悪魔祓い
口をはさむタイミングもなく10分2人を見守ったところで、声をはさむ。
「エノーラ、もしかしたら君に役立つ菌を見つけたんだけど、どう思うか意見をくれる?」
「は、はいー、なんですか?」
「セイクリッドアメーバっていう、どうも特殊な桃の木の果実に生息する菌なんだけど呪いや穢れを打ち砕く力・ニンバスを発生させるらしいんだ。もしかしたら君のその悪魔を追い払うのに役に立たないかと思って!」
マルティンは明るい会話をする口調で言ったが、エノーラは違った。鉄仮面越しにマルティンを睨み、密接するように近づく。
「い、今ニンバスとおっしゃいましたか? 伝説の林檎の木にが宿すという神の力をマルティンさんが使えるというのですか!!」
怒涛に迫るエノーラを見て戸惑ったが、正確に伝えようと考える。
「ああ、まあそうかな。黄金の色の林檎の表面にいたセイクリッドアメーバの情報は吸い取ったから、再現して・繁殖できると思うよ」
「そ、そうなのですか! あのあの厚かましいお願いですが、その微生物を極限まで増やして、わたしに注いでもらうことは可能ですか?」
「セイクリッドアメーバを滅茶苦茶増やして君に浴びせるの?」
「はい! ニンバスを再現することは我が里では不可能とされているので、この機会を逃がすわけにはいかないのですー。悪魔がニンバスを恐れ、嫌悪することは間違いないのです!」
マルティンにはよくわからなかったが、呪いを破壊する力・ニンバスを発生させるセイクリッドアメーバを〈悪魔憑き〉が苦手とする可能性は高いと思った。アニメでもそんな感じだと二渡の感性も言ってくる。
「確認するけど、使う俺がニンバスっていう力がよくわかっていないんだけど大丈夫かな? もう少し、色々検証した方が良くないかな?」
「いいえ、わたしに直接かけてくださって構いません!! 何があっても自分の責任だと思いますので~!」
「そ、そうか……」
エノーラの圧にマルティンは圧される。前世の慣習からいきなりの人体実験は物凄い抵抗感があるが、是非にと頼まれると主義を変えざるを得なかった。
「よし、増やせばいいんだな? 限界まで増やしてみせるよ! 【使役・極小】の能力で」
【使役・極小】を極限まで稼働させようと考える。セイクリッドアメーバ増殖に専念していく。
【有向】は【培地】に収めたセイクリッドアメーバを増殖させる。【培地】で増やせる量もレベル24になると相当なものになっている。
菌の濃度が最高潮になっていた。前世の感覚でいうと菌の濃度を表すlog値が上限であるlog10を超えて、log15をいっている気がする。前世の実験室では酸素不足やpH変化などが原因で培養の壁があったが、【培地】には常識が通じないようであった。
3つの【培地】セクションで培養して、4つ目に取り掛かろうとしたところ、エノーラに変化があった。
グモロォォーン!!
突如獣ような大声を張り上げ、体から黒い霧のようなものが猛烈に漂い始めた。エノーラの鉄仮面と鎖が恐ろしい速度で振動し、破壊される勢いを発した。
これには4号も目を見開く。
「おいおい、さすがにヤバくないか? 沸騰したヤカンみたいになっているじゃないか!」
エノーラの変化はホラー映画のそれであったが、理由はマルティンにもわかる。エノーラに憑いた悪魔がセイクリッドアメーバがもつニンバスの存在を感じ取ったのだろう。
マルティンにもおぼろげながらニンバスという力の動きがわかり始めてきた。清涼感のある日の光が濃縮したような波動を覚えた。これならばエノーラを害することはないと感じたマルティンがセイクリッドアメーバを放出する。
「よし! まずは第一弾を食らえ!!」
セイクリッドアメーバをエノーラを中心に広域に包むように放出するとエノーラの動きは更に激しくなった。
感電するように全身を震わせて、うめき声を漏らし、黒い霧を放出させていく。
また、エノーラの頭上の空間が揺れ始め、何かが出現しそうな雰囲気を出し始める。
「な、なんだ? 別の悪魔を呼んでいるのか? くそ、舐めんな!」
マルティンはさらに【培地】のエリアを増やしてセイクリッドアメーバを増殖させ、今ある分を空間の揺らめきと、エノーラに向けて放出する。
グノノォオォ~!?
直後、断末魔が響き、空間の揺らめきは風船のようにはじけて消滅し、エノーラの体からは大量の黒い霧が出てから散り散りとなった。
「おっと!」
エノーラは全身から力が抜けたように倒れるが、4号が片腕でとっさに支えた。
マルティンがぐったりとなったエノーラに近づく。
「大丈夫か、エノーラ?」
「だ、大丈夫です……。ふふふっ、油断していた悪魔がもだえ苦しんでいってザマーミロでした!」
「えっ?」
「マルティンさんのニンバスは本物でした。まさしく神の力……悪魔はビックリして逃げ出そうとしたので少し邪魔をしてやったら、ニンバスを大量に浴びて――ついでに呼び寄せた本体もニンバスを食らっていい気味でした」
「お、おう……」
マルティンはエノーラから悪魔が出ていったのが分かったが、やはり細かいことはわからない。
二渡の記憶には悪魔祓いの映画を見たものがあったが、あまり参考にはならなかった。
すると、エノーラにまだ変化が起きていることがわかった。体がじょじょに大きくなっていたのだ。
「エノーラ、体が膨張しているんじゃないか?」
「あ、そうですー! 早く道具を外さないと窒息しちゃいます!」
するとエノーラは呪文を唱えた。今までマルティンはエノーラが呪文を唱えるのを見たことがない。
詠唱を終えると、仮面が縦に割れ、鎖がほどけて地面に音を起てて落ちる。
エノーラの肉体の変化は続き、大きさが1.5倍、身長が130センチから165センチほどに伸びて治まった。
エノーラは自分の体をチェックするように見ると、満足するように頷く。
「も、元の体に戻った~!! 感激、実に18年ぶりです~!!」
マルティンは変化した容姿にあっけに取れれる。
エノーラは小柄な未発育な14歳ほどの少女の体型であったのに、目の前にいる女性は17歳のようで魅惑的な肢体をしていた。
「いやいやいやいや、美人過ぎるだろう……」
マルティンの口から思わず言葉が漏れた。それほどまでにエノーラは絶世の美女であったのだ。
大きく上に伸びた耳や金色に輝く虹彩、紅紫の髪色など人間とは異なる部分もあり、通常の人間とは一線を画していた。
エノーラはマルティンの言葉に顔を赤くする。
「里では『美人』なんていわれたことがないですよー。でもそういってもらえるのは嬉しいですねー」
「えっと、エノーラだよね?」
呆けるマルティンに近づいたエノーラはニッコリと微笑んだ。
「あらためまして、東ゴゥント族の戦士マイクロフトの娘、タイタニアのエノーラでございます。この度は悪魔を退けていただいて誠にありがとうございます。【使役・極小】のマルティン・シュヴァルさんには一生をかけて恩義を返えさせていただきます!」
マルティンはエノーラの言葉が頭に入ってこない。
あまりに美しさに脳が完全に痺れてしまっていたのだ。前世の映画でも見たことがない完璧な美貌に魅入られてしまっていた。




