでいい規模になっていた。
マルティンがテツマツを溶解した後、乾燥させてできた木板は加工しやすく恐ろしく丈夫という話である。
そんな開拓村にできたテツマツ製の最初の小屋はマルティンに献上された。
マルティンはそこに〈不死の銀騎士団〉テンペランスとアンジェラを呼び出し、会談することにした。
主な議題はこの開拓村の警備と、不安因子的人材の取り扱いについての打ち合わせだ。
小屋の中には切り株を利用した椅子が4つと、加工もされていない簡素な机があるだけであった。
マルティンが待っているとやがて2人が現れた。
「お待たせいたした。失礼する!」
そういう2人の頬は紅潮しており、瞳もやや潤んでいるようであった。
不自然なその様子の理由がマルティンにもすぐに分かる。2人のワンピースがダボダボでサイズが合っていないのだ。下着も不自由しているらしく胸元が丸見えだった。
サイズが合っていない服しかなかったのだと思ったがどうしようもないと思う。
現在、この開拓村では着る物が非常に不足しているのだ。
もちろん急遽増えた難民・奴隷のせいであるので早急に解決はできない。
実は【使役・極小】を使えば、布も何とかなることはなる。木材や草のリグニン・セルロースなどのリグノセルロース系素材を分解して、繊維に変える白色腐朽菌が存在する。前の世界ではバイオパルピングと呼ばれる技術である。
白色腐朽菌に似た菌はこの世界にもあり、すでにマルティンも入手しているがまだ改良の余地があり、すぐには稼働できない現状である。
もう少し時間を要するが、木材から布を作り出すことができるとマルティンは思っている。
そんな現状で姿を見せた2人をマルティンは気の毒に思ったが、打ち合わせをやめるわけにはいかないと判断する。
「わざわざ来てくれてありがとう。今日は〈不死の銀騎士団〉によかったら手伝ってもらいたいことの相談をしたいんだが、いいかな?」
この言葉でテンペランスとアンジェラの恥ずかしそうな顔が一瞬で緊迫したものに変わる。
「はい、お話を伺いいたそう!」
「同じく! 率直なご意見を承ります!」
マルティンは二人ともやはり美人だなと思う。テンペランスの霊峰のような美貌はいうまでもないが、アンジェラはその紅い髪と厚めの唇から情熱的な美人に映る。
しかしタイタニア族のエノーラには及ばないな。エノーラは今頃何をしているだろう……。
そんなことを考えている自分をマルティンは叱咤する。
ここから先は緊張感と集中力が必要なのだ。何しろスキルの秘密を打ち明け、理解してもらおうというのだから慎重にことを運ばなければならないのだから。
まずはお茶代わりの〈マナ回復ポーション〉を人のみして口を開く。
「まずはあなた達に相談する前に一つ知っておいてほしいことがある。それはわたしのスキルについてだ。わたしのスキルは【使役・極小】と呼ばれるものだ。聞いたことがないだろうし、非常に分かりにくいのだが丁寧に説明させてもらう。【使役・極小】とは目に見えないとてつもなく小さい生物を操るものだと理解してもらおう。目に見えない生物というのがなじみがないだろうが、この菌や細菌と呼ばれる存在はこの世界のどこにでもいる。そういう菌が物を腐らせたり、人を病気にするのだからまったく身に覚えがないというわけではないのではないかな?」
マルティンの言葉にアンジェラがハッとした顔をする。
「で、では稲妻肺炎をマルティン殿が治してくださったのも、率直にいってそのスキルの活用というわけでございますか?」
「その通り。稲妻肺炎を起こす細菌に【使役・極小】を使って出て行ってもらったのさ」
この言葉にテンペランスとアンジェラは互いの顔を見合わせ、微かに震えだす。
菌の概念が掴めてきただろうがやはり簡単には受け入れられないだろうと思う。
マルティンは話を進める。
「自分のスキル【使役・極小】はとてつもない代物であることを2人は理解してもらいたい。まずはアンジェラさんを蘇生させたリザレクション苔という神の力を宿す微生物がある。このリザレクション苔は人を生き返らせる可能性を持っている。ハッピーロマンチック原虫は感染すると、戦意をもてなくなり乙女のようにふるまってしまうという恐ろしい微生物である」
マルティンの説明に2人はハッとし瞳に恐怖の色を浮かべる。2人も盗賊どもがハッピーロマンチック原虫に感染し、乙女のようにふるまっているのを目にしているのだ。
「わたしがよく使っているニンジャ菌は、ほとんどあらゆるものの情報を採取し、菌同士で共有しあうと特性を持っている。この周囲に広く散布しているので、皆が感染している状態だ。ニンジャ菌は精密ではないが大概の情報を採取するので、菌を操れるわたしには大体のことを知ることができる。例えば君たちがキャボット帝国の騎士で祖国ロクドゥー共和国から裏切りにあったことなどが、縁もゆかりもないわたしが知るとことができるのだ!」
「そ、そんなことが!!」
テンペランスが驚きのあまり立ち上がり、その琥珀色の瞳を大きく震わせた。
マルティンは2人が想像以上の驚き方をしているので少し話すのを躊躇する。
だが、【使役・極小】とニンジャ菌を理解した上で知ってほしい話を切り出す。
「このニンジャ菌を使うと高レベルの者か、テンペランスさんのような希少性の高いスキル持ち以外には非常に有効で個人情報が手に入りやすい。そこですでに分かっている、ここにいる難民たちの中にいる危険因子をどうしたらいいのか困っているのです。難民の中には数人、人を傷つけることが好きだったり、子供に暴力を振るうのに遠慮のない者がいるのです。で、相談なのですが、〈不死の銀騎士団〉でその厄介な者を管理し対処していただけないでしょうか? ニンジャ菌のことをあまり知られるわけにもいかないので、信頼できる〈不死の銀騎士団〉らの皆さんに対応をお願いしたいがどうでしょう?」
マルティンはそういっても2人の反応は少し薄かった。しかし問いかけから40秒するとアンジェラが深く頷いて口を開く。理解するのに時間がかかったようであった。
「それはお任せを! 厄介な者を警戒し、監視・管理するのは率直に言って我らの専門分野なので期待に応えることができると思います! 是非我らに一任をお願いいたします!」
「そうか。それは頼もしい。ではお願いするよ。え~と、またついでいいのだが、ここにいる子たちに文字と計算を教える役目の者を数人さいて欲しいのだが、どうだろうか? こちらも期限を設けないから」
「えーっ、お願いされたら断りませんが――この奴隷だった者が多い、この地にいる子供にという話で間違いないので?」
「ああ。ビニントンにいる限り、食料は不自由させないつもりだ。だから子供達に労働させずに、その代わりに勉強させたいんだ。しかし教師役が務まる知識人は〈不死の銀騎士団〉とあと数人しかいないようなんだ」
「そうですか……」
マルティンはテンペランスとアンジェラが納得できていないのを肌で感じ取った。つまりキャボット帝国でも学習できる機会のある子どもは非常に限定されているのだろう。




