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転生令嬢は恋がしたい  作者: 海瑠トワ


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第26話

 どこで食事を取るかと聞かれ、食堂なんかがあるのかな?と思う。クロード様にいつもどうしているのか聞いてみたら、少しだけ考える仕草をして「こっちだ」と案内してくれるらしい。


 私に合わせてゆっくり歩いてくれる彼に着いていくと、そこは無骨な執務室のようだった。

 重厚な机の前には談話用のローテーブルと革張りのソファ。書類の積み重なっている机はインクやペンだけが置いてあり、無駄なものはない。


 クロード様の執務室かしら。


「座ってくれ」


 ソファに促されてそっと腰を下ろす。

 クロード様は慣れたように上着を脱いでシンプルなポールハンガーへかけた。


「紅茶でいいか?」


「あっ……私も手伝います」


 慌てて腰を浮かそうとすると「大丈夫だ」と言われ、ドアの前に気配を消して立っていたステラにも首を振られた。

 いつもはメイド用の待機場所にいるステラは、今日はちゃんと部屋の中まで着いてきている。さすがに婚約者でもないから二人きり、なんてまずいもんね。

 それでも気にならないのはステラのステルススキルが高いからなんだろう。忍者みたいだ。


 コト、と目の前にカップが置かれる。


「ありがとうございます。今日は料理人たちにお願いして作ってもらいましたの」


 お礼を言ってローテーブルの上のカゴを開けた。

 ふわりと香るいい匂いにふふっ、と笑う。


 今日のメニューは家庭のお弁当って感じ。

 おにぎりにタコさんウインナー、卵焼き、唐揚げ、ほうれん草とコーンのソテーとか。異世界ってお米がないイメージだったけど、この世界の人たちは普通に食べるみたい。パンの方が好きな人は多いみたいだけど。


 初めてこのお弁当を見た時は私はポカンと口を開けた。たこさんウィンナーとかおかか入りのおにぎりとか、絶対に前世日本人いるだろって思った。


「すごいな……」


「ふふ、沢山あるので好きなだけ召し上がってください」


 これだけあれば騎士であるクロード様のお腹を満たされるはず。沢山動いていたからお腹も空いているだろう。


 早速、とふたりで食べ始めた。

 やっぱりクロード様はお肉が好きみたい。唐揚げやミートボールを中心にパクパクと食べ進めている。

 口の中に入れるスピードは早いけど所作はすごく綺麗で上品。はぁ……素敵だ。夢中で食べる様子も少し子供っぽくて可愛い。


 クロード様を見ているとなんだか胸がいっぱいで小さく口を動かしながら内心で悶える。


 するとあまりにも見すぎたのか、私の様子に気づいたクロード様が恥ずかしげに目を伏せた。


「すまない……こういうとき何を話せばいいか……」


「いえ!全然構いませんわ!」


 んぐ、っと飲み込んで慌てて首を振る。


「私は見ているだけでも十分ですの。そうしてリラックスしていただけると、気を許してくれているようで嬉しいですわ」


「いや、でも、俺は貰ってばかりだ」


「そんなことありません、私だっていつも守っていただいてますもの」


 私と出かける時はさりげなく周囲を気にしているのを知ってる。私が楽しめるように案内をしつつ、怪しい人がいないか警戒してくれている。

 むしろ私の方が貰ってばかりだというのに。


「……あの、クロード様」


「ん?どうした?」


 優しげな声にドキドキと心臓が脈打っていく。


「よ、よろしければ、私の婚約者になっていただけませんか!?」


 祈るようにぎゅっと手を握ってしまう。

 熱があるのかと思ってしまうほど顔が熱い。


 言ってしまったことに恥ずかしくて、断られたらと思うと怖くて顔があげられない。けれど、しん、と静まり返った部屋で、何も言わないクロード様が気になって勇気をだしてチラリと視線をあげる。


「っ…………」


 彼はびっくりするくらい顔を赤くして目を泳がせていた。

 明らかに動揺している……。

 え、でも、嫌だとか拒否する空気じゃなくて、なんていうか、こう……どうしようとか、ほんとうに?とかそういう戸惑いや疑問の感情が強い気がする。


 これは、押せばいける……?


「今すぐ好きになって欲しいとは思っていません。もし、クロード様に将来を約束した女性がいないのであれば、私ではダメでしょうか?」


 どうか私を選んで欲しい。一生愛する自信はあるし、彼のためなら苦手なダンスも難しい勉強だって頑張る。今は私のことを好きじゃなくても、好きになって貰えるように努力する。

 だから頷いて欲しい。


 うるさいほどの心音が耳元で聞こえている。指先が震えているのを必死で隠して、狼狽えるクロード様をじっと見つめた。


 うっ、と言葉を詰まらせた彼は赤い瞳を揺らめかせている。

 未だに私の言葉が信じられないのかもしれない。

 子供の戯言だと思っているのかもしれない。


 どうしてもっと早く出会えなかったのだろう。彼がその優しい心に傷を負う前に出会いたかった。私が守ってあげたかった。


 悔しくなって俯くと、ハッとした様子のクロード様が慌てたように私の手を取った。


「す、すまないっ、ただ驚いただけで……だから、泣かないでくれ」


「ぅえ?」


 握られた手が熱い。見上げれば真剣な顔をしていた。


「婚約、については……少し時間をくれ」


 悩んでいるみたいだけど前向きな言葉に気分が上向きになる。「はい」と小さく返事をして指をちょんと握り返した。

 硬く大きな手が絶妙な力で私の手を包んでいた。

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