第8話 クロードside
狭い執務室でため息を零す。
侯爵家の次男として生を受け、少し変わった両親と兄に愛されて育った俺は、世間ではたいそう醜いものだった。
俺自身、自分の容姿がいいものだとは思ったこともないし、忌み嫌われるものだと理解している。
それでも幼い頃は両親と似ても似つかない顔に、どうして己だけがと絶望していた。
顔を合わせた途端に悲鳴を上げられ泣き出した者たちと関わる気はなく、いつしか自分から距離を取るようになった。
いつか素敵な人を、と期待する両親には悪いが、俺にはもうそんな気持ちは微塵もない。家のためにと相手に我慢を強いるくらいならば、一人でいる方がよほど気が楽だ。
そう、人との関りを最低限にしていた俺に、最近近づいてくる者が現れたのだ。
グランドル・フローレス。
国王陛下すらも一目置くほどの頭脳と才能を持ち合わせており、その容姿もさることながら。美しすぎる伯爵家と言われるほど、フローレス伯爵家の美貌は有名だった。
そんな完璧な彼が、先日から声を掛けてくるようになったのだ。
内容は何でもない世間話から、俺の趣味や嗜好。そんなことを知って何になるのだと思い、両親や兄のことを話すがそれには興味を示さない。なんとも不気味で読めない男だ。
事の発端は騎士団の公開訓練での出来事。
あの日は騎士団内がかなり浮ついており呆れたことを覚えている。原因はまさにフローレス家。
メリーベル・フローレスは女神の子。それくらい美しいと聞くフローレス家の一人娘は先日成人を迎えたらしい。
簡素な観客席に見えた姿は異質で、噂には聞いていたが実際に目にするとつい視線が向いてしまう気持ちは分からなくもない。
美しいプラチナブロンドをなびかせ、美しいと称される顔を真っ黒いヴェールで隠している。ほっそりとした体躯は儚げで男たちが守りたいと思うのは当然だろう。顔を隠しているのに、それすらも神秘的に思えるのだから不思議だ。
デビュタントで初めて素顔を見た者はすぐに求婚のための手紙を送ったと言っていた。
だが、俺には関係ないこと。時折、彼女から視線を感じたような気もするが、俺ほど醜い者を見たことがないからだろう。
そうして通常通り訓練を終え騎士団内を歩いていた時だった。
ロータリー付近で話をしている集団を見かけ、通行の邪魔だと注意しようとした時、その横を通り過ぎる小さな存在が押し出され体勢を崩したのが見えた。危ない、と咄嗟に駆け出して支える。ふわり、と軽い体を抱えると目を見開いた。
近づいたことでうっすらと見えたヴェールの下は女神にそっくりだったからだ。ここまで完璧な美であれば、顔を隠すことも頷ける。
動かない彼女の肩を支え、悲鳴を上げられることを覚悟した。
が、予想とは違う反応を返された。
叫ばないどころか、きちんとした挨拶を交わしお礼がしたいと言った。
自分は咄嗟に支えただけ。大したことなどしていないし、騎士団内で怪我をしたなどあってはいけない。意図が分からずに冷たく拒否したはずなのだが。
メリーベル・フローレス。
父親に頼んでまで、彼女は何をしたいのか。考えても全く分からなかった。




