第27話
最近の私は妙に体が軽い。
それもこれもクロード様との交流のおかげかしら。
あの日から三日に一回のペースで騎士団へ足を運び、クッキーなどの焼き菓子を差し入れさせてもらってる。
私が元気よくバスケットを差し出すと、大きな手で遠慮がちに受け取って照れくさそうにはにかむ。その様子がとんでもなく可愛い。
初めはそんな私たちをジロジロと見ては驚いたような怪しむような視線を向けていた騎士様たちも、今ではクロード様へ揶揄い交じりの言葉を投げたりしている。その度に少しだけ顔を赤くして慌てる彼もキュンだ。
「よしっ! ステラ、どう?可愛い?」
ポニーテールを揺らして問いかける。
「ふふ、ええ、とても!」
宥めるように言うステラへ頬を膨らませる。
「……あなたたちはいつも『可愛い』とか『綺麗です』しか言わないから心配なのよ」
「大丈夫ですわ、恋するお嬢様は誰よりもお綺麗ですから」
「それならいいけど……」
そんなに浮ついているかしら?少し落ち着いた方がいいわね。
恋する、って言葉、そのとおりなんだけどなんだか恥ずかしい。
ふいっと視線を背ければそれすらも分かっているかのように笑われた。
「今日はマーマレードを使ったジャムクッキーにしたの。気に入ってくれるかしら」
「ええ、きっと」
厨房で受け取ったカゴを手に馬車へと乗り込んだ。
だいぶ暖かい気温である今日は、ギラギラと照りつける太陽のせいかもう夏のようだ。
いつものように受付を(ステラが)済ませて日傘をさして歩く。傘なんて邪魔だと思うけど、日焼けなんてしたらステラたちメイドが泣いちゃうから渋々ね。
雲ひとつない快晴の空を見上げていると、ふと、目の前から誰か歩いてきた。
珍しい。男の人だ。
いや、騎士団なんだから男の人が珍しいとかじゃないんだけど、綺麗なスーツを着て明らかに貴族令息って人は普段見かけない。
見学は圧倒的にご令嬢が多いし、男性も使用人だったり文官の人だったりと、王宮に勤める人が騎士団へ用事があって、っていうパターン。
ちょっとだけ驚いた私はついじっと見てしまって、慌てて視線を下げて横を通り過ぎた。と思ったんだけど、何故か手首を掴まれ話しかけられた。
「こんにちは」
え、なにこの人。だれ?
「……こんにちは」
ステラが物凄く驚いて私の後ろにサッと静かに控えた。
ん?と、いうことは、だよ?
この人、きっと私より身分が上の人だ。
うーん、見たことあるような気もするんだけど、どこで見たんだろう?
淡い金髪が太陽に照らされてキラキラとしている。瞼の隙間から見える瞳は綺麗なエメラルド色。小ぶりなパーツたちに耳元で輝く……王家の紋章………………。
「っ……し、失礼致しました。レオン殿下にご挨拶申し上げます」
ぼーっとしていた佇まいを直して礼をする。
私の腕を離した殿下はニコニコとしながら「大丈夫だ、気楽にしてよ」と爽やかに言った。
なんでこんなところにいるのよ。
めちゃくちゃジロジロ見ちゃったじゃない……!ピアス、気づけてよかったぁ。
内心焦り倒した私は顔があげられない。
「今日は……君と話がしたいと思って来たんだ。よく、ここに来ていると聞いたから」
ああ、なんかお兄様が言っていたなぁ。アレ、本当だったんだ。
「えっと……私に何か御用がおありでしょうか?」
とりあえずすっとぼけてみる。
どうか私に興味もたないでください!
「えぇと、そういう訳じゃないんだけど、あのパーティ以来、見かけないから……少し気になって、ね?」
なにが、『ね?』だ。
同意を求めないで欲しい。
「良ければ、これから一緒にお茶なんてどうだろうか?今俺の離宮にある庭園ではガーベラやミニバラが綺麗に咲いている」
「いえ……わたくし今から騎士団へ用事が……」
「王都で流行りの菓子屋のケーキなども準備している。さぁ」
なにが『さぁ』よ!少し話を聞いて欲しい。
そしてさりげなく腰に手を回さないで!
そうこうしている間に訓練はとっくに始まっていて、どうしようかと視線をウロウロさせる。
困る、困る。二人きりでお茶なんてたまったもんじゃない。王族を楽しませる話題もないし、殿下と一緒にいては緊張でお菓子を楽しむ余裕もない。ドキドキする。粗相しないか心配で。
困惑したまま視線をあげると、殿下の十数メートル後ろに見慣れた黒い人影が立っていた。
クロード様……あ、時間になっても私が来ないから心配してきてくれたのかしら?
約束はしていないけど、今日来ることは告げていた。
嬉しくなって声を掛けようと手を挙げた時。
クロード様は酷く眉を顰めて私を見ると、そのまま何も言わずに踵を返した。悲しげな落ち込んだような表情だったことに何も言えなくなる。
え、もしかして、私が殿下と話していたから疑われた……?ご、誤解だよぉ!
泣きたくなった私はそのままレオン殿下に連れられ、気が付けばテラス席でお茶をしていた。
ステラに連れられ帰宅したあとも呆然としていた私は、殿下が何を話していたか、自分が何を言ったのかなんて一切記憶になかった。




