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かけ引き

 ニンジャ菌は【使役・極小】のスキルの最新のサブスキル【育種】でできた菌であった。

 【育種】はベヒーモスを倒し、更にダンジョンを2つ突破したことでレベルが51に達したことで取得できたサブスキルだ。

 【育種】は【交雑】のように存在する微生物を使って誕生させるのではなく、あらゆる生物情報をベースに新しい微生物を創造できるのだ。

 ただ【育種】は万能ではなく、現段階では【交雑】のように聖属性や呪いの力を持つ超高位な微生物を作り出すことはできない。

 マルティンが周囲の広域の情報を得るためにニンジャ菌を生み出し、活用していたのだ。感染して取得したデータは【解析】によってマルティンも知ることができた。

 受付嬢の女性もマスターのハマーの情報も取得している。


ミルホーン:人種は谷エルフ。年齢178歳。レベル24。人の殺害人数は187人。職業は受付嬢で元狩人。魔法適正は火と風。敏捷性と智性が高いが、筋力は低い。未婚。スキルは【看破】。実は秘密結社「87」の幹部。欲深く、冷静な悪。

 

ハマー:人種は人間。年齢39歳。レベル31。人の殺害人数は17人。職業はギルドマスターで元盾騎士。魔法適正は土。筋性と体力が高いが、運は低い。既婚者で子供2人。スキルは【全能力上昇】。性格は中立な考えができる善。


 と出ている。そうミルホーン受付嬢は【看破】で嘘を見抜けるのだ。それでいて秘密結社の一員で殺している数も異常である。マルティンはすでにミルホーンを強く警戒していたのだ。

 【看破】は嘘を見抜く侮れないスキルだが、弱点がある。ほとんどのスキルは使用者よりもレベルの高い者相手には効果が曖昧になることが多いのだ。

 しかもレベル差が倍近くになると、スキルが利かず、利いていないことも把握できなくなる。これはデバフ系のスキルや【誘惑】【支配】などでも顕著な結果だった。

 つまりはレベル51のマルティンにはレベル24のミルホーンの【看破】は効かないのである。

 案の定、ハマーは渋い顔で戻ってきた。


「中座してすまんのだ。ちなみに今回の報告を、【真偽の啓示】に実際に掛けても問題ないか?」


「はい――ああもちろん問題ない」


 【真偽の啓示】は嘘をついているかを教会で神官が審議するのだが、これもレベル差が問題になる。レベルの高い神官系の者が呪文やスキルを使わないとマルティンの嘘は見抜けない。しかも【真偽の啓示】は相当なお布施が必要になるので、それをギルドが負担することになるのだ。

 渋面で考えたハマーは咳払いした後に云う。


「実際、結論から言って、すぐには判断が下せない。様々な確認すべきことが色々あるのだ。この街には実際いつまで滞在する?」


「申し訳ないが、俺はビニントンという土地に立ち寄ってから、すぐに一カ月かけてアイソラ国に戻る。今回の報告、アイソラ国の冒険者ギルドで改めてさせてもらおう! なので〈イミューン〉の羊皮紙も返還してくれ」


 そうマルティンは静かに言い切った。アイソラ国に戻る気はさらさらなかったが、冒険者ギルドがごねる場合はミスリルの情報は大きな商会に売る気であったのだ。

 ハマーがこの半分嘘の話に食いつかないのは当然だが、こっちが有利に交渉できる立場なのだから遠慮する義理はない。

 マルティンが立ち上がると、ハマーが血相を変えた。


「ま、待つのだ! 少し《絶望の深潭》に詳しいギルド支社に問い合わせ、ウォーショーにも話を聞くだけだ! 実際、一週間だけ時間が欲しいのだ」


「アイソラ国には家族に連絡を取らずに待たせているので、申し訳ないが失礼させてもらう。俺は冒険者ギルドに義理立てしたし、後日改めて申告するのだから問題はないであろう?」


 ハマーが食い下がるのは当然である。希少なミスリルが確実に取れる場所の情報更新に、《絶望の深潭》の難所を通れる新規の基礎魔法の登録はギルドマスターにとって功績になるのだ。マルティンに他のギルドで報告されるのは非常に困るのであろう。

 ハマーは掴みかからんとする勢いでマルティンの前に立つ。


「わ、わかったのだ! ビニントンへの行き帰りの時間だけくれないか。だから正式な調査報告書を実際に提出して欲しい!」


 日本だったら土下座しそうな勢いで、ハマーは困った顔で言ってきた。機嫌を損ねたくないという様子が伝わったので、マルティンは嫌々といった態度を示しながら付き合うことにする。

 マルティンは完全にハマーを従わせるために、もう一枚のカードを切る。

 〈ストレージ〉から取り出した布を机に広げ、ミスリルの欠片を数十個披露した。包んだ布は4つあり、全部でレンガ5つ分ほどの量だ。


「調査報告書は書こう。ところでミスリルが欲しいならばここで売ってもいいがどうする? アイソラ国で換金しようと思ったが、ここで金に換えても構わない」


 これにハマーは顎が外れるのではないかといった大口を開き、驚いてみせた。

 このリアクションはさすがに大げさだとマルティンは思ったが、間もなく今回のミスリルだけで金貨1775枚になったと判明する。

 ミスリルは現在過去最高の高騰を見せていたのだ。

 売買の手数料15%は冒険者ギルドに落ちるので、ハマーの驚きは当然であった。


 冒険者ギルドを出る際にマルティンはハマーにミルホーン受付嬢のことをさりげなく尋ねた。

 おおよそ30年前に冒険者を引退して、冒険者ギルドで働き始めたという。暗殺者として働いていたようなこともない、健全な経歴のエルフだという。

 マルティンはそれでも警戒すべきと思い、ある菌をマーキング代わりにミルホーンに仕込むことにした。

 スローライフには殺し屋などいらないからである。

 冒険者ギルドでは実家と恩人2人に送金する手はずと、実家の妹に小さな小包を送る算段をつけた。

 ミスリルで得た馬鹿げた金額で、今のうちに俗世に関係する人物に謝礼を送りたかったのだ。

 金貨1775枚は二渡の感覚では日本では3億円ほどの価値になる。

 マルティンは実家に金貨100枚を4回に分け、恩人にはそれぞれ100枚ずつ送った。冒険者ギルドはこういう送金・郵送では他とは比べ物にならないほど信頼できる仕事をするのだ。そんな理由でマルティンは冒険者ギルドを完全に邪険にはできなかったのである。

 妹に手紙を出したかったが今回は我慢する。足取りを誰かに捕捉されるのは避けたかったのだ。

 最後は魔法契約書や魔法書、そしてあるだけの魔石を買い取って冒険者ギルドを去った。


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