第22話
「メル……そんな、魂が抜けたように……」
「ああ、可哀想にメル……っ!」
ソファの背もたれに寄りかかって呆然とする。
もう背骨なんか無くなってしまったのかと思うくらいちゃんと座れない。お兄様たちのよく分からない嘆きにも、今は答える気力なんてなかった。
あの日、カフェで憤慨した私は大きな声で告白未遂をしてしまった。
すぐに連れ出してくれたクロード様だが、その後は無言で馬車に乗せられ気付いたら屋敷へ帰ってきていた。
そう、彼は私の告白に対して何も言われなかった。
「…………やっぱり、そういうことかしら」
顔が赤かったのは単純な恥ずかしさ?それとも怒り?
私の気持ちを聞いて無かったことにされるって、多分、脈ナシってこと、だよね?
「ハァァァァ〜〜〜……もう無理、私ヒキニートになる」
もう何もする気に慣れない。
ずるずるとソファにだらしなく横たわればアレンお兄様が苦笑交じりに息をついた。
「僕としては大歓迎なんだけど、メルは本当にそれでいいのかい?」
「いいも何も仕方ないのですわ」
「諦めるにはまだ早いんじゃないか?」
「僕もそう思うな、だって、はっきりと断られたわけではないんだろう?」
「そうですけど……」
だからってどうしろというんだ。お兄様たちが悪いわけではないのにジトっと睨んでしまう。
「僕だったらこんなに可愛い子に好きだと言われて嫌になることはないよ」
「そうだぞ、嬉しく思っても嫌いになるなんてあるわけないだろう」
「……それはお兄様たちだからですわ」
「うん、そうかもね。でも彼も同じだと僕は思ってるよ。メルが嫌なら一緒に出掛けないだろう?」
くすくすと笑うお兄様は自信ありげで、何か確信があるみたいだ。
「ほんとう……?ほんとうにそう思う?」
クッションを抱きながらむくりと体を起こした。
「うん、だから今攻めないともったいないと思うんだ」
「もったいない……」
「うん、そう。だって、もし彼がメルを意識して距離を取ってる場合、メルが大人しくするのは逆効果でしょ?」
うーん、まぁ確かに。嫌だと言われたわけではないし、少なくとも妹みたいに思ってくれている気はしている。
それに彼は優しいから、情が湧けばいつか私に絆されてくれるかもしれない。
「そうよね……最初から両想いを目指すからダメなのよね」
「ん? メル?」
うん、そうよ。結婚してから好きになってもらえばいい話で、ひとまず私が目指すのは婚約者って立場。そもそも、貴族の婚姻は家の利益で結ばれるものなんだから、恋愛結婚を前提とするほうが間違っていたのだ。
もちろん最終的には好きになってもらえたら嬉しい。でも、それは追々でもいいわけで。
「うん、お兄様!私頑張るわ!」
立ち上がって宣言した私にアレンお兄様は少し残念そうな顔をして微笑んだ。
「何か盛大に思い違いをしている気がするけど、メルが元気になったからいいか」
「……いいのか?」
「ふふっ、それにもう私の気持ちは知られてるのだし、隠す必要もないってことよね!」
まぁ今までも大して隠してなどいないんだけど。でも、知られてるって思えば肩の力も少し抜ける。溢れ出そうだった彼への想いも無理やり飲み込む必要はない。
「そうだね。メルのしたいようにすればいいと思うよ」
元気に拳を握った私の頭をふわりと撫でるアレンお兄様。その後ろでブランお兄様はなんだか項垂れたように見えた。
「はぁぁ、無責任な発言だなぁ」
「うるさいよブラン。……いいんだ、なるようになるからね」
私の髪を耳に掛けながら、ふふっと笑ったアレンお兄様に小さくブランお兄様が呟く。
「……俺がこの世で敵に回したくない人は兄上だよ」
ふたりとも、仲良いよね。




