剣聖テンペランス➁
テンペランスは好奇心のまま語り掛ける。
「突然で失礼するが、たった2日でレベル15にするなど、我がキャボット帝国の騎士団でも不可能なこと――し、しかも生産職の者が戦闘でレベル15など現実とは思えないのだが?」
テンペランスの発言に皆、唖然となる。がマルティンはすぐに反応して相手をする。皆が貴族と察して硬直したのを察したのだ。
「えーとテンペランスさんですよね。起きられるようになったのですね。おめでとうございます」
「貴殿がマルティン殿か。姉を含め、大変お世話になった。心から礼を言う」
テンペランスが膝を折って、感謝を示そうとするのをマルティンが止める。
「あ、そのままに――感謝の気持ちは受け取りました。えーとレベルアップの秘訣ですね。秘訣は特にないですね。俺のスキルで弱らせたモンスターをみんなでめった刺し。均等にとどめを刺させようとしているんですけど、全然うまくいってません」
【築造】スキルを持つ青年が興奮した顔で語る。
「マルティン様の貸してくれた剣がありえないほどスッとモンスターを斬ってしまって、びっくりしています。防具なんか傷をゆっくり治してくれて――これがなきゃすぐに死んでいましたね」
皆の装備を見たテンペランスは目を見開く。
「な、なんだその剣は? 魔力が煮えるようにこぼれ出ている……傷を癒す鎧など、国宝レベル――高難易度のダンジョンの最下層で手に入れられるようなものだぞ!」
そういうとテンペランスは皆の装備をつぶさに観察し始める。その顔には驚愕と興奮が入り混じっていた。
美少女が紅潮して熱心に見て回る姿はなぜか周りの者を和ませた。
テンペランスは引きつった顔で言う。
「全てが珠玉の品で間違いないようだ……。なるほどこれならば生産職の者も高難易度モンスターに太刀打ちできるのであろう。しかし、こんな高価な武器防具を使って、マルティン殿は何をなさろうとしているのだ?」
「ここにきた全員、早くここから出て行ってもらうためですよ。みんな誘拐・奴隷になって弱っているのを助けたけどこんな僻地にいるべきではない。とはいえ、ここから出て行っても盗賊やモンスターに襲われて死んだら意味がないので、否応なく鍛えているんです。で、皆の生活を良くできる生産職の者から優先してレベルを上げているんですね」
マルティンは心底面倒といった態度で肩をすくめる。これにはテンペランス以外は苦笑いを浮かべた。
テンペランスは困惑した顔で尋ねる。
「で、出て行ってもらう――というがでは何のために皆を悪党どもから救い出したのだ? ここの開拓を手伝ってもらうとかではないのか?」
この問いにマルティンは心底不愉快だといった顔で答える。
「それはあのポンコツ――俺の相棒が勝手にしでかしてここにみんなを連れてきただけで、俺の意志は微塵も反映されていないんです! 俺はここにみんなに住んで欲しいなんかこれっぽちも思っていません。それでも困っているならできるだけのことはしてやってやるだけで――だから治って十分に強くなったらとっととさっさと出て行ってもらいたいんですよ!」
テンペランスはマルティンがなぜ怒っているのか理解ができなかったが、本気で言っているのだとわかった。
他の者もマルティンの言葉に恐縮している。
それにしても何でここまで凄い人物がこんなところに住んでいるのかが気になっていく。
「ここを開拓したいと思っていないというが――貴殿は何でここにいて、何をするつもりであるのだ?」
「ここには温泉が出るのでゆったりゆっくり毎日入って、畑を耕して、狩りをしてのんびりするためにやってきました。ただそれだけしか考えていないんです! それが2日目にこんな大騒動になって、正直かなリ頭に来ているんです!」
憤懣やるかたないといった態度を示すと、皆が心苦しいといった態度をする。マルティンは全員に出て行って欲しいという意志を、初めから伝えているのがわかる。
それでもマルティンがとんでもない実力者で優しいので頼りにしているのだと、朧気ながら把握できた。
テンペランスら〈不死の銀騎士団〉も十分に回復したら、出ていって欲しいというのはあまりにも都合がいい。
仲間も数人失い、この世の中でも最低の地獄を見せられたが、復帰できる道が示されて胸に希望が溢れていく。
だが、同時に猛烈な好奇心がうずまいた。
この圧倒的な実力者にテンペランスは正面からぶつかりたくなってしまったのだ。
「失礼ながらマルティン殿のスキルは戦闘職ではないのか?」
「違います。申し訳ないがしっかりとスキルを教える気はないです」
「それは勿論――少し話は変わるが、腰に小剣を下げているので剣のたしなみは?」
「それは6歳の時からずっと振っています。貧乏貴族だったんで、それは息をするように鍛錬してきていますよ」
「では申し訳ないが少し手合わせをお願いしたいのだがよろしいか?」
「はぁ? いいえ、よろしくないです! あなたは騎士でしかも戦闘職――それも何か凄そうな感じがするし……」
「いやいや、大したスキルではござらん。ただ屈強なモンスターをあっさりと葬るマルティン殿の腕前を見てみたいのだ」
「いや~、テンペランス様は片腕だし――」
「片腕の小娘ならば手合わせ程度は問題ではないのでは?」
「いいえ、俺は基礎魔法いくつも使ってじゃないと近接戦闘なんかできないヘタレなんですから」
「基礎魔法大いに結構! 能力値を上げるポーションなどを使ってもらっても構いませぬ」
「じゃあ、互いに木刀なら……それでは嫌でしょう?」
「はい、木刀でよろしくお願いする!」
マルティンは露骨にうんざりした顔をする。ここまで必死に手合わせを主張してくると思っていなかったのだ。ニンジャ菌でテンペランスがS級スキル【千万剣】の剣聖と知っているので、やりあったらボコボコにされる可能性しかない。
とはいえテンペランスを含めた全員がキラキラした瞳で見て来ていたのでさすがに断りづらい。なぜなら皆マルティンの実力を目にしてはいない。モンスターを弱らせて、死体を魔法空間にしまうというところしか見ていないのだ。
気乗りしないが最後の条件を出してやることにする。




