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転生令嬢は恋がしたい  作者: 海瑠トワ


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第5話

 薄い黄色のドレスを身に纏い、日傘をさして歩みを進める。

 簡素な石造りの通路は、無駄なものがなく真っ直ぐに伸びている。


「思ったより多いわね」


 今日は騎士団の公開訓練の日であり、一般人も受け付けで身元確認をしてしまえば見学をすることが可能なのだ。

 そのため他にも人が居るとは思っていたが、予想よりも席が埋まっていることに少し困ってしまう。


「人気の騎士様がいるそうですよ」


「そうなんだ……負けられないわね」


「お嬢様なら大丈夫だと思いますけど」


 ステラの慰めに肩を竦めて後方の席に腰を下ろす。


 ヴェールもあって見づらいけど、お父様から厳命されているため外すわけにはいかない。


 危険だと渋るお父様に「国を守る騎士様方の訓練を見てみたい」と必死にお願いしたのだ。約束を破ったと知れたら二度とひとりで外出など許して貰えないだろう。


「……はぁ、やっぱり目立っているわね」


 顔を隠した不審な女だからジロジロと視線を向けられるのは仕方ない。観戦席にいるご令嬢たちからだけでなく、訓練場に見える騎士たちからの視線も感じる。


 私が居心地の悪さを感じていると、前方からきゃあきゃあと歓声が上がって何事かと目線を向ける。


 そこには明るい茶髪を緩く結んだ地味顔の騎士がいた。


「あの方が噂のミハル・オレガン様ですよ。剣の腕もあってあの通り美男子ですから、公爵家の三男ですが王子様たちと同じくらい人気があるんですよ」


 美男子……。私とそう変わらない糸目だ。

 ステラには悪いけど地味顔は家族でおなかいっぱいよ。


「ふぅん……よく知っているわね」


 私も各家の特徴や当主様方の名前は把握しているが、そこまで詳しくない。


「お嬢様が噂に疎いだけですよ。まぁ、旦那様たちが意図して制限している気もしますが」


「あー……」


 交友関係は全くと言っていいほどないし、そんなこと教えて貰うなんて考えもしなかった。

 確かにお父様たちなら私に余計な情報は与えないようにとなにか対策とかしていそうだし。このままだと、流行に疎い呑気なお嬢様だと思われそうだ。今度噂好きのメイドたちと世間話でもしよう。


 気を取り直した私は、剣を手に並んだ騎士様たちを眺める。事前にステラから聞いていたように、確かに地味顔の人は少なく見える。ちょっと遠目で分かりづらいけど。


 だからといって私がときめくような人はいないのね……。


 少し肩を落としたその時、目立つように入ってきた大柄の男性の後に続く黒髪に目を奪われた。


 少し硬そうな艶やかな黒髪に鋭く切れ長な目元。ルビーのような赤い瞳がすごく綺麗。スっと通った鼻筋に薄めの唇。


 え、好き。


 ここからでもハッキリとわかる圧倒的顔面に呆気にとられる。


「ね、ねぇ、ステラ?あの、マントをした団長さん?の後ろの方は、どなた?」


 ちょっと声が裏返ったりして挙動不審だがそんなこと今は気にしてられない。目に焼き付けるので忙しいから。


「あー……あの方は最年少で副騎士団長となったクロード・リオレンド様ですね。侯爵家の次男で次期団長候補と言われているくらいお強いそうです、けど……まぁ、あの容姿ですから、あの方もある意味有名ですね」


 ステラは私が欲しい情報をコソッと教えてくれる。


「そう……クロード・リオレンド様……」


 侯爵家の次男ということは、伯爵家の私が釣り合わないというほどでは無い。私の方が身分は低いが、こんなこともあろうかと私自身の教育は完璧だし、実家も割と発言権は強い方である。


 彼は騎士として身を立てているから家督は継がないだろう。貴族家当主の奥様はちょっと重荷に感じて嫌だったし、かといって平民に嫁ぐことはお父様からのお許しが出るはずがない。


「ねぇ、ステラ」


「どうしました?気分でも悪くなりましたか?」


 心配そうな声が聞こえて首を振る。


「違うわ。そ、その……私にもチャンスはあると思う?」


「え?どういうことでしょうか?」


 困惑するような表情のステラに小さく呟いた。


「ク、クロード・リオレンド様の婚約者に」


 私の言葉にピシリと石のように固まってしまったステラは、だんだんと顔を青ざめさせて「え、お嬢様が?まさか、そんなはずは」などとブツブツと唱え出す。


「……やっぱり、無理かしら」


 そうよね。

 あんな完璧な美の前に烏滸がましいか。


 肩を落として落ち込んでしまえば、ステラは慌てて首を振る。そんな、もげそうな勢いで否定しなくても。


「大丈夫、分かっていたから……」


「そんなことありません!少し驚いてしまっただけですわ!このステラ、お嬢様のためなら全力で応援いたします!!」


 手を取って力説する様子に苦笑する。圧が強いよ。


「そう言ってくれて嬉しい……ありがとう、ステラ」


「やっぱりお嬢様に悲しい顔なんて似合いません!」


 無事協力者を得た私は安堵し、その後はゆっくりとクロード様を見つめていた。

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