第24話 クロードside
「父上、母上、お話が――」
綺麗な庭の花を愛でながらお茶する両親へ声をかける。
帰宅して早々に見慣れたふたりの姿へ詰め寄ると、振り向いた両親は大きな声を上げた。
「あら!もう!クロード、やっと報告に来てくれたの!?待ちくたびれたわよ!」
「そうだぞ!今か今かと待ちわびていたんだぞ!」
「どうして教えてくれなかったのかしら!」
「クロードは恥ずかしがり屋なのだな!」
そう言って笑う両親はなにか勘違いをしている。
「いやっ……あの、話を――」
「分かってる分かってる、そう慌てるな!」
「ゆっくり居間でお茶でもしながら話しましょう!」
渋々、引き摺られるように場所を移動し両親と向かい合う。俺とは似ていない顔を綻ばせニコニコとしている。
なんと切り出すべきか……。
「それで、それで?きっかけはなんだったの?」
「……母上。落ち着いてください。今日はそんな話をしに来たのではありませんから」
「えぇー?だったらなんなのかしら?」
もういい年した大人だろう。そんな拗ねたように言われても……。
「俺と彼女はそんな関係じゃありません!……それよりも!俺は噂が流れないようにして欲しいと頼んだはずです。それなのになぜ、これ程までに社交界で噂されているのですか?」
俺はしっかり言っていたはずだ。良くない噂が流れたら困るから手伝って欲しいと。
「あら?」
「おや?」
俺の言葉にふたりは顔を見合せた。
そして小首を傾げて少し困ったように微笑む。
とても息が合っているが、今はそんな特殊な芸当を感心している場合では無い。
「どういうことですか?」
「どういう、っていわれてもねぇ?」
「なぁ?」
埒が明かない。
「あのですね……俺だけならまだしも、彼女に迷惑が――」
「いやねぇ、クロード。私たちがそんな意地悪するわけないじゃない!」
「は?」
母上がケラケラと楽しげに言う。
「そうだぞ!先方から『娘がおたくの息子を気に入ったから見守って欲しい』と言われたのでな!」
……どういうことだ。というか、交流があったのか?
揶揄うようにニヤリとした父上に若干苛立ちが募る。
「まぁまぁ、そう怒るな、お前に直接言っても断られると思っていたんだろう。な?」
お前なら断るだろう、と言われては何も言えない。
実際婚約の話になれば俺は断っていただろうから。
「はぁ……ですが、ここまで噂になってしまえば……」
俺が断りなどすれば彼女の経歴に傷がついてしまう。
未婚の令嬢が男とふたりで出掛けたなど、あまり歓迎されない話である。それも、告白など……。
いや、むしろそれを狙っている、のかもしれない。
まぁそれをしているのは彼女……ではないのだろうが。
「あら、クロード、あなた!お断りする気なの!?」
母上はどこまでも夢見がちなようだ。
「俺は美しくもなければ若くもない。精々いいのは剣の腕くらいで気の利いたことも言えやしません。今はそれで良くとも、いつか色んなものを見たときに後悔するでしょう?……彼女は俺でなくともいいのですよ」
そう、俺よりも彼女の横に相応しい人物は他にいるのだ。
「まぁ!あなたってこんなに意気地無しだったのね……」
「こらこら、そんなこと言っては可哀想だろう?クロードにも男のプライドというものはあるんだよ」
「でも……」
……散々な言われようである。
よしよしと母上を慰めるような父上。俺は何を見せられているんだ。
「………………とにかく、これ以上噂が広がらないように沈静化に手を貸してください」
はぁ、と呆れたように言えば、母上は心配そうな顔をした。
「それはいいけど……クロード、少しはご令嬢の気持ちも受け取ってあげなさい。あなたが信じられない気持ちは分かるけど……」
「……善処します」
すっかり冷めた紅茶を飲み干し立ち上がる。
「では、俺は騎士団に戻ります」
そう言って逃げるように屋敷を出た。
なんとなく、母上の口から出る続きを聞きたくなかった。モヤモヤとした霧のようなものが心の内側に広がって居座っているようだ。
そんな気分を振り払うように騎士団に戻った俺は模擬刀を手に深くため息をついた。




