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決断

「あ~、王都見たかったな~!! いや、エノーラについていった方がマシだったかもな~」


 魔法人形の愚痴を18回聞いたところで主人は反応を返す。


「そんなに行きたいなら行くことを許可するよ。『50年間自由行動を許可する!』 ほら宣言したよ」


「はん、わかってね-なー。あたいはオメーを守るという役目が大前提なんだよ。まったく!」


「いやザディーグ様を助けられなかったじゃないか」


「嫌なこというよな、オメー! 施設から出れない縛りがあったんだから仕方ねえじゃねーか!」


「なら例の『いうことを聞かない』を行使すればいいじゃないかよ」


「50年間離れるとか、無理に決まってんじゃんか! ア・ホ」


「アホいうな、4号……じゃないリンジーは相変わらず口が悪い」


 《絶望の深潭》を攻略したマルティンは、魔法人形の材料の確保のために鉱山近くのダンジョンを2つ攻略した。

 その後でアイソラ王国王都で足りない材料を商店で購入する予定であったが、マルティンは行く先を変えると決定する。

 もう王都には行く気になれなかったのだ。

 SSS級スキル保持者として王国に仕えるのも、魔導士ザディーグの遺産を譲り渡すのも面倒にしか思えなくなったのだ。魔法人形などの魔法器機だけでもとんでもないがザディーグの遺産の本質は、残された日記兼理論書にあったといっていい。

 マルティンが読み始めると数々の錬金術に加えて、新規の魔法の開発にも着手しているのがわかってきたのだ。

 エノーラが使った瞬間移動装置などは世界の根幹を変えかねない偉大な発明である。

 開発された新呪文だけでもとんでもなかった。〈イミューン〉という呪文は、体に有害な菌の侵入を防ぐ基礎魔法であったのだ。恐らくザディーグが《絶望の深潭》で生きるために設計・作り出したものであろう。

 ザディーグの遺産はとにかく規格外であった。これをアイソラ王国に渡すだけでもう人生が消耗させられるのは確実といえた。


 大金持ちになるどころか貴族になるだろうが、色んなやっかいごとを押し付けられるぞ。下手すると戦争で沢山の人を殺すように命じられる可能性があるんだよな……。


 アイソラ王国に帰るのは絶対にベストではない。

 そこでマルティンは行き先をもっとも東にある小国コーストンにしたのだ。

 国王が財政難のために冒険者をしているような、他ならば村レベルの小国であるが、マルティンはそこの土地の権利書を持っている。

 国王バーナビが瀕死の重傷を負った時に〈中級ヒーリングポーション〉を使ってあげたのである。バーナビはホブゴブリン討伐の遠征で一時活動を共にしていたのだ

 バーナビはポーションの代金ではなく土地の権利書で支払ったのである。

 一応は魔法契約書であるが、未開の土地なので価値はほとんどない。

 しかしバーナビ国王のくれたビニントンという土地は、モンスターが跋扈するが温泉が出るという話であった。それがマルティンには非常に魅力的に思えたのだ。領土の最北には火山があるので、火山性温泉が複数存在すると聞かされて興奮した。

 土地の権利書がマルティンにはなぜ魅力的に思えたのか自分でも不思議であったが、二渡の記憶が戻った今ならばよくわかる。

 二渡の趣味は温泉と漫画を読むことであったのだ。菌の研究で疲れた時に、温泉に入りながら漫画を読むのが何よりの贅沢であった。


「辺境の地でスローライフするぜ! そんで温泉三昧する!」


 そう宣言したので4号ことリンジーは不機嫌だった。4号に人間らしい名前を付けたのは、人前ではさすがに体裁が悪いからだ。

 3つの村を経由した際に、名前が必要だったのでマルティンがとっさに付けたのである。

 すでにアイソラ王国の領土を出て19日目、ヴィガータ公国からあと3日で出て、小国コーストンに入る算段であった。

 二渡の感覚では東京から大阪ぐらいの距離なのでかなりの移動になる。道も整備されていないし、モンスターに盗賊も出るので楽な行程ではない。

 だがもうマルティンの決心は揺るがなかった。何が何でものんびりする気になっていたのだ。エノーラと再び会うという計画は先送りするのが現実的だった。

 間もなく18歳になるが、のんびりしたことなど10歳以来一度もなかったので、世俗から離れたくてしかたがない。


「いやいや41歳を経てからの18歳だからもう60歳。リタイアするのは不思議じゃないんだよ。むしろ自然!」


 前世までの体験を含めると完全に初老だと思うと、マルティンの休暇欲は更に高まった。

 もちろん温泉を作るのも簡単ではないだろうが、今のマルティンには様々な技術や力があるのであきらめる必要がないのだ。

 そんなマルティンにリンジーはため息をつく。


「一回くらい都会ってやつを見たかったよー。困った奴が主人になっちまったぜ~!」


「しつこい。何度も同じ話をしない!」


「オメーは家族が王都にいるんだろう? 顔見せなくていいのかよ」


「両親と妹は仲が良いけど、実家の跡取りの兄貴とは会いたくないね。恩師以外は国には会いたい人はいないんだよ」


「ちぇ! じゃあせめてさー、あの飛行荷台使おうぜー! あれでチャチャッと王都行ってからコーストンに行けばいいじゃねーか!」


「冗談じゃない。あんなの使って目撃されたら世界中の魔法使いに追われるわ! 色んな国も沢山の死人を出す覚悟で奪取しに来るぞ」


 魔導士ザディーグは魔法で飛ぶ荷馬車タイプの飛行道具を作り出していた。魔石で動くタイプで魔力が少ない者でも扱える画期的なもので、世間に普及すれば革命が起こることが確実だった。構造もシンプルで模倣は十分に可能に見える。

 だからこそ、マルティンは完全に封印して、使うことも絶対しないと決めていた。


「ちぇっ! あ~あ、こんな小心者がジジイの引継ぎとかマジで萎えるわ~!」


「小心者いうな!」


 一カ月近く一緒に過ごすと、マルティンはリンジーがとんでもない存在には思えなくなっていた。リンジーは非常に人間味の強い魔法人形だったのだ。

 盗賊に出会ってもいきなり皆殺しにするようなことはなく、そこそこの手加減もできた。

 買い物もそつなくこなし、人付き合いも問題がない。

 生みの親の魔導士は残された書物からも明らかに奇人であると思ったが、リンジーはどこか苦労した感じの才智が覗えた。

 好奇心も旺盛で、明光風靡な景色には足を止めて見惚れるなど、いちいち人間臭い。

 というわけでリンジーとの旅はマルティンにとってはほぼデメリットがないものになっていたのだ―――口が悪い以外は。


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