第6話
あっという間に終わってしまった訓練は、お世辞抜きに凄かった。鉄の塊をあんな軽々と振り回せることも、人間の体はあんなに早く動くことができるのかということも、新たな発見である。
馬車乗り場が混雑するだろうと、少し時間をずらして帰ることにした私は静まり返った騎士団内の通路を歩く。
入口付近に近づくと、人だかりが出来ており騒がしい。
どうやら地味顔騎士様たちがご令嬢に挨拶しているらしかった。
これなら早く席を立っても大丈夫だったかも、なんて思いながら横を通り抜けようとした時。
ドンッ。
「え?」
喧嘩になったのか、二人のご令嬢が私の方にふらりと倒れ込んできて――咄嗟に反応できなかった私の体はそのまま階段下へ落ちていく。
数段ではあるものの、無傷ではすまないだろう。
あーあ、怪我なんてしたら過保護が再発しちゃうよ。喧嘩ならもうちょっと隅でやってくれないかな。
こんな危機的状況なのに周りがゆっくりに見え、思考はとても冷静だった。反射的にぎゅっと目をつぶって衝撃に備えた。
「お嬢様……っ!!」
ステラの慌てる声と共に私の体がふわりと浮いた感覚がしてゆっくりと目を開ける。
「大丈夫か?」
バクバクとなっている心臓は、今しがた落ちかけたからか、もしくは、目の前の暴力ともいえる顔面偏差値の高さにときめいてか。(※落ちかけたからです)
ぱちぱちと瞬きを繰り返しヴェール越しに網膜に焼き付けていると、クロード様の眉間にシワがよっていく。そんな顔も素敵だ。じゃなくて……っ!
しっかりしなくては!と思い出した私は、自分の足で立つとクロード様の腕を名残惜しく思いながらそっと離れる。
「申し訳ございません。びっくりしたものですぐに反応できませんでした。助けていただきありがとうございます」
まだ少し震える足を叱咤して淑女の礼をする。
「……いや、無事ならいい」
短い返事を残して立ち去ろうとする彼の腕を咄嗟に掴んでしまった。驚きに目を見開いた表情が見える。
でも、こんなチャンスはなかなかない。
引き止めに成功したことに安堵してパッと手を離すと、深呼吸して荒ぶる心臓を落ち着ける。
「急に掴んでごめんなさいっ!あ、あの……私メリーベル・フローレスと申します。お名前を伺ってもいいでしょうか?お礼をしたくて……」
さっきステラから彼について聞いてはいたが、きちんと挨拶をしなければ今度私から話しかけることができない。なんとも貴族の決まりはめんどくさい。
高鳴る鼓動を抑えて見上げる。
ああ、今顔が見えなくて良かった。
きっと緊張と羞恥と期待で人に見せられない顔してる。
「……クロード・リオレンドだ。礼はいらない。では失礼する」
硬い声色でそう言ったクロード様はくるりと背を向け地味顔さんたちの方へ歩いて行った。少し怒ったような声が聞こえるので、きっとさっきのことを注意しているんだ。
真面目なとこもステキだ。
ぽーっとしていると、ステラが慌てたように駆け寄ってきて「ほんと心配しました!」「お怪我は無いですか?」なんて泣きそうになるから、邪魔になる前にお暇することにした。
少しだけ浮かれた気分の私は、これから待ち受ける魔王(お父様)との対談に向けてあれこれ考えるのであった。




