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インターオペラビリティ・イシュー

「まあ、いい。おい、説明がメンドーだからついてこい!」


 4号は威圧的にふるまうと、マルティンの腕をつかんで歩き出す。資材室を出て廊下を進んで、2回曲がった部屋に入る。

 そこは広い空間であった。奥の壁は40メートルほど離れて映る。中にはいくつもの大型機器があり、静かに稼働音を放っている。

 いちいち説明を求めたいと思っていたが4号の連行は止まらない。

 やがて大きな透明のタンクが4つある大型装置の前にたどりつく。


「えっ? 人が閉じ込められているの?」


 4つの透明な大きなタンクには3人の全裸の女性が入っていた。しかしそれは人間ではないとすぐにわかる。腕や頭の一部が開いており、そこには歯車や回転軸、連結棒が見えて、魔法人形だとわかる。

 3体は若い女性型というのが共通であったが容姿がそれぞれ特徴的だ。

 一人は赤い長髪の女性で発育が行き届いた均整の取れた肢体をしている。

 いま一人は足元まで伸びた銀髪をした高貴な顔立ちであり、胸が大きく豊かだった。

 3人目は清楚な顔つきでスレンダーな長身をしており、全身にしなやかな艶やかさがあった。

 それを見た二階の意識が、「うわ~、ギャルゲーのキャラ達みたい!」とつぶやいた。

 4号が大きくため息をついていう。


「あたいの姉、ジジイの作品であり、愛人だった連中さ。外見が違うのはジジイの女性の好みの移り変わりのせいさ!」


「げっ、いってやるなよ!」


 マルティンは思わず4号にそう言った。マルティンは二階の歴史を踏まえた58年の中で、自分の女性の好みが時々移り変わっていることを自覚している。

 1号、2号、3号、そして4号は確かに容姿が全く異なっている。

 しかしそれは恥ずかしいことで他人に知られたくないことであった。

 男同士でもその点はプライバシーを尊重し合うが、この魔法人形は主人ザディーグを容赦しない。

 性癖の移行の話にならないようにマルティンは話題を変えた。


「なんで他の三人はこういう風に保管されている? もう動かないの?」


「まあその通りで、ぶっ壊れちまっているんだわ。でも、ジジイは全員このあたいと同じ最新式に変えるつもりだったんだ。けど旧式を最新式にするのは簡単じゃなかったっていってたよ!」


「それは一から作り直しているんじゃないってこと?」


「古い機械は今の最新の頭脳装置とつながりがないんだと――難しい話は分かんねーけど」


「ああ、インターオペラビリティ・イシューの問題――相互運用性問題か。世界が違ってもあるんだな~」


 マルティンは二階の知識を介してそう言った。インターオペラビリティ・イシューは、医療、製造業、ITインフラなどで古いデータを新規の機械で引き継ぐのに様々な問題が起きることを言う。二階はそれで苦労したことが度々あったのだ。

 4号は少しマルティンを見直した顔をしていう。


「ふ~ん、問題がわかんならここの施設もあんたが管理人として契約すればいーじゃんよ」


「簡単に言うなよ。魔法人形なんか完全に専門外だ」


「オメーがジジイがここに来て初めての訪問者だぜ? 147年で初めての訪問者ってことは次に誰かがこの施設に来た時にはここが朽ち果ててることもあり得るってことだぜー?」


「……否定はしない」


「だからーオメーの好きにしても誰も文句は言わねーし。新規改善された1号、2号、3号も自由に使えるぜ?」


「はあ? そんな単純な話ではないと思うぞ」


「ジジイ的には1号が完成するのにあと4年、2号は127年、3号は82年掛かるらしいぜ。組み立て装置が材料不足で苦戦していて開発が進まねえって話だから、おまえが材料不足を解消すればいいんじゃね?」


 4号は軽いノリで言ったが、完全に門外漢のマルティンが受け入れられるものではない。


「無理無理。俺はこのダンジョン内で生活する気はないから! ここは広いけどずっといるのは無理だよ。それに魔法人形に関する勉強も一切していないし」


「全部持っていけばいーじゃんかー。この施設は魔法空間で、大きなカバンの中に全部入っているんだからよー!」


「えっ……ここってマジックバッグの中なのか? いや普通は魔法の収納空間には生き物が入れないはずなのに――うわ~またも常識を破壊しに来てやがる……」


 云われてもマルティンには受け入れられない。持ち運びできる施設など聞いたことがなかった。伝説の魔導士ザディーグの仕事と技術のスケールが規格外過ぎる。


「ひょっとしてザディーグ様もスキルはSSS級だった?」


「いいや。【錬金術】がSS級だったんだぜー」


「SS級【錬金術】か。なるほどな……いや、つまり俺のスキルの方が上? まさか、そんなことはないか」


 マルティンは眩暈がしそうで思わず後退する。同時にこの施設をしょいこむ危険性にも意識がいく。

 ザディーグの財産は間違いなく王国に報告する義務が発生するであろう。

 自分のスキルの事だけでも悩みが尽きないのに、SS級魔導士の遺品を引き継ぐのはハードルが高すぎる。

 正直にいえば面倒くさかった。

 ここでマルティンはエノーラを待たせていたことを思い出す。


「おっと人を、仲間を外に待たせているんだけど入れてよいかな?」


「ここはもうおまえのモンだから好きにすればいいぜ」


「そうか。あのエノーラっていう女性なんだけど、かなり変わった人物なんだ。いや本人は真面目でいい人なんだけど、ちょっと背景が複雑な人で――」


「ふーん、どんな風に複雑なんだ?」


「俺も詳しくはわかっていないんだが、悪魔にとり憑かれているようなんだ。その悪魔っていうのは神になれなかった存在らしいけど……うん、詳しくはわからない」


「まあいんじゃねえ? 例えそいつがヤバい奴でもおめーがここに入れたいなら可能なんだし」


「そ、そうか。じゃあ、早速行ってくるよ」


 マルティンが迎えに行くと4号も付いてきた。


「待たせたね、エノーラ。紹介するけど、この女性はこの施設で作られた魔法の人形なんだ。名前は特になくて暫定的に4号と呼ぶことにしている」


 エノーラは動揺した様子で、4号に会釈する。


「どうも初めまして。エノーラといいます。世間では悪魔にとり憑かれていることで〈悪魔憑き〉と呼ばれています。この仮面と鎖は悪魔を抑え込む封印となっております」


「おう、4号だ。個人的には珍しい存在に出会えてうれしいぜ! まあ魔法で動いているあたいの方が珍しいとは思うけどね」


 そういって4号が笑うとエノーラも「本当ですね」と言って笑い声を上げた。

 2人はなぜかそこから意気投合したように話し、たいして面白くない会話を行い、時折笑い声をあげた。


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