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孤児

実は13話を投稿し忘れるというドジをしていました。申し訳ございません。割り込みで投稿しました。

 あと一日でコーストンに入るというところで、廃村があったのでそこで一泊することにした。


「うわ~、もろにモンスターの襲撃を食らったって感じだな」


 村を囲む高い石垣が瓦解し、50以上ある家屋が崩され、朽ちた資材がごろごろと転がっていた。

 白骨死体などはなかったが、人気が無くわびしい空気に満ちている。

 ここ周辺で赤オークを4体倒していたので、赤オークの襲撃があったのだろうと察する。

 マルティンは村の入り口から近い、大きめの家の中で野営することにする。家にはすでにほぼ屋根がなく、家の中で焚火をした後がいくつも見えた。他の旅人も使っているようだ。

 リンジーの持つ大きなカバンの中にはもちろんザディーグの施設が入っているが、余計なトラブルを避けるために使用はなるべく控えている。

 もちろん人里離れたところでは風呂に入るために使用はしていたが、街道を歩く際には慎重にふるまうことにしたのだ。

 現在収納魔法〈ストレージ〉の空間にはありあまるほど食料が入っている。

 立ち寄った村で現金を得るためにマルティンが作った〈中級ヒーリングポーション〉をほとんど捨て値で売りまくった金で、散財していたのだ。

 当然どこにいっても〈中級ヒーリングポーション〉は超貴重品なので、村人は全財産であるだけ買おうとした。その為にマルティンは手にした金で村にあるだけの品と食料を買い込んだのだ。

 罪悪感からしたことである。


 瓶代だけしか掛かっていない品で、みんなが必死に貯めた金をむしり取っているようでキツい!


 何しろ買った瓶に、街道沿いに生えている満月竜胆・三日月薊を潰した水にハイヒール菌を流し込むだけで〈中級ヒーリングポーション〉ができてしまうので、マルティンにして見れば、簡単な労力で村の財産をむしり取っているように思えた。

 そこで瓶や壺を根こそぎ買い、更には売り物のほとんどを買って村を去っていったのだ。

 リンジーなどは〈中級ヒーリングポーション〉が必要だが買えない貧しい家にそっと配って回った。当然のようにマルティンの許可を得ていないが止める理由がない。

 リンジーは【使役・極小】に関心も敬意も示さなかった。まあ器用だな、程度の反応であったのだ。

 食材や調味料もマルティンだけでは消費できない量が入っている。

 マルティンは石で組んだ竈に大鍋に火をかけ、基礎魔法〈スプリングウォーター〉で水を入れて、切った野菜と肉をどんどん入れる。

 また木に刺した肉を焚火でどんどん焙っていく。

 そして調味料として、山椒・紅胡椒・岩塩、4種類の乾燥ハーブをふんだんに使う。


「ひひひっ、誘い出されていやがる。おもしれ~!」


 肉に火がまんべんなく通る様に調整しながらリンジーはつぶやく。

 

「ふふふ、生唾を飲む音がいくつも聞こえてきているな!」


 マルティンは竈に炭を足し、鍋の灰汁を取りながら、ほくそ笑む。

 マルティンがいる家に8つの人影が息を殺して接近してきていた。その人影はいずれも小さい。

 村に入る前から感知していたが、ここまで全員が子供サイズとは思っていなかった。

 接近されるほどに詳細な情報がわかっていき、マルティンは青ざめる。子供たち全員が極端にやせ細り、怪我もしていたのだ。

 マルティンは周囲の情報を読む菌、ニンジャ菌を使って状態を把握していた。

 しかも8名のうち、幼児が一人、赤ん坊が一人という有様であった。

 マルティンは震える。この世界が前の世界以上に残酷であることはわかっていたが、廃村で子供たちだけで暮らすという事態を想定していなかった。

 ふとリンジーを見ると、その童顔に悲壮感と怒りが浮かんでいるように映る。


「全員逃がさないようにする! だからオメーはすぐに治療しろ!」


「わかっている」


 そう答えるとリンジーは高速移動モードに入った。

 マルティンは子供たちの惨状に心が折れそうだったが、何とか無理にほほ笑むと子供たちに振り返った。


「いや~料理を作りすぎちゃったよ。よかったら君達も食べるかい?」 


 できるだけフレンドリーにマルティンはいったが、直後子供たちは踵を返し、脱兎のごとく逃げ出す。

 その子供たちの退路を両手を広げたリンジーが塞ぐ。


「全員取り押さえるから、さっさと治せや、このタコ~!!」


「もうやっているよ!」


 そういってマルティンは【培地】からハイパークロレラと、クロレラシェイク菌を【有向】で次々と鼻を経由して子供達に流し込んでいた。

 クロレラは前の世界にもあった藻で、簡単に言うと栄養価の極端に高いワカメのようなモノである。それをマルティンは【交雑】で栄養価を20倍に引き上げてハイパークロレラを作り出していた。

 ただしハイパークロレラは腸の中で栄養に分解されるのが簡単ではなかったのでマルティンは、ハイパークロレラを分解・吸収できるクロレラシェイク菌を生み出していたのだ。

 二渡はこの手の研究を大学院からしていたので専門分野であった。

 なぜ急いで子供たちに栄養を与えたかといえば、治療し食事をさせるためである。

 飢餓状態の人間がいきなり食事をするとリフィーディング症候群を引き起こし、ショック死することがある。食事も治療も栄養が十分でないと体に大きな負荷がかかるのである。

 だからマルティンはまずは急速に栄養を腸に優しく吸収させてから、高ヒール菌を与えて子供たちを癒したのだ。

 子供のうち3人の体ですでに壊死しているところがあったので、治療をするのに緊急性があったのである。

 リンジーに取り押さえられて、パニックになっていた子供たちも次第に、体の調子が良くなっていっているのに気づいていく。


「あれ、ずっと苦しかったのに、なんか良くなっていっている!」


「お腹がペコペコで死にそうだったのに――それにお手手が痛くない!」


「見えなかった片方の目で見える。おかしいな……」


 子供たちは己の変化を次第に受け入れ始める。

 その間にマルティンは更にピュリファイタケの胞子を全員に振りかける。するとたちまち子供たちの体についた皮脂や汚れが小さなキノコになってボロボロと崩れて落ちる。


 ギャ~~ッ!!


 ほぼ全身がキノコまみれになって皆再びパニックになったが、「料理ができた」という言葉と料理の匂いに意識を掴まれる。

 マルティンは小ぶりの木皿に次々と鍋の具沢山スープを盛り付けて、子供たちにスプーンと共に渡していく。

 途端に子供たちは料理を急速にかき込む。

 赤ん坊を抱えた10歳ほどの少女がまずは赤ん坊を優先させて食べさせようとするが、リンジーが赤ん坊を素早く奪う。


「あたいが面倒見るから早くメシを食いな!」


 そしてリンジーはスプーンで潰したイモを赤ん坊にゆっくり食べさせて、10歳の少女に食事をするように促す。

 子供たちの食欲は凄まじかった。


「おいしおいしおいし!!」

「こんなお肉たっぷりスープ初めて!」

「焼いたお肉が美味しすぎてほっぺが落ちそう!」


 スープを4回お代わり、肉も大きな塊をペロリと平らげた。

 そして満腹になった子からウトウトし始めて、眠りに落ちていった。

 年長少女はマルティンに近づき、膝を折って敬意を示す。


「ごちそうさまです。その怪我をした子まで治していただいて――そのあなた様はどこかの宮廷魔導士様でございますか?」


「いいや。違うさ、どこにでもいるしがない魔法使いだよ」


「怪我をたちまち治してしまう魔法使いなど聴いたことがないのですが、その、都会の方ではそうなのでしょうか? しかも何もないところから食べ物を取り出したり……」


「いや。う~ん。まあ俺は少し変わっている方かな?」


 マルティンは答えながらもできるだけテンション低めにすることにした。この子たちの事情を知ったら、色々面倒なことになるように思ったからだ。

 怪我を治して食事をさせただけ――それだけの関係にしたかった。

 少女もそれを察してか、それ以上は踏み込んでこない。

 しかしリンジーはこの後、ずけずけと少女に話を聞きだしていく。

 マルティンはできるだけその話を聞かないように、耳をふさいだ。


 子供に優しくしたいが深入りしてはダメだ! 俺の行く先は何が起こるかわからない未開の地だし……。


 SSS級をもってしても、世の中でできることはそう多くないのはわかっていた。

 4年の冒険者生活で自分がヒーローになるという考えは一切捨てていたのだ。


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