第20話
綺麗に整備された広い通りには馬車が行きかい、多くの若者で賑わっている。黄色や緑、ピンクといった色とりどりの屋根と楽しげに街を歩く人々の声。視界に映る色が多くて少しだけ目がチカチカとした。
貴族街といっても、ここは主に下級貴族と裕福な商家の子息子女が訪れる場所であり、高位貴族のお忍びでも利用される場所。
まぁ、だいたい、高位貴族になれば自分のお屋敷に呼びつけるものだしね。
「あれはなんですの?」
「ん? あぁ、あれは役所といって、例えば出店の許可だったり仕事の斡旋とかをしてくれるんだ。ギルドなども仕事の紹介はしてくれるが、こちらは主に貴族の家の使用人だったり、兵士や門番など紹介がないと就くのが難しい仕事を紹介してくれるんだ。もちろん身元の確認なんかは厳しいが」
私の指の先を目線で辿ったクロード様は先ほどから親切にこうして色々教えてくれている。
世間知らずで申し訳ない。でも、あれこれ知るのは楽しくてついつい次から次に指をさして首を傾げる。教えてくれる彼もいつもよりなんだか緩い空気で、いつも指導をする立場だからか人に何かを教えるのが案外好きなのかもしれない。
カラフルな店が立ち並ぶオシャレな街並みは見ているだけでも面白い。小さい頃に歩いたことはあるのだろうけど、もう何年も前のことで覚えてなんかない。
ガラス越しにぬいぐるみが並ぶ雑貨屋を眺め、おめかしした人々が楽しげに談笑するカフェをチラリと見上げる。
そんな子供丸出しの私をクロード様はじっと見ていた。
その視線にハッとしてあわあわとしてしまう。
「ご、ごめんなさいっ、私、ひとりではしゃいじゃって……っ!」
「いや、いいんだ。楽しんでくれているようで何よりだ」
優しすぎませんか。
彼からしたら見慣れた光景なのに私に合わせてゆっくりと歩いてくれている。私の視線が移る度に、足を止める度に彼も一緒に付き合ってくれる。
それで今の言葉でしょ?
はぁぁぁ……カッコよすぎるよ。
ときめきすぎて語彙がどこかへ行っちゃうよ。
私……貰ってばかりだよね、何かお返し出来ないかなぁ。でも私ができることなんてたかが知れてるよね。
今度お兄様に相談してみようかな。
「いつもありがとうございます。最近はお父様も嬉しそうですの」
私がそう言うとクロード様は不思議そうな顔をした。
「お父様は私が外に出られないことを気にしていたのですわ。私としてはそこまで気に病むことでもないと思っていたのですが……」
良くも悪くも注目を集めてしまう容姿のせいで不自由が多かった。
それに対してお父様は私の見えないところで悩んでいたのを知っている。私が寂しい思いをしないように屋敷の中では自由にさせてくれ、過保護な程私に構い倒していた。
今度は街を歩くのだと、クロード様とのお出かけの話は少し複雑そうな顔をしながらも、計画を伝えるとホッとしたような顔をしていたのを思い出す。
「……キミは疎ましく思ったりしないのか?そういった、他人の視線も声も」
恐らく私に対する人々の反応のことだろう。今もチラチラと視線を感じるものね。
私の隣を歩く彼は当然その視線を感じ取っていることだろう。
「そうですね、そう思うこともありましたけど、気にしていてもしょうがないんですもの。 そんな他人のことよりも、私は今日のおやつの方が気になりますし、好きな小説の続きの方が知りたい。知りもしない他人のことを気にする余裕なんてないんですの!」
他人の声なんか気にしない。私は私のことの方が大事なのだ。
胸を張って言い切ると添えていた手に振動が伝わってきた。なんだろうと見上げると、クロード様は耐えきれなかったというように口元を押さえて笑った。
うっ、少しおバカな発言だったかも……。おやつの話はしなくてよかったのに。
今になって恥ずかしさがこみ上げてくる。
「うぅ、子供っぽいのは分かっていますが、そんなに笑わないでくださいませ……」
「ふは、くくっ、いや、いいと思う。可愛らしいよ」
なんだか揶揄われている気がして顔に熱が集まる。
「わ、笑いすぎですわ!」
文句を言いながらも嫌な気持ちにならないのは、彼が私の前で飾らないそのままでいてくれるからなんだろう。
いや、乙女としては笑われているのは複雑なんだけどさ。
ひとしきり笑い終えたクロード様は「お詫びに今日のおやつをご馳走しよう」といってにやりと笑って見せた。
そんな姿もかっこよくて、大人しく手を取られながらついときめいてしまったのは秘密だ。




