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冒険者ギルド

 構造は他のギルドとまったく同じで、銀行のような大きなカウンターがあり、依頼掲示板が右手の壁に掛けられている。

 マルティンは総合案内の窓口に行き、自分の冒険者証を出しながらいう。冒険者ギルドのしきたりで口調は荒っぽくする。


「アイソラ王国出身のD級のマルティン・シュヴァルだ。申し訳ないがギルドマスターと話をさせて欲しい」


 窓口には知性溢れる印象の耳が長く大きい種族・エルフの女性がおり、マルティンを値踏みする。


「要件を承りました。しかしD級がギルドマスターを呼び出すというのはかなりの緊急事態か、それ同等の案件になると思いますが間違いありませんか?」


 刺すような受付嬢の視線を受けながらマルティンは頷き、女性の前に片手でギリギリ隠せるサイズの碧い鉱石・ミスリルを置く。


「あるダンジョンで、ミスリルの鉱床があった。それを報告したい」


 これに受付嬢は劇的な反応を示し、すぐにお待ちくださいと言って消えた。こんな辺境の所属でも一目でミスリルとわかるのは並大抵ではないと言える。

 間もなくマルティンは二階の応接間のような処に通された。

 20分以上経過してから礼服のような制服を着た、筋骨たくましい中年男性が姿を見せる。


「待たせたのだ。アスペルリン支部ギルドマスターのハマーだ。早速で申し訳ないが実際、君は死んだことになっているのだ」


「そうではないかと思っていた。〈烈々たる戦斧〉のウォーショーが《絶望の深潭》で死んだと報告したんだろうと想像していたがやはり――。実際は彼女に冒険中に足を斬られて、強制的なしんがりを強いられたんだ! そして〈悪魔憑き〉と一緒に放置されたのさ」


 それを聞き、ハマーの眉間に深い皴が生まれ、形相が変わる。


「それは重大な規約違反なのだ? 〈悪魔憑き〉を借り受けて放置だけでも重罪になる。ログ石があればウォーショーは実際、奴隷鉱山行きになるのだがあるか?」


「すまないがログ石は破壊したので、証拠がない。ログ石の破棄が俺を《絶望の深潭》で助けてくれた恩人の願いだったので――」


「恩人、そいつも冒険者なのだな?」


「西の方の国の魔術ギルドの方だ。偽名かも知れないが名前はルコック。俺はその人の助力で脱出できたんだ。正直、俺と〈悪魔憑き〉のエノーラだけでは生き残れなかった。だから非常に恩義を感じている!」


 心底感動している、といった演技をしているとハマーは手元の書類を見る。


「おまえの経歴は実際、凄いよな。現公爵が率いた〈燦爛の明星〉、現在S級パーティの〈暁天の双刃〉、S級冒険者を輩出した〈勇健たる翼〉、最速でA級パーティになった〈天哭の旅団〉、いやはや大成功したとしか思えない経歴だ」


「みんなSSS級スキルの持ち主として勧誘してくれるんだが、結果はこの様だ」


「実際、使い道の分からんスキルとは厄介なのだ。あ、いや、マルティンが無能などという気はないから容赦して欲しいのだ」


「ああ、わかっている。悲しいが馴れているさ」


「本当にそこは心底同情するのだ。実際マルティンの冒険者の評価は優秀と審査されているのだ。提出された新規地図・行程報告・物資の保存で最高級の認定を受けている」


 マルティンは昔ならば恥辱で震えていたかもしれないが、今は違う。【使役・極小】が開花した今は余裕があった。


「話を戻すが、俺はその恩人がなければ死んでいたので、ログ石を破壊した。だから〈烈々たる戦斧〉を追求する権利がないと考えている」


「そうか――で、実際ミスリルがあったのが《絶望の深潭》の中なのだな?」


「ああ。22階層の壁にかなりの量のミスリルがあった。本格的に取り出せば全身甲冑20つ分ぐらいはあると思う」


「ほ、本当ならびっくりなのだ……。しかし実際《絶望の深潭》はヤバい病気に感染して採掘なぞ無理だろう。確か病気にならなくする中級魔法〈サルヴェーション〉がないと難しいという……」


「その通り。その辺のことでルコックからある呪文を伝授してもらった。その基礎魔法〈イミューン〉があれば、《絶望の深潭》のダンジョン内で活動できる。おっと大事な情報があって、ミスリルのある22階層からはまた別の病気になるんだ。それはあるキノコが引き起こすもので、そのキノコの近くに行くと意識をキノコに支配されるという恐ろしいものだ! そちらも〈イミューン〉で防ぐことができる」


「なんだと!? 実際そんなキノコがいるのか? お、おまけにそれも同じ呪文で無効化できると? 実際信じられん話ばかりなのだ!」


「教わったので、ルコックと別れた後に俺なりに術式にしている! 〈イミューン〉を継続して使って行けば《絶望の深潭》の二つの脅威から身を守れる。実際俺は守ってもらった!」


 そういってマルティンは魔法語で書かれた羊皮紙をハマーの前に置いた。

 ハマーは微かに震えて、マルティンを見つめる。凄まじい眼力であったが、マルティンは冷静でいられた。レベルの差が大きいと干渉を受けにくいという現象が作用しているように思う。


 マルティンが魔術師ザディーグの名前を出さないように考えた嘘が以下である。

 ウォーショーに追われたマルティンは絶体絶命の中、ある魔術ギルドに所属するルコックに〈悪魔憑き〉のエノーラと共に拾われる。ダンジョンで病気にならない基礎魔法〈イミューン〉を教わり、ルコックの助手を務めて、22階層まで行き、そこから折り返し地上に戻った。マルティンはコーストン国でルコックから助手を解任されて別れる。〈悪魔憑き〉のエノーラはルコックをしたって付いていくことを選び、ルコックもそれを受け入れた。

 そういう設定にしたのだ。この嘘で取り敢えず乗り切ることにしたのである。

 ザディーグの名前は絶対に出さないと決心していた。

 ギルドマスター・ハマーは睨むよう、疑うようにマルティンを見た後に、席を立つ。


「実際少し待って欲しいのだ」


「ああ、もちろん構わない」


 〈イミューン〉の羊皮紙を持ったハマーがどこに行ったのか知っている。

 この応接室の隣の部屋にいるエルフ受付嬢と話をするのだろう。エルフ受付嬢は嘘発見が可能なスキルの持ち主でマルティンの真贋を見抜こうとしているのはわかっている。

 マルティンは全て見抜いて先回りしていたのだ。受付嬢はすでにニンジャ菌によって、スキルやレベルの情報を抜かれていた。

 というかギルド全体にニンジャ菌を散布して、マルティンは情報をかき集めていたのである。


ニンジャ菌:風属性と光属性のウィルス。生物が感染した場合の潜伏期間は3分。感染者の個人データを取得して、コロニー内で情報を更新・共有しあう。また無機物であっても凡その成分と、周辺情報を獲得できた。



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