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アスペルリン

 マルティンは朝からリンジーが何かしていると思ったが、それを知るとあきれ返ってしまった。

 村の中で放置された壊れたリヤカータイプの手押し車を、大工道具で直していたのである。

 木材の車輪など相当な熟練した技術がなければ修復できないであろうに、それをやってのけたのだ。

 ただリンジーが器用というだけではなく、【使役・極小】によってできた素材を生かしていた。

 【交雑】でできた微生物の中には、木材をセメントのようにしてしまう物などが誕生していたのである。

 

 子供たちに朝食を振舞うと、リンジーは手押し車を指差し、言い放った。


「手押し車はオメーが引けよ? あたいが引いたら人目を引くこと間違いねーからよ!」


「あ、そうか。そうだよな――わかったよ。でもおまえも面倒ごとを起こすなよ?」


 牛一頭ぐらいが運べる手押し車に子供全員が乗り込んだ。

 子供たちをコーストン国の中心・アスペルリンに一緒に連れていくことをリンジーが決定したのである。

 一応マルティンは子供達を連れていくのを反対したが、当然リンジーは無視した。

 子供たちの中で2名だけがあの廃村の出身であったのだ。

 それ以外は人売りの一団に捕まった子供であったが、赤オークに襲撃された際に逃げ出したという。

 子供たちだけの生活は過酷であったが、何とか兎などを狩って食べていたが、最近は不猟で木の実だけで飢えをしのいでいたというのだ。

 今から行くアスペルリンに誰も身内などいなかったが、孤児を引き取る施設ぐらいはあるのではないかとマルティンも考えた。

 孤児院などなかった場合は、人を雇って孤児院っぽい施設を作ってそこに押し付けることも想定する。


 数十人の子供が3年ぐらい生活できる金なら今の俺ならひねり出すのは不可能ではないだろう! 金貨600枚くらいあれば余裕じゃないか?


 今のマルティンには金をどうにでもできる目算はいくらでもあるのだ。

 何しろこの先子供たちは連れていけない。

 ビニントンという土地は正真正銘の秘境で、モンスターが跋扈する土地であるのだから。

 マルティンは自身に〈アスレチックアップ〉を掛けると子供たちを搭載した手押し車を持ち上げる。


「そんじゃ、出発だ」


 そういうと手押し車を引いて、コーストンのアスペルリンに向けて歩き出す。



 歩きだして4時間したところで、子供たちがざわめく。


「ずっと遠くでガチャガチャって鉄の音が聞こえる……」


 そういって耳を澄ませたのだ。

 マルティンとリンジーは思わず顔を見合わせる。

 そしてその1時間後には必死で逃げる冒険者パーティに出会う。

 街道の林の中から逃げるように出てきたのだ。


「お、おい、おまえら早く逃げろ! 街道に沿って林の中を化け物が駆けている! 鎧の化け物が30体近く走っているんだ!!」


 それだけいうと冒険者達は去っていく。当然、それを聞いた子供たちは震え上がったが、マルティンとリンジーは聞かなかったふりをした。

 今、街道に沿って走っているモンスター達に身に覚えがありすぎたからである。

 マルティンは歩きながら考えをまとめていく。すこし迷っていたが、この先、アスペルリンでどうすべきか方針を決めなくてはならない。

 人里が近いところでの目立った行動は無駄な厄介ごとを引き起こすことが、しっかり予知できたからだ。

 マルティンはリンジーと相談して、トラブルが起きないようにどうすべきか綿密に話し合った。




 バーナビ国王の話では「大きな村」程度の規模という話であったが、アスペルリンには活気があった。

 正直、町と言っていい規模であるとマルティンは思う。

 家も木造の掘っ立て小屋ばかりで、店も7割が露天商というありさまだが道の往来に勢いがある。

 驚いたのは魔族と呼ばれる、頭に角や触覚、肌に鱗や毛が生えた種族がいる点であった。アイソラ王国、ヴィガータ公国ではまず見かけない存在だ。


「まあ町がどうかはあまり関係ない。肝心なのは冒険者ギルドだ。これがしっかりしていれば俺の計画は問題なく始動する!」


 そうつぶやきながらマルティンは町を進む。途中、子供たちの服や靴を買い、宿で待機するように手配すると、冒険者ギルドを真っすぐ目指した。


 たどり着いてマルティンはホッとする。

 ヴィガータ公国で観たレベルと変わりがない外観であったからである。

 これならば従来通りの冒険者ギルドであろうと予想できたのだ。

 木造3階で切妻屋根、中世西欧を思わせる石材や漆喰が多用されている点も見逃せない。

 こんな僻地の小国にでも、モンスターや地下資源豊富な場所ならば支部を作らざるを得ないのが冒険者ギルドの宿命なのだと、マルティンは思う。


「よしよし! これならば普通の冒険者ギルドが期待できるな」


 マルティンはアイソラ王国などは信用していなかったが、冒険者ギルドだけは使える組織だと思っている。

 冒険者ギルドの秩序と運営は健全で、整っていると感じていたのだ。冒険者ギルドは多くの国にその支部を置いているが、基本その国の干渉は受けない。

 戦争が始まったとしても冒険者はどの国・陣営にも加担してはいけないし、加担しないことが名言されているのだ。

 またマルティンが知る限り、個人情報を守る、秘匿性が高い組織だと思っている。

 冒険者ギルドが制定しているランキングも、その権威と威光を裏付けている。Bランク以上の冒険者は、各国で騎士に準ずる扱いを受けているのだ。

 マルティンは自分の計画をもう一度頭の中で整理すると、ギルド施設内に入った。


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