バーナビ国王
マルティンは冒険者ギルドを出ると、その足でコーストン国の王宮に向かった。
そこは王宮と呼ぶのが馬鹿馬鹿しいほどの野卑な建物だ。
大きな石を組み合わせた3階建てのビル風の建物がバーナビ国王の住居である。
コーストン国の誕生は非常に情けない経緯があることを、マルティンは国王自ら聞かされていた。
バーナビがいたロクドゥー共和国は、戦争で大活躍したバーナビに授ける報奨がなかった。戦費が枯渇して国が傾きそうな状態にあったからだ。
しかもバーナビは騎士爵という低い身分だったので、十分な褒賞を与えることに反対する貴族も多かった。
そこで体裁の良い最大の報奨として、国の最果ての一部を割り当て、独立させるという形にしたのである。
なぜわざわざ独立させたかといえば「国王なんだからロクドゥー共和国に一切頼るな」と突き放すためのものであったという。辺境伯にすると公国が援助しないわけにはいかなくなるので、国王にしたのだ。
そんなわけで金欠国王のバーナビはしばらく他国で冒険者として暮らさなくてはいけない憂き目にあったのである。
今、マルティンがバーナビに会おうと思ったのは、くれると言ったビニントンを本当にもらえるかの確認である。
バーナビはそれだけ信用のおけない、いい加減な男であったのだ。バーナビは度胸があって頭もいいが、性根がグウタラで嘘つきなのである。
また温泉施設を勝手に作るのはトラブルの種にしかならない。
マルティンが石のビルにたどり着き、入り口の前の男にいうとバーナビは在宅だった。
バーナビは2階の一室にいた。部屋の中には半裸の女性が3人、あと魔族を含む様々な人種20人がタバコをくゆらせながら木札を使った遊戯をしていた。
マルティンは一瞬で部屋の中にいる者達が、淡い銀髪が特徴のフィヨナヴィア人、緑眼で肩幅が広いルリタニア人・黄色い舌を持つグラウステング人であることを確認する。
皆の輪の中の中心に、黒と茶の混ざった髪と顎髭の中年バーナビがいた。2年前よりも太って、お腹がかなり出ている。
マルティンは怠惰な雰囲気が溢れる空間にしり込みしたが、思い切ってバーナビに近づいた。
「バーナビ国王、おひさしぶりです。アイソラ王国出身の冒険者、マルティン・シュヴァルです」
そういうバーナビは少しまどろんだような目つきでマルティンを見た。
「ああん? 久しぶり? 冗談じゃなく俺はおめえなんか知らねえぞ!」
その言葉に場にいた者が一斉にマルティンを睨む。一瞬で部外者が乱入してきたような感じになったが、マルティンは魔法契約書を出しながら落ち着いた声を出す。
「〈勇健たる翼〉にいたマルティンです。あなたに24金貨の〈中級ヒーリングポーション〉の代金として土地をもらったマルティンです」
その言葉にバーナビは一瞬激怒したような顔をした。が、直ぐに破顔して笑い声を出す。
「ああ、思い出した思い出した! あん時の坊ちゃん冒険者か! 役立たずSSS級の! 久しぶり、元気か? あん時は冗談抜きで命拾いした。ありがとさん。でぇ、何でこんな僻地にいるんだよ! ガハハハッ!」
バーナビが大笑いすると周りも合わせて笑い出す。マルティンは耳が痛くなるような馬鹿声に顔を歪めたが、我慢して話を続ける。
「〈中級ヒーリングポーション〉の代金の代わりにビニントンという土地をいただいたんですけど、あそこに本当に自分は移り住んでいいんですね? 俺の土地でいいんですよね。それを確認しに来たんです」
「確認か~。冗談じゃなく変な奴だな。あそこは複数の鉱山に行きやすいが、モンスターだらけのヤバい場所なのに住むってぇ? いやはや酔狂だな」
「では住んでいいんですね?」
「ああいいぜ、男に二言はねえってぇ! 冗談なくな」
「ではここに著名をお願いします!」
そういってマルティンは魔法契約書とペンを差し出す。魔法契約書には土地の全ての権利と資源、人材はマルティンのものとするという内容が記されていた。
「ははは、わざわざ魔法契約書とは痛み入るね! 冗談だと思われるのも癪だから書いてやるってぇの」
バーナビは契約書を一度読みかけたが、あきらめさっさとペンでサインをする。
それをマルティンにつき返すとにやりと笑う。マルティンが確認すると思わず引きつった。
「『マルティン公爵にビニントンを一任する』――なんです、この公爵っていうのは?」
「コーストン国のほとんど3分の1の広さを任せるんだから、冗談でも公爵ぐらいの肩書は必要だろう? 貰っておけってぇ」
「はぁ……わかりました。コーストン国公爵として守るべきことがあったら一通り聞いておきますが?」
「何もねぇってぇ。何もかも冗談抜きに自由! それだけよ! 税金も取らねえ」
それだけいうとバーナビは一瞬で遊技に意識を戻す。お別れも云わずに木札をきって金を賭ける。すでに来訪者には興味がないといった様子であった。
マルティンもそれで十分である。これからやりたい放題をするのに横やりが入るのは避けたかったが、懸念することは消えたと考えた。
マルティンが部屋から出ると不意にバーナビの声が背中から掛かる。
「管理人によろしく言っておいてくれ! 冗談抜きで」
その言葉に周囲の者が大爆笑した。マルティンはその一連のことを不愉快に感じたが、戻って聞き返す気にもなれなかった。
もはや躊躇する要因は何もない。
ビニントンでやるべき計画が多く、それに使用する微生物もすでにいくつも用意しているのだ。
デカい露天風呂を作るまでとことんやってやるぜ!
【使役・極小】を活用するにしても僻地に温泉を作るのは簡単にはいかない。これから実行すべき優先順位をマルティンは頭の中で整理する。




