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剣聖テンペランス③

「手合わせは300数える間だけでいいですね?」


「充分だ、感謝する!」


 マルティンは大きくため息をつくと〈ストレージ〉から木刀を二つ出して、テンペランスに投げ渡す。

 続けて防御壁を張る〈マナシールド〉を8枚展開し、〈アスレチックアップ〉で全能力を向上、〈ウェイトコントロール〉で軽量化、更に最近習得した攻撃力が上がる〈インパクトブースト〉を改正術式で四重魔法を掛ける。

 ニンジャ菌でもテンペランスの実力がはっきりとは調べられていない。【千万剣】のサブスキルの【豪腕】が能力向上系であるとしかわからない。どうも別のサブスキルが発動して、他のサブスキルをニンジャ菌から守っているようである。こんなことは初めてであった。

 マルティンは近接戦闘において有効な微生物があまりないことを再認識しながら、このまま模擬戦をすることにする。

 〈ミッドサマの果実〉で向上した身体に、レベル差とブラッシュアップした基礎魔法でどこまでできるか図っておきたかったのだ。


「じゃあ始めましょう!」


 といった途端にマルティンは後悔した。自分の顔面目掛けて降り下ろされる片手での一撃はとてつもなく重かったのだ。


 ガッゥンッ!!


 辛うじて受け切ったが、連撃がされたらもう勝負は終わる――とマルティンは戦慄したが、テンペランスも後退する。

 下がったテンペランスは5秒ほど素振りをする。それは片手での戦いの重心を調整しているようにマルティンには映った。

 片手での戦闘スタイルはまだ慣れていないようである。

 マルティンもこの短い間で強者相手の戦い方を考える。そこで急遽、二渡の前の世界の剣術の知識を生かそうと考える。二渡は高校の時に同好会でスポーツチャンバラでかなり強かったのだ。

 スポーツチャンバラとは1971年に誕生したエアーソフトな武器で戦い合う競技だ。二渡は時代劇で覚えた奇襲・奇剣を駆使して戦い相手を翻弄するのを得意としていた。

 もちろんスポーツチャンバラの技術が剣聖に通用するわけがないが、マルティンは内なる二渡の知識を参考に、自分に取り入れられそうな技を一カ月前から吟味していた。マルティンが11年磨いた小剣の技術がまったく役立たずとは思いたくない。

 が、テンペランスは想像を軽く超えてくる。


 なんやねん、この娘は!? 動きが早くて正確で精密すぎる!!


 四重詠唱でおおよそ32%アップしたマルティンの身体能力に完全に対応してくる。細かいフェイントや牽制に一切反応しない。

 斧豪ウォーショーよりかなり強い――そんな想定であったが、完全にそれ以上であった。

 〈マナシールド〉も始まって30秒で一枚も残っていない。利き手ではない片手で戦う少女にあっさりと攻める経路を潰される。

 踏み込まれた瞬間も目で追えず、後退することで何とか対処できるほどだった。


 あ~、これはあと10秒後くらいに連撃くらって倒される流れだ。くっそ、ならばやるしかねえ!


 あっという間にジリ貧になると予想したマルティンは覚悟を決めて、攻めに出る。

 先ずは大きく後方に飛んでから、大きく前に出て、右腕を豪快に前に突き出す。

 片手一本突き――それは新選組の斎藤一が得意とする弾丸のように突きを繰り出す技で、初見殺しとして有名である。


「よしっ!!」


 即興であるがタイミングと間合いはほぼ完璧であった。

 が、テンペランスは自分の鎖骨周辺に伸びる切っ先を木刀を縦に傾けるだけで、あっさり軌道を変える。

 マルティンは失敗と見るや、体勢を無理やり変えて後退する。この無理やりな動作のために右足首をねん挫したが、痛みを無視して下がった。

 次に仕掛けるのは脛斬りである。柳剛流の剣をヒントに二渡がアレンジしたもので、斬り終わったかに見せかけて相手の軸足を打つという技である。これは技術的には居合切りのジャンルに入る技で、人によっては邪剣と呼ぶ類のテクニックだ。

 これも初見では対応できない類の技である。しかしテンペランスは驚きの対応を見せていく。

 右足に迫る木刀を靴の底で弾いてみせたのだ。

 木刀が踏みつぶされそうになったので、左に自ら転ぶことでそれを回避する。

 直後、左肩にドッスンとテンペランスからの重い一撃を受ける。まだ折れてはいないだろうと判断しながら再び距離を作る。

 降参という言葉が頭をよぎるが、レベル差のせいかもう少しできる気持ちが消えない。


「にしたって、守りに回った瞬間終わるってえの!」


 もう一度気持ちを引き締めて、天下無双の剣聖に仕掛ける。

 心は示現流剣士――一切の防御を捨て、一撃必殺の剛剣を敵に見舞う。


「チェスト!!」


 実際の示現流の掛け声は「チェスト」ではないようであったが、なりきるためにマルティンは不転退の覚悟で打ちに行く。

 が、現実は甘くなく、マルティンが二太刀繰り出す間に4発打たれ、激痛で泣きそうになる。

 意地で三太刀目を繰り出そうとすると、テンペランスが大ぶりの一撃を放ってきた。


「チェスト!!」


 テンペランスが気合と共に発したのは正に「一の太刀を疑わず、二の太刀要らず」の一振り――示現流の真骨頂ともいうべき一撃であった。

 マルティンは辛うじてその猛烈な一撃を木刀で受けたが、木刀は折れ、後方に5メートル吹き飛んだ。

 なんで示現流を使えるんだ? と転がりながら思っていると満面の笑みのテンペランスが語る。


「興味深いので真似てみたが、実に面白い剣技であるのだ! いやこの300秒は今までで一番楽しい手合わせであった! こんな発想の異なる技を複数使える者と戦えるとは愉快愉快!」


「えっ、もう300秒経った? 必死過ぎてわからんかった……」


 マルティンはハイヒール菌で自らの傷を癒しながら立ち上がる。一つもいいところを見せられなかったことに悔しさがこみ上げる。【使役・極小】を使わなくてもそこそこできるという思い上がりが砕かれ、少し涙目になっている自分に気づく。


 なんで、そこそこできると思っていたんだ? スポーツチャンバラなんかが通じると思ったんだよ。


 マルティンは自分を責めてなじった。

 だが観衆はマルティンと同じではない。皆が興奮しきった目をしてマルティンとテンペランスに賛辞を贈る。


「素晴らしい剣技でした! こんな凄いものをみたことがありません!」

「華麗で豪快!! すんげ~!」

「いや~傷も治せるのに凄く剣もうまくてオイラは感激で泣きそうだ!」


 素人から見るとマルティンもそこそこの使い手に映っているようであった。思ったほどの赤っ恥をかいてないと思うと現金にもホッとする。

 ここはカッコつけて互いの健闘を称え合う展開がいいか――そう思っていると青く輝く黒髪の女剣士が神妙な顔で質問してくる。


「つかぬことを伺うが姉達がかなり大変な目に合っていたところを、『たまたま』助けていただいたという話だが、何が『たまたま』であったのかお教えてくださらぬか?」


 マルティンは露骨に怯む。今一番聞かれたくない事柄であったからだ。あの時、動揺しすぎてかなりのタブーを犯した自覚があったのである。

 当然のように包み隠さずというわけにもいかないので遠まわしな言い方をしてみる。


「俺のスキルは『見えない存在に協力してもらう』といったものでして――。治療しても治らない者達が一定数いたので『凄い存在が近くにいれば助けてください』とお願いしたんです。そうしたら若い何人かが凄い存在に助けられたというわけでして――。もちろん、いつもこんなことは起きません。ですから『たまたま』、凄い存在が来てくれたってことですね~」


 凄い存在――それは恐らく神の力だとマルティンは思う。

 あの日、リンジーが収納鞄に危篤状態の者と死んだ者を入れて帰ってきて、それをマルティンが治療したのだ。

 だが気が動転しすぎたマルティンは治しても反応しない者に、神の力を宿しているらしいセイクリッドアメーバとハイヒール菌をベースにして作ったレザレクション、大量に培養して投与してしまったのである。死にたての肉体を複数目にして完全にパニックになったのだ。

 やりすぎだと気付いた時は後の祭りであった。

 言ってみれば知らずに原子力に頼ってしまったようなものだと思う。ろくな知識がない者が扱うにふさわしくないパワーと技術は、必ず失敗を招き、身を亡ぼすことになるであろう。

 レザレクション苔は生み出してみたものの、恐ろしくて使う気がなかったのに動転してあっさり乱用したことに我ながらあきれ返る。

 マルティンはあのことについてこれ以上に聞いてくれるな、と思っているとテンペランスは意外な行動をとっていた。

 マルティンに向け、左片膝を地面につけ、頭を深く下げていたのだ。


「マルティン殿――いやマルティン様、数々のご無礼をお許しください。あなた様の能力、才覚、器量に感服いたしました。〈不死の銀騎士団〉のテンペランス・ライクス、この時より生涯あなた様だけに仕えるとここに誓います!」


 ええぇ? そういうのはいりません。君は何かこじらせただけだよ。とにかくお断りします!


 マルティンはそうすぐに言いたかったが言葉を飲み込む。彼女が真剣に云ってきていることだけは伝わってきたのだ。十代特有の思い込みの激しさが巻き起こした宣誓であろうが、今はすぐに黒歴史化させないのが人情だと思う。

 テンペランスが過酷で無残な体験をしたことは理解していたが、唐突に会ったばかりの男に忠誠を誓うのは受け入れられる要素がない。

 マルティンは頭を抱える。


 こんなトラブルの塊はリンジーだけで十分だよ。剣聖とかスローライフ要素ゼロだ!


 帝国の皇太子に狙われる美少女剣聖だけでもお腹いっぱいなのに、やってきた難民・奴隷の中にマルティンの故郷のアイソラ王国の第一王女がいるのである。しかもスキルが【聖歌】というのだがら嫌な予感しかしない。

 これはもう一波乱二波乱起きることは確定しているように思う。

 リンジーのアホンダラが悪いと断ずることもできるが、本質は【使役・極小】の影響力の余波なのだろうと推測できた。

 ならばSSS級の【使役・極小】を最大限に行使すれば、スローライフ路線を取り返すことも可能ではないかと思う。

 マルティンは一刻も早く、世俗から切り離されたのんびりした生活を送ろうと固く心に誓うのだった。


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