第21話
クロード様に連れられて訪れたのはオシャレな雰囲気のカフェ。
大きいガラス窓から取り入れられた陽の光が店内を明るく照らし、壁に飾られたレースやタペストリーが可愛らしい。店内は女性客が多く、人気の店であることが見て取れた。
でも……店内に足を踏み入れた時の視線。
なんか、嫌な感じがした。いや、クロード様が連れてきてくれたところに文句なんかないんだけど!けど、店内に入った瞬間に顔を顰めて後ずさるなんて、失礼にも程があると思うんだよね。
しかも、その後に入った私にしか話しかけない、なんて、どんな教育されてるの?
パーテーションで仕切られた席で、静かに怒り心頭の私を不思議そうに覗き込む彼は、先程のことを気にしていないのだろう。
……せっかくもてなしてくれてるのに、いつまでもこんな気持ちじゃダメよね。
気を取り直して微笑むと「気になるものはあったか?」と聞かれる。
目の前のメニューにはたくさんのスイーツの名前がずらりと並んでいる。桃のタルトにチェリーパイ、季節のフルーツパフェ……どれも美味しそうで悩んでしまう。
「これは困りましたわ……どれも魅力的ですわね」
真剣に悩み始めると目の前の彼は赤い瞳を少しだけ緩めた。その優しげな顔につい吸い寄せられるように見つめ合ってしまう。
ふわぁ〜……その慈愛に満ちた表情はなんですか!?聖母ですか!?そうですか!
ハァ〜〜〜……好き。
最初はそのご尊顔が素敵すぎて、あまりにも理想のルックスに惹かれただけだった。
でも、彼と話して、騎士としての誇りを大事にしているところも、少し後ろ向きだけど優しいところも、案外無邪気に笑うところも、凄くステキでかっこよくて大人の色気がして大好きだ。
心が洗われるような微笑みを受けて自分の想いを自覚した私はおずおずとメニューを指さした。胸がいっぱいで食べられるかしら……?
私の指先を確認して彼はスマートに店員さんを呼んで注文を済ませると「少し席を外す」と立ち上がった。
彼の背を見送ってハァ、と息を吐いた。
ダメだ……好きだと思った瞬間息が詰まるかと思った。心臓がドクドクと鳴って速まっていくのがわかるし、お腹の奥からギュってなってつい肩に力がはいる。きっと顔も真っ赤なんじゃないかなってくらい頬っぺたが熱いし。
私が悩ましげに頬杖をついた時。
「大丈夫ですか?」
聞き覚えの無い声が聞こえて顔を上げた。
私を見下ろす青年は暗めの茶髪に青い瞳で心配そうな顔をしている。
………………だれ?
「具合が悪そうに見えたのでっ!!」
「? 大丈夫ですわ。お気遣いくださりありがとうございます」
よく分かんないけど真っ赤な顔で心臓を押さえていたせいで体調が悪いと思われてしまったらしい。紛らわしいことして申し訳ない。けど、ただの萌えの過剰供給を食らっただけですから。
「先程の方が、怖いのですか……?」
「は?」
ん? なに? なんのこと?
「脅されている、とかでしたら……自分、知り合いに法に強い方がいるので」
「いえ、そんなんじゃありませんわ」
「ですが、貴女はお美しいので……そういったトラブルとかも……」
ヒソヒソと声を潜める青年に顔を顰めてしまう。
私が楽しそうに話していたのが見えなかったの?すごーく余計なお世話。先程のこともあって私の気分は急降下した。
「彼とはデート中ですので、あなたが気にすることなどございませんわ」
ツン、とそっぽを向いて言い切ると思いのほか大きい声で話してしまったらしい。途端に店内がザワザワとしだして「え……あんな醜い男と?」なんて声が聞こえてキッと睨みつけた。
「貴女ほどの綺麗な女性がなぜ、あのような……釣り合いが――」
続きを聞きたくなくてテーブルにバン、と手をついて立ち上がった。
「さっきから聞いていればなんですの?彼のこと知りもしないくせに貶めるのはやめてください!」
悔しくて俯いたままぎゅっと唇を噛んだ。
釣り合わなきゃ好きになっちゃダメなの?
「好きな気持ちは私の自由じゃない!?」
顔を上げた拍子にポロ……と零したものがテーブルにポタリと落ちれば、見開かれた赤い瞳が見えて「あっ……」と状況を悟った。
急激にサァァ……と頭が冷えていく。
え、嘘、いつからそこに?
今の、聞かれたよね?
どうしよう……。
ドクドクと音が鳴ってギュッと手を組む。
終わったわ………………。
こんな大勢の前で癇癪をおこして迷惑をかけるなんて。
すると、私の頭にふわりと何かが掛けられる。
途端にクロード様の匂いが濃くなってソロ、と見上げた。
…………………………え? 真っ赤。
そのまま耳まで赤い彼に腕を引かれて、頭から掛けられた上着を落とさないように着いていく。握られた腕が熱いし、この上着のせいで余計彼を感じてしまう。
なんだこれ。
混乱して一瞬で涙なんか引っ込んだ。
というかクロード様はどこまで行くんだろう?




